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第五話 イチャイチャと下働き

 ああ、キャロルの淹れてくれたお茶が美味い。


「ハルトさま」


「うん? どうした、キャロル?」

「あの、お願いが……」

「いいぞ。遠慮せずに言ってみな」


「その……私にも『せーきょーいくのことばぜめ』と言うのをお願いします! きゃっ!」

「ぶふぉっ! げほっげほっ!」


 いかん、気管に入った。


「は、ハルトさま! 大丈夫ですか!?」

「げほっげほっ、だ、だいじょ……げほっ……」


 しばらく咳は続いたが、何とかようやく治まってくれた。



 今、俺は自分の部屋でキャロルと二人きりで過ごしている。今は昼間だし、扉は開けたままだ。密室と言うわけではない。


 口づけまでした仲と言うことで、俺たちは正式に彼氏(カレ)彼女(カノ)の付き合いを始めた。当然シスター公認である。


 ただし、だからと言って全てが解禁されたわけではない。法律は絶対厳守。つまり彼女が成人するまで密室に二人きりは禁止、子作り(えっち)など言語道断という制約付きだ。


 もちろん俺だって捕まりたくはないから、こうして誰でも自由に部屋に入ってこられる状態にしているのである。


 時々キスくらいはしてるけどな。それもキャロルからのおねだりだ。

 俺からは求めてないぞ。彼女はそれが少し不満のようだが、求められたら拒否はしないので、何とかそれで納得してもらっている。


 だってさあ、俺からしたいって言ったら、絶対にエスカレートしそうなんだよ。胸とか触っても拒絶するどころか喜んでたくらいだし。


 こっちの下着って男も女もパンツだけなんだよね。ブラジャーは貴族でも着ける習慣がないらしい。だから服の上からでも十分に堪能出来るのだが、キャロルは生で触らせてくれるって言うんだ。


 誘惑に負けて一度だけ触らせてもらったけど、あの感触は忘れられない記憶として俺の脳裏に刻み込まれている。


 いや、本当に一度だけ、一度だけだぞ。彼女が変な声を出して危うくシスターにバレそうになったから、それっきりチャレンジはやめた。


「あれはお仕置きだからさ。キャロルは俺にお仕置きされたいのか?」

「是非に! お仕置きされてみたいです!」


「いやいや、お仕置きされるようなことしてないじゃん」

「じゃあ、何か悪いことをすればいいですか?」


 やめようね。


 そもそもお仕置きってのは罰のことだ。本人が望んでしまっては、それはもうお仕置きでもなんでもない。ご褒美になってしまう。


 あ、いや、彼女にであればご褒美くらいいくらでもあげてもいいと思うが、それを言ってしまうと絶対に欲しがるから言わないだけだ。


 二人でイチャイチャタイムを楽しんでいると、この雨の中、来客があったらしい。オリビアとレイラが接客に当たっているため、リリーが俺を呼びに来た。


「ハルトさん、シスター・オリビアがハルトさんを呼んでくるようにと」

「俺? 教会の来客なら俺が出る幕は……分かった。すぐに行く」


 集会室に入ると、オリビアとレイラの正面に二人の身なりのいい男性が座っている。彼らは皇都で複数の店舗を展開する比較的大きな商会、ブリトンの番頭コージーと手代(てだい)のランドと名乗った。


「こちらは教会のオブザーバーとして住み込んで頂いているハルトさんです」


「オブザーバー……よろしくお願い致します」

「よろしく」


 一瞬の間合いは何だろう。ま、話を聞かないことには何も始まらない。


 と言うわけでコージーによると、どうやらここにいる子供たちの中から一人、商会で雇いたいとのことのようだ。しかも住み込みで。


 しかし通常はそう言った話は生活協会を通して行われるはずである。それが分かっているから、オリビアも俺を呼んだのだろう。


「こちらには確か十二歳の女の子がいますよね。その子を雇わせて頂きたいのです」

「確かにおりますが」


「もちろん、衣食住は保証しますよ。小遣いも出します。その分、給金は多少お安くなりますが」

「なるほど」


「奉公人として三年分の給金、金貨十五枚を前払い致します」

「……三年経過後はどうなりますか?」


「お店で働き続けるもよし、他の仕事に就くのもよし。もちろん、私たちとしましてはお店に居続けて頂きたいと思っております」


 衣食住に小遣いも出すとなれば、三年で金貨十五枚は妥当なラインだろう。だが――


「ちょっといいか?」

「はい、どうぞ。オブザーバーのハルトさんでしたか」


 何か引っかかる言い方だな。


「下働きに何故女の子を求めるのかはこの際置いとくとして、条件的に問題はないように思えるのに生活協会を通さない理由を聞かせてほしい」


「女の子を求めるのは、将来接客を任せられたらという理由です。他意はありません」

「なるほど」


「生活協会を通さないのは、手数料の関係です。失礼ながらこちらはあまり裕福には見えません。協会を通せば二割、金貨三枚が取られてしまうのですよ」


「その代わり何かトラブルがあっても、協会は助けてくれなくなるよな」

(おっしゃ)ることはその通りですが、トラブルなんて起こりようもありませんのでご安心下さい」


 違法な申し出のように見えるが、実は違法でもなんでもない。生活協会を通さなければ何も保証されないが、法に触れるというわけではないのだ。


 そしてこの教会にとって金貨三枚は大金である。俺が毎月寄付している小金貨二枚の、実に十五カ月分に相当するのだ。生活協会に黙って持っていかれる額としてはあまりに大きい。


「絶対にトラブルは起きないと言えるか?」


「この世に絶対なんてことはないと思いますが、少なくともこの話においてはトラブルはないと言えます」

「そうか。なら後は本人の気持ち次第……」


「そうですね。キャロルさんを呼んできましょうか」


 俺が納得したと思ったのか、安心した表情で席を立とうとするオリビアを手で制した。


「まだ何か?」

「いや、話は分かった」


「でしたらそちらのシスターに本人を呼んできて頂きたいのですが」

「その必要はない。この話はこれで終わりだ。諦めて帰ってもらおう」


「なっ! 何故ですか!?」

「理由を言ったら帰れなくなるが、それでもいいのか?」


 俺がそう言った直後、手代のランドが右手を挙げて不自然にくるくると回し始めた。


「オリビア、全員を二階へ」

「え!?」

「いいから早く!」


 その時すでに、礼拝堂の方からドカドカと走る足音が聞こえてきていた。


年内最後の更新です。

年明け更新はリアル多忙につき未定。

すみません。

よいお年をお迎え下さい。

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