第六話 人攫いとミオ
「貴方方は何ですか!?」
咄嗟に二階へ行けと言っても、シスター三人がすぐに動けるわけがなかった。そして集会室に、四人の男たちがなだれ込んできたのである。
逃げ遅れた彼女たちを、俺は自分の後ろに来させて庇うように両手を広げた。
実は索敵スキルで、初めから彼らが潜んでいることを察知していたのだ。
「なんだ。理由を言わなくても帰れなくなったようだな」
「ふん! オブザーバーなどと言っていたが、ここに男が貴様一人しかいないのは調査済みだ。大人しくキャロルとかいう娘を渡してもらおうか。
ついでにシスターたちも一緒に来い」
コージーの言葉で、四人の男たちが俺とシスターたちを囲む。
ここで彼らを鎌鼬の魔法で無力化するのは造作もない。ただ曲がりなりにも教会の中で、流血沙汰は避けるべきだろう。
となれば、拳にモノをいわせるしかないか。風の弾丸という魔法もあるが、出来ればシスターたちにはあまり魔法を見せたくないのである。
もっとも今は変者とはいえ、賢者だった俺だ。しかもレベルは10。リリーも同じレベル10ではあるが、一般人の彼女とでは能力的に雲泥の差がある。
そして、賢者のステータスは常人のそれをはるかに上回るのだ。ボクサーとしての経験はなかったが、一応ファイティングポーズを取ってみる。
その時だった。
「あれぇ? 人がたくさんだねぇ」
「み、ミオ?」
そう。呆気に取られる男たちをかき分けて、魔術師ミオが突然入ってきたのである。
「誰もいなかったからここかなぁって思ったんだけどぉ……オジサンたち誰ぇ?」
「ソイツらは商人を騙った人攫いだ」
「人攫いぃ? 悪い人たちってことぉ?」
「ああ」
「ふーん、そうなんだぁ」
普段はのほほんとして掴みどころのない彼女が、まるで悪人のように不敵な笑みを浮かべる。怖えよ。
「な、なんだこの小娘は!?」
「慌てるなランド、よく見てみろ。こちらのお嬢さんもなかなかのタマじゃないか」
「確かに言われてみれば……」
「お前たち、ハルトとか抜かすこの男は殺しても構わない。足手まといになりそうなガキ共もだ!」
「分かりやした!」
「あっれぇ、今お兄さんと子供たちを殺すって言ったぁ?」
「大人しくしていればお嬢さんに危害は加えませんよ」
「ねえねえお兄さん」
「なんだ、ミオ?」
「コイツら、殺っちゃっていいかな?」
「構わんが、教会の中ではやめとけ」
「わ、笑わせるな!」
「フリーズ!」
ミオが叫ぶと、俺を除くその場にいた全員の動きが止まる。フリーズは相手を行動不能にする魔法である。そして意識はあるものの、言葉を発することすら出来なくなるのだ。
ただし、自分より格上には効果がない。
「固めてどうするんだ?」
「あれ? お兄さんには効かないの?」
「そうみたいだな」
「お兄さんの方が私より強いんだ」
「それはどうだか」
「まいっか。アタシここの子供たち好きだからさぁ。殺すなんて言われたから許せないんだよね。
コイツら全員切り刻んでいい?」
「待て、そのコージーってのだけは捕まえて拷問した方がいいぞ。他にも仲間がいるだろうから」
「そう。分かったぁ」
「お前たちも運がなかったな。これは勇者パーティーの魔術師でミオってんだ」
俺の言葉で六人の男たちの顔から血の気が引いたようだった。喋れないし動けないからリアクションは地味だったけど。
それからミオは魔法で、彼らをふよふよ浮かせて教会の外に運び出していった。
後から聞いた話だが、防音結界を張って悲鳴が漏れないようにしてから、コージー以外を風の魔法で一人ずつバラバラにしたらしい。
しかも全員に恐怖を刻み込むために最初は右腕、次は左足といった感じで。
ミオだけは怒らせないようにしよう。
死体もこれまた魔法で、地中深くに埋めたそうだ。
コージーは取り調べという名の拷問で背後関係を全て喋らされ、刑場にしばらく首を晒すことになった。
なお、ブリトン商会は彼らとは無関係だったようだ。
そして俺は、ミオがフリーズを解くのを忘れて帰ってしまったのをいいことに、身動きの取れないシスターたちをしばらくくすぐったりして遊んでやった。
さすがにおっぱいやお尻は触らなかったぞ。そういうのはキャロルがさせてくれるし……げふんげふん。
もちろん、最後はちゃんと俺が魔法を解いてやったが、こっぴどく叱られたのは言うまでもないだろう。
それと、その様子をキャロルが見て不審に思い、シスターたちが事情をバラしたモンだから大変だった。
口を利いてもらえなくなったんだろって?
バカ言え。そんな生易しいわけあるもんか。
「ハルトさま、私もくすぐって下さい!」
「は?」
「逃げられないように抱きしめてくすぐってくれないと許しません!」
身を捩らせて、きゃーきゃー騒ぐ彼女を抱きしめながらくすぐるんだぞ。
ある意味拷問だったに決まってるだろ。
そしてまた俺はキャロルに何をしてるんだと、シスターたちに正座させられる羽目になるのだった。