第一話 教会と領地購入
俺が再びこの国に召喚されてから約二年の月日が流れ、レベルは300を越えていた。
実は冒険者協会から請けた仕事で行き先を間違えてしまい、うっかり大森林に迷い込んで魔物と遭遇しまくったのである。そりゃもう痛いの熱いの苦しいのって、散々な目に遭ったよ。
だがお陰で使える魔法やスキルも大幅に増えたし、ドラゴンクラスの魔物も難なく倒せるようになっているはずだ。はず、というのは今回の召喚後は未だ討伐したことがないからである。
今回の、ということは前回はあるのかって?
その話はいずれ機会があればということで。
とにかくドラゴン自体が高い知能を持っているので、人里に現れることもないし荒らされたなどという話も聞いたことがない。
そうそう、この二年の間に変わったことはまだまだある。
まず一つ目だが教会がコルタ村と和解したことで、少しずつ寄付が集まるようになったんだ。もっともカラオケボックス目当ての村人が増えたせいもあるが、とにかく日々の生活が楽になり、今では俺の寄付も蓄えに回せるようになったらしい。
もちろん、コルタ村住民の寄付だけでそこまでにはならない。それが変わったことの二つ目に繋がるわけだが、なんと一年前に司教がやってきて司祭を任命し連れてきたのである。
教会の建物が新しくなった上に司祭がきたことで、オルパニーはもちろん、片道約二時間もかかるスルダン村からも礼拝に訪れる者が後を絶たなかったのだ。
それが発端となって教会の周りに露店が並ぶようになり、居つく者が出始めたと思ったら、あっという間に村が出来てしまったのである。
こうなると俺は村をさらに大きくしたいと考えるようになった。そこでまず先にやらなければいけないことは、先行投資である。
というわけで、俺は生活協会を訪れていた。
「ようグレイソン、久しぶり」
「ああ、えっと……?」
「ハルト・キサラギだ。いい加減覚えろ」
「すみません」
前回来たのが半年ほど前だったからな。向こうは俺と違って多くの人を相手にするのだから、名前を忘れられてもあまり責められないだろう。
「それで、今日は何のご用件で?」
「土地を買いたくてね」
「土地ですか? どの辺りでしょう」
「コルタ教会の周囲を丸っと」
「ま、丸っとぉ? ちょ、少々お待ち下さい。確かあの教会の敷地はルーミリン聖教のものとなっておりますのでお売りすることは出来ません」
「ああ、それは構わない。欲しいのはそこを取り囲む一帯だよ」
「はあ。教会の敷地以外ですと、教会を中心に五十メートル四方が皇国の二等管理地。その周囲一キロメートル四方が三等管理地ですね。それ以外は直轄領なので売買の対象ではありません」
二等管理地とは取得すると領地認定されて、住む人がいれば領主に人頭税の代理納税義務が発生する。住人から徴収すればいいだけのことだが、そういうのはあまりやりたいとは思わない。
三等管理地は資産税のみが課せられるが、これは年に一度で大した額ではないそうだ。
なお、皇国の直轄領が一等管理地となる。貴族や功労者に報奨として与えられることもある土地だ。
ちなみに二等管理地は少々お高いが資産税は不要とのこと。
ということは、教会の周辺五十メートル四方に家を建てさせなければ、土地の購入代金だけでいいというわけだ。公園を造れば子供たちの新たな遊び場にもなるし、畑にして野菜などを育てるのもいいだろう。
俺だけは領主として、家を建てて住んでもいいかもな。
「よし、全部買おう」
「はい?」
「いくらだ?」
「正気ですか?」
「いいからいくらか早く言え」
「お、お待ち下さい。えっと……」
そしてグレイソンが計算してくれた結果、二等管理地は金貨七百五十枚。三等管理地は金貨九千枚で、高額のためいずれも端数は切り捨てたとのこと。だったら二等管理地もキリよく七百枚にしろよ、と言ったがそれは無理と断られた。
また、他に一定規模を超えた土地の取得には取得税が課せられるため、総額の五パーセントが必要なのだそうだ。それが金貨四百八十七枚と小金貨五枚。こちらは税なので小金貨五枚分しか端数切り捨てが出来ないらしい。
それと協会の手数料が十パーセントで九百七十五枚。協会、手数料ぼったくり過ぎだろ。
これらを合計すると金貨一万一千二百十二枚となるが、一万一千二百枚でいいそうだ。二百枚も負けろよとごねたが、これも無理と断られた。
金貨二百枚は日本円換算で約二千万円だからな。さすがに無理か。
「本当に買われるんですか?」
「ああ」
「代金はどうされます?」
「口座から一括で引き落としてくれて構わない」
「い、一括ぅ!?」
「何か問題あるか?」
「あの、この規模の取り引きで引き落としが不能だった場合、かなりの違約金が発生しますが……」
「大丈夫だ。金ならある」
分割にすれば万が一の違約金は一回の引き落とし分に対してのみで済むが、その代わり分割手数料が加わることになる。これ以上無駄な金は払いたくないし、ニコニコ現金一括払いが一番安上がりなのだ。
土地の取得には皇国に届けを出して許可を待たなければならないため、通常は一週間程度かかるが、規模が規模だけに結果はもう少し遅れるかも知れないとのこと。
なお、許可が下りなかった場合に限り違約金は発生しないそうだ。
ま、下りなきゃ聖帝を説得せばいいだろう。
何故そんなに土地の取得に躍起になっているのかって?
そのうち分かるさ。
話は変わるが、とうとうキャロルも先日念願の十五歳、つまり成人となった。彼女の誕生日にプロポーズして、そのまま司祭とシスター立ち会いの許で婚約も決めたんだ。これで堂々と子作り、もとい、お付き合いが出来るわけだ。
二人きりで部屋で過ごしても誰にも文句を言われない、いや、言わせないぞ。
もちろん相変わらずラブラブだよ。てか、この二年で彼女はさらに美しくなった。たまに冒険者協会に連れていくと、男たちの視線を集めまくってるくらいだ。
婚約を知ったドロシーは涙目になっていたけど、こればかりはどうしようもない。君の幸せは願っているから、俺の幸せも願っていてくれ。
そして意外にも五日後、土地の購入許可が下りたとの知らせが生活協会から届いたのだった。