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第二話 治癒魔法とレベルアップ

「ハルトさん、これは一体……?」


 土地の取得は滞りなく進み、俺は晴れて権利証を入手した。また、二等管理地だった教会周辺の五十メートル四方は俺の領地として、新たにキサラギ領と名づけられ皇国の地図に記載されることになったのである。


 ちなみにこの程度の土地に爵位は付帯していない。言ってみれば俺は平領主というわけだ。

 そして今日から業者を入れて、領地を壁で囲う作業を始めたのである。


「教会の周りの土地を買ったんだよ。これから壁で囲う土地が俺の領地となったんだ」

「ハルトさんの領地!?」


 オリビアが驚いて声を上げた。リリーとレイラは言葉を失っている。


「領地と言っても教会への礼拝には専用の通路を造るから問題ないよ。礼拝者から通行税を取るつもりもないから安心してほしい」

「はあ……」


「もちろん司祭やシスター、それに子供たちは自由に立ち入ってくれて構わない。畑を増やしてもいいぞ」

「そうなんですか?」


「家を建てるから建物は増えるけど、基本的にはこれまでと変わらないと思ってくれ」


「え? ハルトさん、教会から出ていっちゃうんですか?」

「出ていくったってこの距離だけど」

「た、確かに……」


 壁には教会を守るという意味もある。村が出来て人が増えた分、何が起こるか分からないからだ。


 俺がいれば索敵スキルで害意のある者を察知出来るけど、遠方、例えばいずれ訪れようと思っているフォルテネシア王国に行ってしまえばそれも意味をなさない。


 だから頑丈な壁は有効な守りとなるのである。


 また、壁にはもう一つの意味があった。野放しになっていた露店の管理だ。


 露店商はこれまで誰に何を払うこともなく、教会へわずかばかりの寄付だけをして土地を利用していた。中にはその寄付さえもしない者がいたくらいだ。


 そこで俺はまず領地内での商売を禁止し、周辺で露店を出す者には土地の使用料として毎月売り上げの一割を納めさせることにしたのである。


 説明会を開いた時はかなりの反発があったが、これまで皇国の管理地を無断で使用していたことを告発すると脅したら、渋々納得したようだった。


 さらに村がある場所も俺の土地となったので、彼らからも使用料は徴収する。ただし、俺が権利を手に入れる前に住んでいた者には一年間の支払い猶予期間を与えた。


 なお、村はキサ村と名付けた。


 もちろん、徴収するだけで何もしなければ魅力がなくなり商人や移住者は離れていくだろう。そこで重要になってくるのが公共事業と新たな産業である。


 まず公共事業としては道の整備、そして開発と区画整理だ。道が出来れば教会を訪れる人も増え、商売にも活気が出てくるだろう。


 農業希望者には土地を貸し与えて開墾させ、収穫可能になってから三年間は土地の使用料を免除。これなら人口が増えても食糧難に陥る可能性が低くなる。


 区画整理については、いずれ村を街の規模まで大きくしたいと考えていたので、どうしても必要になるし雇用の促進にも繋がるはずだ。


 ではどうやって街まで発展させるかだが――


「治療院ですか?」

「ああ」


「でもさすがにお医者様を雇う余裕はありませんよ」


 俺は教会の集会室に司祭とシスター三人を集めた。

 司祭の名はグランツ。四十八歳のベテランで、任命される前は皇城の礼拝堂に仕えていたそうだ。


「心配ない。俺は治癒魔法が使えるんだ」

「ハルト殿、本当ですか?」


「ええ。ただそれだと教会には何の利益もありませんからね」

「利益、ですか……」


 どうやらグランツ司祭は敬虔(けいけん)なルーミリン教徒のようで、必要以上に信者から寄付金を集めるのを良しとはしていなかった。だが、モノは考えようである。


「俺の考えはこうです。患者の前でシスターが祈りを捧げるフリをして、俺が見えないところから魔法を飛ばします。これならシスターの祈りで病気や怪我がに治ったように見えるでしょう。

 この祈りに対して寄付をしてもらえばいいのです」


「しかしそれでは信者を騙すことになりませんか?」


「患者はなにも信者だけとは限りません。信者でも上辺だけの人もいるでしょう」

「それもまた主神様の御心(みこころ)かと」


「まあしかし最初だけです。三人のシスターには俺が治癒魔法を教えますので」

「えっ!? 魔法を教えてもらえるんですか!?」


「そのために少しレベルアップが必要だからね。三人には冒険者協会に登録してもらって、しばらく俺とパーティーを組んで魔物討伐に付き合ってもらうことになる」

「魔物討伐……?」


 シスターたちの表情が青ざめる。それはそうだろう。剣も握ったことがないような若い女の子が、魔物と戦えるわけがないのだ。


「大丈夫。重要なのはパーティーを組むことなんだ。そうすればメンバーが倒した魔物の分だけ経験値が得られるから」

「そ、そうなんですか?」


「キャロルはそれでレベル50になってるし、治癒魔法も教えたから使えるよ」

「ええっ!?」


 あの大森林に迷い込んでレベルが300を超えて以降、俺は何度かキャロルを魔物討伐に連れて歩いた。もちろん彼女に危険な真似はさせていないが、俺が高位の魔物を倒す恩恵を受けてレベルが上がったのである。


 ちなみに一人前と呼べる冒険者のレベルは20から。単独でそこそこの魔物を討伐出来るとされているのがこのレベルだ。30なら五人から十人程度のメンバーを従えられるレベル。


 で、50はというと二百人の一個中隊を指揮出来るレベルである。


 もっともそれは強さによる比較なので、実際にキャロルが中隊を統率可能かといえばそうではない。訓練を積んでいないからだ。


「ただキャロルが治癒魔法で治せるのは今のところ外傷と、病気なら風邪とか炎症くらいかな」

「それでも凄いですね!」


「まあ、病気の原因をイメージできれば、もっと増えるとは思う」

「イメージ?」


「魔法はどれだけ明確に結果をイメージ出来るかが重要なんだ。そのために心の中で呪文を唱えるのは有効な手段なんだ」

「なら私もイメージ出来れば使えるんですか!?」


「うん。ただたとえちゃんとイメージ出来ても、レベルが低いと魔力量が足りなくて魔法が発動しないことがあるんだよ」

「そうなんだ」


「リリーは今、レベルいくつ?」

「12ですね」


 二年前から二つ上がっただけか。自然上昇分だろうな。


「なら最低でも30を目指そうか」

「さ、30ですか!?」


「オリビアもレイラもだよ」

「「はい」」


 どうやら三人とも興味はあるようだ。ただ、三人同時に連れ出すわけにはいかないので、当面は毎日一人ずつ交代ということになった。


 ところがそこで、グランツが手を挙げた。


「ハルト殿、私にも治癒魔法を教えてはもらえませんか?」

「ここに骨を埋めるという覚悟があるなら構いませんよ」


 それに対し俺はある理由からこう答えたのである。

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