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第四話 治療院と新居

「よう、グレイソン」

「は、ハルトさ……ん……?」


「なんだ、どうした?」

「そ、そそそ、そちらの女性は……?」


 やはりそうだったか。グレイソンはキャロルを見て真っ赤になっていたのだ。


 さては見蕩れやがったな。面白そうだから少しからかってやるか。俺がキャロルに話を合わせるように耳打ちすると、彼女はクスッと笑って小さく頷いた。


「この子はキャロルってんだ。俺の従妹だよ」

「は、はじ、はじめましゅて、キャロルさん!」


「グレイソンさん、初めまして。いつも従兄(おにい)ちゃんがお世話になってます」


 お、なんかおにいちゃん呼びいいな。ハルトさまって呼ばれるよりずっと親密感があるぞ。


 それにしてもグレイソンの奴、噛みまくってやがる。いい歳したオッサンが、気持ち悪いったらありゃしない。そう言えばコイツいくつなんだろう。別に興味はないから聞くつもりもないけど。


「お、お兄さん!」

「誰がお兄さんやねん!」


「あ、あの、キャロルさんはその、どなたかとお付き合いされてたりとかは……」


「うふふ、内緒です」

「かはっ!」


 人差し指を立てて唇に当て、少し前屈みで答えたキャロルの可愛さは大量出血レベルだ。そんな姿は俺だけに見せてくれればいいよ。グレイソンなんかにはもったいない。


「グレイソン、鼻血拭け」

「はっ! いや、失礼」


 それから彼が落ち着くのを待って、俺は本題を切り出した。相変わらずキャロルをチラチラ見て、身が入っていないようではあったが。


「キサラギ領から皇都までは、今ある道を幅六メートルに広げるということでしたね」

「ああ。ただし俺の土地の部分だけな。その先は手が出せないだろ」


「はい。皇国の直轄領ですからね。現在の道幅はだいたい三メートルですから、そちらからだと急に狭くなりますが」

「仕方ないだろ」


「あはは。それからオルパニー方面には道幅四メートルでしたね。こちらは少し広げる程度で済みそうです」

「人は集まりそうか?」


「すでに殺到してますよ。なんと言っても一日八時間労働で日当が銀貨八枚ですから」


 銀貨八枚は日本円で約八千円だが、この世界での同じような仕事の相場からするとほぼ倍である。集まらないわけがないだろう。


「お従兄ちゃん」

「うん? どうした?」


 ああ、もう抱きしめたい。


「どうして道を広げるのですか?」

「治療院を造るって話はさっきしたよね」

「はい」


「そうすると少しでも教会の近くに住みたいと、村の住民が増えるだろ?」

「増えると思います」


「そのうち貴族もやってくるだろうし、彼らは馬車を使うからね。道幅が狭いと危ないからさ」

「なるほど、そういうことですか! さすがお従兄ちゃんです!」


「あの、ちょっといいですか?」


 グレイソン、今はキャロルと楽しくお喋りしてるんだから、割って入るんじゃねえよ。


「ああん?」

「治療院というのは初耳なんですが……」


「ああ、そう言えば言ってなかったな。コルタ教会の礼拝堂で治療院を開こうと思ってね」

「そんな勝手に……大丈夫なんですか?」


「教会の奉仕活動みたいなものさ。グレイソン司祭も何も言わなかったし問題はないだろう」

「そ、そうですか……」


「ま、実際に始めるのはもう少し先かな。だからまだ内緒にしておけよ」

「お願いしますね」


「は、はいっ! きゃ、キャロルさんがそう言われるなら誰にも喋ったりしません!」

「ありがとうございます」


 キャロルめ、楽しんでるな。見ろよ、グレイソンの鼻の穴が大きく広がって息が荒くなってるじゃないか。


「ああ、それと……」

「ああん?」


「おい、グレイソン、そのああんは誰に向かって言ってんだ?」

「あ、いや、すみません」


 コイツ、さっきの俺と同じだってか。そろそろバラすとしよう。


「まあいいや。俺の領地に家を建てたいんだけど、誰かいい建築士紹介してくれねえか?」

「家を建てるんですか?」


「キャロル、俺たちの新居だよ」

「えっ!!」


 今度はキャロルが真っ赤になったが、グレイソンは意味が分からないという表情で呆けている、


「新居って、どういう意味ですか?」


「そのまんまだよ。悪いな、グレイソン。キャロルは俺の婚約者だ」

「は? いや、待って下さい。さっき従妹だって……」


「お前がキャロルに見蕩れてたから、ちょっとばかりからかっただけだ」

「そんなぁ……」


「うるせえ。情けない声出してんじゃねえよ」

「うふふ。グレイソンさん、ごめんなさい」

「キャロルさんまで……」


 それからしばらく不貞腐(ふてくさ)れていた彼だったが、何人かの建築士を紹介してくれた。俺はその中で報酬が桁外れだが最も腕がいいという、ルドルフに会ってみることにしたのである。


「オリビアたちと落ち合うにはまだ時間があるし、このまま訪ねてみようか」

「はい」


 新居と聞いてからご機嫌な笑みを浮かべているキャロルの肩を抱き、涙目になっているグレイソンを尻目に俺たちは生活協会を後にするのだった。


次話は今夜0時にアップする予定です。

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