第六話 バーベキューとコルタ村
すみません。
ちょっと更新遅れました(^_^;)
「お疲れさん」
領地を囲う壁の施工に来ていた職人は四人。来週にはもう少し人数が増えるそうだが、最初は大勢いても出来る仕事が少ないのでこの四人とのことだった。
彼らは初めて目にするバーベキューセットに興味津々のようだ。職人としての血が騒ぐんだろうな。
「ハルトさん、これはいったい何です?」
「まあ見てなって。それより皆揃ってるか?」
「はーい!」
子供たちが元気に声を上げる。七歳になったポピーも皿を手にして飛び上がっていた。
そこへシスター三人とキャロルが、適度な大きさに切られた肉や野菜を大皿で持ってくる。立食が基本だが、落ち着いて食事を楽しめるように木製のテーブルと椅子も用意されていた。
その大きなテーブルの上に食材が並べられ、バーベキューセットの木炭に火が入ればスタートだ。
網の上に次々と並べられていく野菜と肉たち。少々大きめに切られているのは、バーベキューではその方がより美味しく感じられるからである。
もちろん小さな子供が食べやすい大きさに切られた物もあるぞ。
そして香ばしい香りが辺り一面に広がり始めた頃から、食材の争奪戦が始まった。
「さ、職人さんたちも遠慮なくどうぞ」
オリビアが和やかに言うと、よほど若い女の子に耐性がないのか、四人とも真っ赤になっていた。だが諦めた方がいいぞ。シスターたちはすでに既婚者だからな。
神様とだが。
「塩はかけすぎるとしょっぱくて食えなくなるからほどほどにな」
「分かりました」
「一応下ごしらえしてありますから、まずはそのままでどうぞ」
「リリーは食べなくていいのか?」
「はい。私たちは順番ですので」
なるほど、よく見ればレイラだけが皿を片手に食材を口に運んでいる。今はオリビアとリリーの二人が料理と給仕の番というわけか。
「う、うめえっ!!」
「なんだこりゃぁ! こんなの食ったことねぇ!」
「ダメだ、止まらねぇ!!」
「ぷはぁっ! 酒ともよく合うぜ! これならいくらでも飲めるし食えるな!」
肉も野菜も山ほど買ってきたから、彼らがどれほど大食いでも尽きることはないだろう。それにしてもさすがは見た目が厳つい職人だ。飲みっぷりも食いっぷりも豪快の一言に尽きる。
「おにいちゃん」
「ん? どうした、キャロル」
「あんまり飲みすぎたらダメですよ」
「あはは、そう言えば二年前を思い出すよね」
「二年前ですか?」
「キャロルが妊娠したって騒い……ふごっ!」
「もう! 忘れて下さいぃ!」
キャロルに焼き上がったばかりの肉を無理矢理口に入れられてしまい、俺は目を白黒させていた。当の彼女は顔を真っ赤にして、涙目になりながら俺を睨んでいる。
「おお、何やらよい匂いがすると思ったら宴会じゃな?」
そこへ現れたのはコルタ村の村長トーマスと、あれは確かバルジだったかな。
コルタ村とは寄付金の件で一悶着あったものの、和解してからはいい関係を保っている。トーマス村長はたまにひょっこり教会にやってきて、シスターたちと茶を飲みながら談笑しているくらいだ。
「ところであの壁のようなものはなんじゃ?」
「ああ、そう言えば話してなかったか」
よくよく考えてみればコルタ村の土地も俺の物になったんだよな。新しく出来た村のことばかりに気を取られて村長に話すのを忘れていたよ。
もっともコルタ村は俺がこの世界に来る前からあったから、村民から土地の使用料を取るつもりはない。
「というわけで、この辺り一帯の土地は俺が買い取ったんだよ。壁で囲おうとしているのは俺の領地だ」
「りょ、領地だって!?」
「バルジよ、お前は知らんかったじゃろうが、教会の周囲は皇国の管理地でな」
二等と三等の違いはあるが、コルタ村を含めた一キロ四方が管理地だぞ。
「しかしこれで合点がいったわい」
「合点?」
「露店商から苦情がきておってな。商売したければ売り上げの一割を土地の使用料として払えと言われたと」
「ああ、なるほど。しかしこっちには正式な土地の権利証がある。ただ、その件ならもう納得してもらえたと思ってたんだが……」
「納得しとらん者もおるということじゃて」
村長によると、妥協案としてコルタ村内に露店を出させることも考えていたようだ。
「じゃが村もハルトさんの土地となると……」
「ああ。使用料は必要だ。なあ村長さん」
「なんじゃ?」
「この辺に店を出せば、近い将来必ず儲けられる。理由はまだ話せないが……」
「理由を言えないなんて、そんな眉唾な話を信じろってのか?」
「バルジ、お前は黙っておれ。教会が新しくきれいになって司祭様が来られて、確かに礼拝に訪れる人が増えたのは分かる。じゃがそれだけで必ず儲けられると言われてものう……」
「ま、伸るか反るかは好きにすればいいさ。ただ、後悔だけはしないようにすることだ」
しばらく考えさせてほしいとのことだったので、二人はそのままバーベキューに参加することになった。バルジの奴め、文句言ってた割にはちゃっかりしてやがる。
それから一週間ほどして、ルドルフの事務所から屋敷の見積書が届いた。そこに記載されていた必要経費の額を手形に記載して遣いの者に渡すと、さらに一週間後には職人たちが資材と共にやってきたのだった。
次話より『第六章 治療院』に入ります。




