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第四話 女心と全身脱毛

「おにいちゃん、起きて下さい」


「んん? キャロル……朝からおねだりか? 可愛い奴め……」

「んっ! ち、違いますってば! はぁん!」


 屋敷に住むようになってから、俺は毎晩キャロルを可愛がっている。最近は彼女も色々と目覚めてきたようで、催促してくることもあるくらいだ。


 そういえば元からイチャイチャするのが好きだったみたいだしな。この分だとすぐに子供が出来てしまうかも知れない。


 そして彼女は俺を拒むことはないから、朝から楽しんでしまったのだが――


「もう、おにいちゃん!」

「どうした?」


「どうした、じゃありません! 起きて窓の外を見て下さい!」

「窓の外?」


 言われて裸のままでカーテンを開けると、屋敷の外、正確には領地を囲う壁の向こう側に行列が出来ているのが見える。それに続いて部屋の扉をノックする音が聞こえた。


「旦那様、奥様、お目覚めでしょうか」

「ハワードか。服を着るからちょっと待ってくれ」


「かしこまりました。エントランスにてグランツ司祭様がお待ちにございます」

「分かった。すぐに用意する」


 思ったより早かったな。実はオリビアが冒険者協会でガルムの骨折を治した直後から、礼拝に来る人がちらほらと増えていた。しかしあれからまだ一週間程度しか経っていない。


 いずれは行列が出来ると思っていたが、まさかこんなに早くその日がやってくるとは予想外だったよ。


「グランツ司祭、待たせて済まない」

「いえ、朝から申し訳ありません」

「外の行列の件だよね」


「はい。礼拝に訪れている方がほとんどなのですが、中に何人か怪我をしているという人がおりまして、シスターの祈りを請われているのです」

「怪我をしているという?」


 妙な言い回しだな。


「女性ばかりなので、男性の私が患部を見せてくれとは言い難く……」

「ああ、なるほど」


 それならということで、祈りの希望者を応接室に通し、シスターの誰かに患部を確認させるようにと伝えた。それを聞いてから俺が治療可能かどうかを判断するわけだ。


 もちろん俺には基本的に治せない怪我はない。だがこの先、シスターたちが自分で治癒魔法を使うようになったら、治せない怪我や病気も出てくるだろう。そのために見極めが必要なのである。


 前は治せたのに、今回は治せないとはどういうことなのか。寄付を多くすれば治してもらえるのか、などといった誤解はまずいからだ。


 そしてしばらく待っていると、リリーが状況を伝えに来てくれた。ところが――


「ハルトさん。お祈りは不要です!」

「は? どういうこと?」


「怪我人なんて一人もいませんでしたから」


「えっと、それじゃなんで嘘をついてまで希望したのかな」

「実はですね……」


 理由を聞いて正直驚いた。

 希望者は全員女性。その彼女たちの本当の目的は――


「シスター・オリビアは冒険者協会で男性の骨折を治したことになってますよね?」

「その通りだ。間違いない」


「彼女たちは見たって言うんです」


「見た? あの現場に居合わせたってことか?」

「いえ、治療後の男性の腕です」


「腕? それが祈りの希望と何の関係が? 骨折している人もいないんだろう?」


「問題はそこではなく、男性が元は毛むくじゃらだったというところです」

「ん?」


「その彼の治療された腕が、どういうわけかツルツルのお肌になっていたと言うんですよ」

「え? それじゃまさか……」


「目的は全身脱毛でした!」

「はあ?」


 ガルムの腕にはあれから産毛すら生えず、今でもツルツルだそうだ。永久脱毛オプションを付けて治癒魔法を使ったから当然である。


 ところがそれが元で、シスターの祈りにより肌がツルツルになるとの噂が、主に女性の間で広まっていると言うのだ。お陰で当事者であるガルムは、話を聞きに来る女性にモテモテという、メシマズ情報まで知る羽目になってしまった。


「全く……そうだなぁ。そもそも祈りは怪我や病気を癒やすためのものだから、それがなければ力が文字通り全身に行き渡るので、髪の毛どころか眉毛も睫毛もツルツルになると言って脅してやれ」

「それでもいいと言われたらどうします?」


 この世界の女性にとって、髪は命の次に大事と言っても過言ではない。それはシスターたちも同じで、三人とも自分の髪を非常に大切に扱っているのだ。

 だから髪がなくなるのを許せるとは到底思えないのだが。


「その時は本当に全身を永久脱毛してやるさ」


 結局女性たちは、寄付もせずに肩を落として帰っていったそうだ。その後しばらくの間、同じ理由で祈りを望む女性がやってくることになるのだが、頭も顔も永久脱毛されるという噂が流れることによって、次第に数を減らしていった。


 ところがキャロルがその話を誰かに聞いたらしい。そろそろ寝ようかとベッドに入ったところで、こんなことを言い出した。


「ねえ、おにいちゃん」

「うん?」


「本当のところはどうなんですか?」

「本当のところって?」


「全身脱毛です。実はちゃんと髪の毛とかを残せるんじゃないですか?」

「ああ、出来るよ」


「やっぱり! お願いします!」

「は?」


「私も女の子ですし、おにいちゃんに少しでもきれいな自分を見てもらいたいですから」


 キャロル、なんて可愛らしいことを言ってくれるんだよ。


「ははは。今のままでもキャロルの肌はツルツルのスベスベだからきれいだし、触り心地も最高なんだよ。それなのにこれ以上よくなったら一日中触りまくることになるぞ」

「おにいちゃんに一日中触られまくり……きゃっ! ぜひお願いします!」


 戻そうと思えばいつでも戻せるし、キャロルが望むならいいか。


 そして頭と顔以外を全身脱毛した後は、思った通り触り心地がとんでもないことになってしまった。その日は朝まで彼女を寝かさなかったのは言うまでもないだろう。

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