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第三話 ミニスカシスターとコブたち

 訪れた先は確かにコブ付きだった。しかもたくさんのコブ、コブ、コブ。


 コブだらけじゃねえか。



「あの、どちら様でしょうか」


 そこに現れたのは、修道女のような姿の少女だった。年齢は十五、六歳くらいに見える。身長は協会のドロシーよりは少し高いようなので、百五十五センチほどだろうか。


 紺碧(こんぺき)の髪に水色の大きな瞳が印象的で、胸は決して巨乳とは言えないが、修道服の上からでもそこそこの膨らみが感じられた。


 四肢は細く腰もキュッと締まっていて、膝上丈のスカートがよく似合っている。というか修道服なのに何故膝上丈なのかは謎だが、裾にフリルも付いていてそこはかとなくエロい。

 いや、それが修道服だからこそエロく感じられるのかも知れない。


 うん。ハッキリ言ってめちゃくちゃ可愛い。


「あの……」

「あ、すまん」


 彼女を見つめたまま妄想インしてしまったせいで、何となく不審に思われたようだ。


「生活協会から紹介されてきたんだが……」

「あ、もしかして()()()()()()の方ですか?」


「そう、それ、住み込み……住み込みぃ?」


 そう言えば生活協会の担当者、確かグレイソンとかいう名だったが、彼は家賃が不要な代わりに毎月寄付金として小金貨が二枚必要だと言ってたな。

 それって賃借ではなく、寄付金払って住み込ませてもらうってことだったのか。


 しかし、だ。俺にとっては家賃だろうが寄付金だろうが関係ないと思ったが、ここはまさしく教会じゃねえか。しかも建物がかなり古い。


 石造りで頑丈そうではあるが、あちこちにひび割れが入ってところどころ崩れかけてもいる。窓は板で塞ぐタイプなのにその板が朽ちているので、吹き込むのは隙間風なんて生ぬるいものではないだろう。


 だが、問題はそこではない。それだけなら、この可愛いいシスターと同居という代償さえあれば我慢出来る。


 寒い日は抱き合って暖め合うなんて、想像しただけでも鼻血が出そうだ。彼女が望むなら朝晩の祈りだって捧げよう。


「リリー、このオジサンだぁれ?」

「こらポピー、オジサンなんて言っちゃだめよ」


 シスターはリリーというのか。


 じゃなくて問題はこれだ。そこにはポピーと呼ばれた五歳くらいの女の子を始めとして、七、八人の子供たちが集まってきていたのである。

 しかも全員、着ている服が見窄(みすぼ)らしい。


「私はこの人とお話しがあるから、皆と中庭で遊んでらっしゃい」

「えー、リリーも遊んでくれなきゃやだ!」


「そうだそうだ!」

「やんややんや!」


「もう! 言うことを聞いてくれないと、おやつ抜きだよ」

「うっ、分かったよぉ」


「子供たちがすみません。あまりきれいなところではありませんが、中へどうぞ」

「あ? あ、うん……」


 彼女に勧められるままに後を付いていくと、建物の中は意外に広く、飾り気はなかったが掃除は行き届いていた。どうやらここは礼拝堂のようだ。


 ただ、外観と同様にあちこちがボロい。


 そのまま礼拝堂の奥に進み、やがて俺は集会室と書かれた部屋に通された。木製のテーブルに椅子が六脚、どれもかなり年季が入っている。


「建物が古くて驚かれたでしょう?」

「いや、その……」


「この教会は元々ルーミリン聖教の直轄だったんですが、少し前に司祭が寄付金を持ち逃げしてしまったんです」

「……」


「それで信徒さんたちからそっぽを向かれてしまい、司教様も来て下さらなくなって……」

「とすると、今は教会ではなくなってしまったと?」


「そういうわけではありません。ただ、主神様に祈りを捧げることは許されてますが、聖教行事を執り行うことは出来ないんです」


 彼女によると行事は司祭以上の役職者でなければ執り行えないそうだ。そしてこの教会には司教が来ない。司教が来なければ次の司祭が任命されることもないのである。


 さらに司祭になれる人材もいなくなってしまったため、この教会は事実上、ルーミリン聖教から見放されているのだという。


 要するに信徒にそっぽを向かれて、寄付金が集まらなくなったためだろう。

 隣人を愛しましょうなんて教義が聞いて呆れるよ。


「ところでさっきの子供たちは?」

「親を失ったり捨てられたりした孤児です」


「聖教から見放されたのなら運営はどうしてるんだ?」


「私と、あと二人シスターがおりますので、お互いの蓄えを切り崩して何とか……」

「それで生活協会に賃借人の募集を出したのか」


「あ、いえ、募集したのは賃借人ではなく住み込みの方ですよ」

「大して変わらないんじゃないか?」


「違いますよ。だってお食事はお出ししますし」


「いや、待て待て。家賃……じゃなくて寄付金だったか。毎月とは言えたったの小金貨二枚じゃないか」


「ほとんどの食材は自給出来ますので、必要なのは調味料や子供たちのおやつ代くらいですから」


 教会の裏手には結構な面積の畑があり、そこで色んな作物を育てているそうだ。しかも自分たちで消費する以外の作物は市場で売っているらしい。


 だから贅沢さえしなければ、生活に困ることもないという。


「その代わりきれいな着物や玩具(おもちゃ)なんかは買ってあげられないんですけど」

「なるほど。しかし生活出来るなら賃借人……住み込みを募集する必要もないんじゃないか?」


「それがシスター三人と子供たちだけでは困ることも多くて。

 だから住み込んで下さる()()()()()()をお願いしたんです」

「は? 真面目な?」


「はい。ここには私を含めて年頃の女の子が三人いますし、あとは子供たちだけなので、(よこしま)な考えを持っている方だと困りますから」


 さっきめっちゃ君と抱き合うところを想像してました。ごめんなさい。


「でも生活協会から来られたなら安心ですよね。事前に説明も受けてるでしょうし」


 グレイソンの野郎からは何も聞いてませんけど。


「お部屋はちゃんと一人用を用意します。

 男手が必要な時以外は何もしなくても構いません。

 夕食までにお戻り頂ければ外出も問題ないですよ。

 一応どこに行くかは知らせておいてほしいですけど」


「冒険者協会の依頼とかは請けてもいいのか?」

「もちろんです。寄付金稼ぎですよね?」

「ん? ああ、そうなるね」


「でしたらあの、えっと……そう言えばまだお名前を伺ってませんでした。

 私はリリー、リリー・ホワイトと申します。十六歳です」

「ハルト・キサラギ、二十一歳だ」


「ハルトさんですね。ハルトさんは魔物や獣を狩ったりされるんですか?」


「俺でも請けられる依頼があればね」

「そうですか!」

「うん? どうかした?」


 リリーの瞳が何やらキラキラと輝いているように見える。


「いえ、その、よろしければなんですが……」

「ん?」


「ダブルヘッドボアとかを狩られたら、少しだけお肉を分けて頂きたいな、なんて……」

「ああ、確かにあれは美味(うま)……いって聞くよね」


 いかんいかん。ダブルヘッドボアは頭が二つある猪の魔物だが、本来レベル3程度の冒険者が狩れる相手ではない。


「あはは……期待させたようで申し訳ないけど、俺まだレベル3だからさすがにダブルヘッドボアは無理かな」


「え? ハルトさんってレベル3なんですか?」

「そうだけど?」


「一体どこの箱入りお坊っちゃんなんですか!?

 何となく強そうに見えたのに二十歳過ぎててレベルが3だなんて!」

「あはは、悪かったな」


 召喚されてレベルがクリアされちゃったんだよ。


「私だってレベルは10ですし、さっきのポピーでさえレベル3ですよ!

 まさかハルトさんのレベルがポピーと同じだったなんて……」


「いや、なんかごめん。住み込みは他を当たってもらった方がよさそうだね」


「あ、それはそれ、これはこれです」

「何だそりゃ」


「ダブルヘッドボアは残念ですけど、それよりも男手が必要なので、ハルトさんがよければ住み込んで下さい」


 レベル3なら変なことをされそうになっても負けないでしょうし、との呟きは聞こえなかったことにしておこう。


「ま、俺としても他に条件に合う物件はなさそうだし、それなら住み込ませてもらうことにするよ」

「本当ですか!? よかったぁ!」



 それから俺は自分に割り当てられた部屋に案内され、他の二人のシスターが戻ってくるまで休ませてもらうことになった。


 そしてこの時からコブ、つまりシスターや子供たちとの交流が始まるのであった。

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