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第二話 レベルアップと生活協会

「どうしてこちらの方に治癒魔法が必要なの?」

「どうしてハルトさん、無傷なんですか?」


 これが二人の"どうして"である。そしてこのことこそが、俺の隠された称号『変者(へんじゃ)』によるものだった。



 変者の"変"とは変換の"変"で、神聖ルーミリン皇国の聖帝をして厄介と言わしめたのは、とりわけパッシブスキルとして発動する、ダメージを経験値に変換する能力だ。


 殴られるのはもちろん、転ぶなどのダメージでも経験値が得られる。レベルが低いうちは、それだけでレベルアップしてしまうほどだった。



 そしてこの世界では、レベルアップすると同時に全てのステータスが回復する。

 もっとも痛みを伴うので、たとえレベルアップのためでも、俺は自分から怪我をするようなことはやりたいとは思わない。


 なお、一度に上がるレベルは一つのみ。レベルアップに必要となる以上の大きなダメージを受けて経験値を得ても、余りは切り捨てられてしまうのだ。


 むろんレベルが上がる毎に次のレベルアップに必要な経験値も増えていくが、死ぬまでのダメージを受ければ必ずレベルアップする。つまり変者は戦闘などでは死なないというわけだ。


 もっとも変者が経験値を稼げるのはダメージからのみ。どれだけ戦闘経験を重ねても、ノーダメージなら経験値は入らない。


 それがいいのか悪いのかはともかく、死ぬ時の痛みや苦しみは筆舌に尽くしがたいので、そう味わいたくはないものである。



 一方、変者以外は戦闘や素材採取などでも経験値を得られるが、ステータス回復は魔法や回復薬を使わない限り、レベルアップ時と時間経過による自然回復のみだ。


 しかも戦闘においては終了後にしか経験値が得られないため、戦闘途中でのレベルアップによる回復はなく、LP(ライフポイント-生命力)がゼロになれば死ぬ。


 そう考えると痛みや苦しみがあっても、死なないだけ俺の方がマシなのかも知れない。それに生きていくだけなら、レベルアップは必須というわけではないのだ。


 ちなみにどちらの場合も戦闘に勝利する必要はなく、途中で逃げても戦闘状態が終了しさえすればそれまでの経験値は得られる。

 誰がその判断をしているのかは知らないけどな。


 それはいいとして、ある程度快適に過ごすためには俺の今のレベルは低すぎだった。本来なら使える魔法も、魔力が足りないために使えないからだ。

 よって当面はレベルアップすることを考えなくてはならないだろう。



 そうそう、聖帝が言ってた"殺しても死なぬクセに"というのは、変者のスキルを指しているわけではない。これとは別に、俺は殺されても死なないスキルを持っていたのである。



 さて、今回俺は荒くれ者の冒険者に二回殴られたのだが、お陰でレベルは1から3に上がった。それと共にステータスも全回復したので、受けた傷もきれいさっぱり消えてなくなったというわけだ。


 ただ、こんな特殊なスキルは秘匿すべきなので、そのまま彼女らに説明は出来ない。そこであらかじめ用意していた言葉でごまかすことにした。


「俺、治癒魔法使えるからさ」

 嘘ではなく本当に使える。


「そうなんですか?」

「ただ魔力が少ないから、自分に使うだけで精一杯だったんだよ。

 だからドロシーを治してやれなかった。ごめん」

「いえ……大丈夫です」


 そう言った彼女は少し寂しげだったが、吊り橋効果で勘違いさせてはお互い不幸になるだけである。自分を優先してもらえなかったことで、多少なりとも俺に失望させた方がいい。


 ドロシーが嫌いというわけではないが、俺には彼女に対する恋愛感情がなかったからだ。

 そんな考えをシャークは読み取ったらしく、困った顔をしていた。


「ハルトさん、よかったんですかい?」

「ああ。それよりシャーク」


「へい、分かってやす。おいレガー、それからダヤン」

「お(カシラ)……何でしょう……」


「何でしょうじゃねえ! まずはハルトさんとお嬢さんに謝れ!」

「ですがお頭……」

「うるせえっ! 口答えすんな!」


 今度は鳩尾(みぞおち)に蹴りを入れられ、二人は意図せず平伏(ひれふ)すような格好になった。


「お前ら、あと少し俺が来るのが遅かったらハルトさんに……」


「シャーク、それは言わなくていい」

「へ、へい。とにかく早く謝れ!」


 結局彼に言われるままに二人は頭を下げ、会員資格剥奪並びに今後一切協会への出入り禁止ということで、この騒動は幕を閉じることとなった。


◆◇◆◇


 協会内の雰囲気的に依頼を受注する気にはなれなかったので、いったん外に出て食事することにした。


 さすがに皇都だけあって人も多く、特に協会付近は出入りする冒険者を当て込んで、酒場と武器や防具を取り扱う店、それと主に回復薬などを置く薬屋が軒を連ねている。



 また少し離れた区画を見ると、大通りの両側には宿屋が建ち並んでいた。


 建物の規模はピンキリで主な客層が冒険者であるため、これらは素泊まりメインの安宿だ。食事を提供しているところは酒場も兼ね備えているが、総じて宿泊料が高い。

 しかも食事代は別料金ときている。


 いずれにしてもしばらく皇国に滞在して、協会の依頼を(こな)しながら生活しようと考えている俺には、安宿であっても不経済だ。

 従ってなるべく安い家賃で家を借りるしかないのである。


 フォルテネシア王国に帰れば住む家も生活必需品も揃っているというのに、何とも勿体ない話だよ。


「ま、ぼやいてもどうにもならないか」


 王国に帰るのに陸路を旅するのは、体力的にも精神的にも辛い。徒歩はもちろん、馬車を使っても何日もかかるし、そもそもそんな長距離を人を乗せて走る馬車などないのが実情である。


 それにフォルテネシア王国にたどり着くまでには、ラストニカ王国とウェルナス公国を通らなければならない。


 中でもウェルナス公国は通行税が高いことが有名で、鑑札を持つ商人以外は出入国でそれぞれ金貨一枚も取られるのだ。


 今の俺でも転移魔法は使えるが、移動可能な距離はレベルに依存する。つまり現在のレベル3だと三キロメートルが限界ということだ。


 それに転移魔法は最低でも一度訪れた場所にしか飛べないので、単純に三キロずつ進んで行けるというわけでもない。


 だからフォルテネシア王国に飛べるだけの魔力が必要なのである。そのためにはレベルを上げないと、現実的に帰れないというわけだ。



「出来るだけ安い物件ですか?」


 日本で言うところの不動産業だが、こちらでは生活協会が取り扱っている。俺は食事を終えてから、その生活協会を訪れていた。


「風呂は絶対だ」


「お客さん、ルーミリン聖教のご信者さんですか?」

「いや、俺は無宗教だよ。それが何か問題なのか?」


「いえ、問題というわけでは……ちなみにご予算は?」

「出来れば月に小金貨二枚」


「風呂付きで小金貨二枚ですか……」

「ないのか?」


「ありませんね。かなりの田舎でも最低小金貨三枚です」


「冒険者協会に近い方がいいから、あまり田舎だと困るな」


「それですと皇都の外れ、ここから歩いて二時間ほどのところにある物件でも金貨一枚になります」

「皇都ってそんなに高いのか!?」


 繰り返しになるが小金貨一枚は日本円で約一万円、金貨一枚は約十万円である。


 フォルテネシア王国なら王都の中心地は無理でも、徒歩三十分以内のところに住めるぞ。


「この国はほぼ全ての消費に対して寄付金が上乗せされているんですよ。

 生活必需品などは低く抑えられておりますが、家賃は寄付金率が五割となってます」

「寄付金が五割?」


「対外的には消費税と言われておりますが」


 消費税かよ。


「ただ、ルーミリン聖教のご信者さんは後で申請すれば、二割キャッシュバックしてもらえるんです」


 消費税の次はキャッシュバックときやがった。


「それでも二割か……」

「もっとも彼らはそれより多くの寄付をさせられていますからね」


「それじゃキャッシュバック目当てに信者になっても損だな」


「あはは……あ、そう言えば……」

「うん?」


「ありました。ここから歩いて一時間ほどかかりますが、風呂付きで小金貨二枚の物件です」

「マジか!? (いわ)く付きとかじゃないだろうな」


「まさか! そんな物件を扱ったら協会の信用に関わりますから。ただ……」

「ただ?」


「曰く付きではありませんが、コブ付きと言いますか……」

「コブ付き?」


 コブが何なのかは分からないが、悪霊の類ではないとのことだったので、俺はひとまずその物件を訪れてみることにした。

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