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第七話 ご褒美と野盗

長らくお待たせしてすみませんでした。

実は1月末にコロナに感染しまして、昨日まで発熱が続いて苦しんでました。

現在も食欲はほとんどなく、平熱に戻った今日もモスバーガー半分しか食べてません。しかも味覚がおかしくて美味しく感じられないです。

モスバーガーはウーバーで置き配してもらいました。

大好きだったクラムチャウダーも変な味としか感じられず(´・_・`)

まだ本調子にはほど遠いですが、ひとまず更新しますので、よろしくお願い致します。


 その日も朝から雨が降り続いていた。


 シスターたちは午前中に教会の仕事を片付け、午後は夕食の支度をはじめるまでの時間を利用して子供たちに勉強を教えている。


 将来、彼らが困らないで生きていくには教育は必要不可欠なのだ。ただ、この世界の子供もご多分に漏れず飽きっぽい。


 キャロルほどの年齢になればある程度分別はつくようになるのだが、ポピーくらいだと五分もじっとしていられない。


 というわけで教材とは別に、俺は子供たちのためにご褒美を用意したのである。


 男の子には色々な形の積み木、女の子にはお人形さんとお手玉。どちらも皇都で売られていた物だが、主に貴族や商家の子供向けの贅沢品である。


 当然彼らはそんな"ちゃんとした"玩具で遊んだことなどなかったので、興味津々だった。


「ちゃんとシスターの言うことをきいて、勉強したら遊んでいいぞ」

「えー、勉強するから遊びたいよぉ」


「それはダメ。勉強したから遊べるのであって、遊んだから勉強するってのはナシ」


「みんな、ハルぉさんの言うこときかないとダメなんだからね!」

「お、ポピーは偉いぞ」


「えっへへー。それじゃハルぉさん、あそぼ!」

「こらっ」


 無邪気に纏わりついてくるポピーが可愛い。この子は成長したらキャロルに負けないくらいの美人さんになるのではないだろうか。


 先が楽しみだよ。


「はい、みんなちゃんと座ってー」


 授業はシスターたちが交代で教鞭を執っている。一日ごとではなく時間ごとだ。大まかに四十五分勉強したら十五分休み、というふうに時間を区切り、それぞれが毎日一回ずつ読み書きや計算を教える流れだ。


 もちろんこのやり方は俺の提案である。


 ぶっ通しで詰め込むのはよくないし、途中でトイレに行きたくなったりもするだろう。日本の学校もそんな感じだから、おそらく合理的なのではないかと思う。


 もっとも本来、時間に縛られるのが苦手な人間を適応させるための仕組みだと聞いたこともある。


 ただ、最初は戸惑っていたシスターたちも、メリハリがきいていていいと納得したようだ。


「さて、俺はちょっと出かけてくるかな」

「え? この雨の中ですか?」


 リリーが驚いて声を上げる。


「皇都方面にちょっと野暮用があってね」


「皇都!? 今日じゃないとダメなんですか?」

「ああ。大丈夫、夕飯までには帰るから」


 用事は皇都、ではなく皇都方面だ。実は数刻前に皇都からこの教会を目指すと思しき集団が、索敵スキルに引っかかったのである。


 人数は五人。正体は定かではないが、索敵スキルは敵意のない相手を察知しても警告を発することはない。そして今回その五人が敵意、または害意を有していることは明白だった。


 ただ、彼らが野盗の類いだったとして、こんな貧乏教会を標的にしているとは考えにくい。おそらく奴らの狙いはコルタ村だろう。


 手練(てだ)れの野盗なら、村の自警団程度では相手にもならないはずだ。皇都方面からやってくるということは、何かしら下手(ヘタ)を打って仲間が捕らえられ、残りが逃げてきた可能性が高い。


 となればいずれ手配書が回ってくるはずだが、連中はそれより早く行動を開始したことになる。つまり体勢を立て直すために村に潜伏し、機を見て遠方に逃げるかそのまま居座るつもりか。


 いずれにしても看過するわけにはいかない。賊の討伐は報酬も高いしな。


 俺は教会にあった蓑笠(みのかさ)を借りて身に着け、心配そうな目を向けるリリーに微笑むとそのまま歩き始めた。


 雪国スタイル的なこの格好、なかなかワクワクするものがある。


「あっしにはかかわりねーことでござんす」


 あの上州無宿の(しび)れる台詞が自然に出てきてしまいそうだ。口にくわえる長い楊枝みたいのがあったら完璧だったよな。


 おっといかんいかん、俺の目的は関わらねえことではなく思いっきり関わることだ。教会からしばらく歩いたところで周囲に人気がないことを確認し、俺は野盗一味の三百メートルほど手前に転移した。


 この道は何度も通っているので、どこにでも転移出来るのである。


 雨のせいで視認が遅れたのだろう。そこから少し近づいたところで奴らが警戒したのが分かった。さらに歩みを進める。


「兄さん、ちと尋ねたいのだが」

「はい、なんでしょう?」


 リーダー格らしき男がすれ違いざまに声をかけてきた。


「この先に村があると聞いたんだが、なんという村だったかな」

「この先の村というとコルタ村ですかね」


「ああ、そうだそうだ。兄さんはその村の人かい?」

「ええ」


「こんな雨の中をどこへ?」


「冒険者協会へ。先日納品した物の報酬を受け取りに行くんですよ」

「へえ。そりゃまた感心なこった」


「額が額なだけに人任せに出来なくて、気づいたら受け取り期限がきてしまったので仕方なくです」


 男たちの目配せは一瞬だったが、こちらの策略に乗ってくれたようだ。


「ちなみにその額とは?」

「金貨五枚です」


「ほう。兄さん、名前を聞かせてくれるかい?」

「ハルト・キサラギ」


「ハルト・キサラギか。ご苦労さんだが、もうアンタが冒険者協会に行く必要はなくなったぜぇ!」


 突然リーダー格の男が剣を抜き、他の四人もそれに従った。


「ふん、野盗風情が。今なら生かして冒険者協会に突き出してやるが、討伐報酬にお前らの生き死には関係ない。死にたいならかかってこい!」


 数で勝る彼らが素直に警告を受け入れるはずがない。彼らが俺の名前を聞き出したのは、後で冒険者協会からの報酬を横取りするためである。もちろんそんな報酬の予定はないし、生かしておくつもりもなかったから素直に答えてやっただけだ。


 そして雨の降りしきる中、胸くそ悪い笑みを浮かべた五人は俺を取り囲むのだった。

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