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第二話 男爵と冬の足音

 呆気に取られたキャロルとビルを前に、俺はわざと顔をしかめて見せた。


「ビル、屋敷で働きたいと思ったのはいつだ?」

「工事が始まった時くらいだよ。あそこで働けたらいいなって」


「ということは使用人を募集していたことも知ってるよな?」

「あっ……」


 そこでキャロルも俺の言わんとしていることに気づいたようだ。彼女は小さな声を上げたが、ビルにはそれが聞こえなかったらしい。


「うん……」

「どうしてその時に応募しなかった?」


「だってまだ成人してなかったし、近くなってからハルト兄に言えば雇ってもらえるかなって……」

「つまりお前は楽をしようとしたわけだな?」

「おにいちゃん、ビルはそんな子じゃないよ」


「キャロルはこう言ってるが、どうなんだ、ビル?」

「それは……」


「応募してきた人たちのほとんどが、明日食べる金にも困っているような状況だった。だが彼らを全員雇うわけにはいかない。分かるな?」

「うん……」


「俺たちはそんな彼らの多くを不採用としなければならなかった。キャロルはな、泣きながら何度も全員の採用を俺に願ったんだぞ。その気持ちがお前に分かるか?」

「……」

「ビルくん……」


「とは言え、だ」

「え?」


「屋敷では雇えないが、チャンスをやろう」

「ハルト兄、チャンスって?」


「そのうち近くに宿屋が出来る」

「あ、キラカラン商会!」


「そうだキャロル。宿屋のオーナーは俺だが、経営の一切はキラカラン商会という、キラカラン男爵の令嬢が会頭を務める商会に一任することになっている。そこに紹介してやるから、見事採用を勝ち取ってこい」

「わ、分かった!」


「おにいちゃん、雇ってって頼んであげるじゃないんですね」

「それをしてビルのためになると思うか?」


「ううん。私もおにいちゃんの意見に賛成です。ビルくん、頑張るんだよ!」

「分かったよ、キャロル姉。ありがとう、ハルト兄!」

「おう」


 そして翌日、俺はキラカラン男爵邸を訪れた。相手は貴族なので、まずはアポ取りのための訪問だったのだが、そのまま応接室に通されてしまったのである。

 キャロルはお留守番だ。


「お待たせ致しました。キサラギ様、ご紹介致しますわ。こちらが父のクリストフです」

「クリストフ男爵閣下、お会い出来て光栄です。ハルト・キサラギと申します」


「堅苦しい挨拶などいらんいらん。ささ、遠慮なく掛けてくれ」


 四十代半ばに見える男爵は、軍人を名乗られても疑う余地がないほど大柄で筋骨隆々だった。着ている服もラフなシャツに半ズボンだったから、余計にそれが浮かび上がっている。


 初対面でその格好はどうなの、と思ったが、考えてみればこちらは突然押しかけてきた身だ。しかもまさか屋敷内に通されるとは思っていなかったので、俺も外を歩いておかしくない程度の普段着である。


 男爵であり、他国の親善大使の前に出ていい服装ではない。それを咎めもしないのはキラカラン家の家風なのか、それともメイテノ帝国の風習なのか。


 ちなみにラミア嬢は、鮮やかなコバルトブルーのドレスを身に纏っている。


「そういやあの爺さんもこんな感じだったもんな……」


「ん? あの爺さんとは?」

「あ、いや、失礼致しました」


「キサラギ様、申し訳ありません。父上さまは来客の予定がない限り、屋敷の中ではいつもこんな格好で……」


「いえ、突然やってきたのがいけないのです。それなのにこうして会って頂けているのですから、むしろ感謝しかありませんよ。私も普段着ですし」


 それに比べてラミア嬢は隙がないな。ま、貴族女性が見た目に気を抜くなんてあり得ないのかも知れない。


「時にキサラギ殿、レベルはどのくらいかな? 私は95だ」

「えっと……」

「ああ、別に答えたくなければ答えなくともよい」


 レベルは信頼のおける相手以外には秘匿すべき情報である。何故なら自分より低いと分かれば、無理矢理従属させることも出来るからだ。


 それにしても男爵のレベルが95とは驚きだよ。レベル50で二百人の一個中隊を指揮出来る、つまり基本的に軍の指揮官を任せられるレベルということである。


 それが95とは、この人も相当な経験を積んできたと言わざるを得ない。普通の人なら一生かかって到達出来るか出来ないかのレベルが50なのに、それを軽く凌駕しているんだからな。


 ところが彼は考えにふけっていた俺の不意を突いてきた。


「キサラギ殿、貴殿は召喚者なのか?」

「は?」

「父上さま?」


「いや、名前の響きが勇者殿たちに似ているからな。もしやと思ったのだが」

「彼らをご存じなのですか?」


「ご存じも何も、私のレベルはパーティーに加えてもらって上げたものなのだよ」

「なるほど。それで95ですか」


「してどうだ? 私の勘は当たっているか?」

「ご慧眼恐れ入ります」

「やはり!」


「え? え? キサラギ様、本当なのですか?」


「隠すことではありませんからね。称号やレベルに関してはお話し出来ませんが、そのくらいでしたら」


 かなり話がずれたが、そろそろということで本題に入らせてもらった。


「というわけなんですが……」

「つまりその方を当商会で雇ってほしいと?」


「いえ、面接を受けさせてやって頂きたいだけです。採用するかしないかは商会にお任せします」

「でもキサラギ様の紹介でしたら間違いないような気も致しますわ」


「買い被らないで下さい。私は彼を落としましたから。もっともうちは定員オーバーでしたし、身内だからと彼には甘えもあったのでしょう」


 そこでビルとの一件を二人に話して聞かせた。


「なら本当に特別扱いはしなくてもよいのですね?」

「ええ、構いません。それもまた彼の成長に繋がるでしょうし」


「勇者殿たちもそうだが、召喚者の気遣いは我々帝国貴族も見習わなければならんな」

「いえいえ、この世界の多くの人たちから私も親切にしてもらいましたから」


「ふむ。どうだろう、キサラギ殿。娘を嫁にもらってやってはくれんか?」

「は?」


「ち、父上さま! キサラギ様にはご婚約なさっている方がいらっしゃいますのよ」

「なんと!」


「あ、言ってませんでしたが、彼女とは正式に結婚しました」

「まあ、そうでしたの? おめでとうございますわ」

「ありがとうございます」


「それは残念なことだ。妻君は貴族の出身なのか? ならば娘は側室でも構わんよ」

「父上さま! キサラギ様、お気になさらないで下さいませね」


「あははは。私にはそんな甲斐性はありませんので」


 その後、男爵からミオたちがどうしているのかを聞かされた。彼らはなんと魔王の国からの帰りにメイテノ帝国に寄り道し、あの爺さん、皇帝トルキネス・サミュエル・メイテノに気に入られてそのまま滞在しているのだとか。


 居場所くらい聖帝に知らせてやれよ。ま、そのお陰で召喚部屋をぶっ潰すきっかけにはなったけど。


 とにかくそれからもしばらく雑談に付き合わされて、男爵邸を出たのはすっかり陽が落ちた頃だった。近頃はめっきり日が短くなったものだ。


ストック切れました。

夜勤真っ只中なので、次回更新は多分数日後になります。

週末にでもまた覗いてみて下さい。

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