第五話 宴会と登録
「それじゃ行くか」
「はい!」
昼食後、俺はキャロルを伴って市場に出かけることにした。今夜は教会の庭にコルタ村の人たちを招いて、宴会を開くことになったからである。
俺の空間収納には先日のダブルヘッドボアの肉が二キロほどと、教会には米の残りがある。
しかしトーマス村長の取りまとめで懺悔にやってくるのは百人強。とてもそれだけでは足りないし大人も大勢来る。となれば酒も必要になるだろう。
俺も久しぶりに飲みたいしな。
「キャロル、先に冒険者協会に寄らせてくれ」
「冒険者協会ですか? もちろん構いませんけど、もしかして薬草を採りに行くんですか?」
「ワクワクしてるところ悪いけど、そうじゃなくて金を引き出しに行かないといけないんだ」
「お金……?」
聖帝からせしめた金貨が今朝の騒動でなくなっちゃったからだ。今回は百人以上となると、肉は少なくとも三十キロは用意しておいた方がいいだろう。
とすると前回のレートで金貨三十枚だが、余裕を見て五十枚を預金から引き出そうと考えていた。
「冒険者の中には荒くれ者もいるから、協会に着いても俺から離れるなよ」
「はい! 協会に着かなくてもハルトさまから離れません!」
そう言って腕を組まれると、柔らかい胸の感触を意識せざるを得ない。
ちなみに前回と比べて購入量が多いため、予め転移魔法でオルパニーの肉屋に行って在庫は確認済みである。そして約束通り、オマケで極上のワインを付けてくれることになっていた。
もちろん切り分けもサービスだ。
そんなわけで肉屋夫婦も宴会に誘うと、快く応じてくれた。
「肉のプロの腕に平伏しな!」
女将さんが袖をまくってニヒヒと笑っていた。どうやら調理もやってくれるらしい。
その様子に米屋も参戦。八百屋からは新鮮な野菜をどっさり持ち込むから仲間に入れてくれと懇願され了承。
果てはたまたま教会に遊びに来たミオに知られ、勇者一行も身分を隠して参加することになってしまった。
ただそのお陰で、不安だった調理器具もミオの魔法でバーベキューセットを用意してもらえることになったから結果オーライだ。
肉も米も野菜も空間収納め運ぶつもりだったが、最終的にその必要はなくなっていた。市場の面々が馬車を用意して運んでくれたからである。
そんなわけで俺とキャロルは、単に商品を買い付けに行っただけの商人夫婦のごとき仕事しか出来なかった。
それでも、彼女にとっては得難き経験だったようだ。
「冒険者協会も楽しかったですし、市場もハルトさまと回れてよかったです!」
「そうかそうか」
「でもハルトさま?」
「ん?」
「冒険者協会のドロシーさんという方……」
「ドロシーがどうかした?」
「ハルトさまを見る目が女性のものでした。何かありましたか?」
言われて少しビビった。ドロシーから好意を向けられたのは感じていたので、単に吊り橋効果であると印象づけたはずだ。
にも関わらず、キャロルはドロシーの俺に対する気持ちを敏感に感じていたらしい。
ま、ここは隠しても仕方ないので、協会に登録に来た時のことを話して聞かせた。
「そんなことがあったんですか」
そう呟いて、彼女は何やら考え事にふける。しかしすぐに顔を俺に向けた。
「ハルトさま」
「うん?」
「私も冒険者協会に登録したいです」
「は?」
「それで、ハルトさまとパーティーを組ませて下さい!」
「えっと……」
「私はまだ未成年ですが、自分の意思でなら登録出来るはずです」
キャロルの真意がどうあれ、俺と行動を共にするという意味では理に適っている。彼女が一緒にいるとなると危険な依頼は請けられないが、その時はその時で改めて考えればいいだろう。
「分かった。まだ時間もあるし、これから冒険者協会に行って登録しようか」
「いいんですか?」
「何が?」
「てっきり反対されると思ってましたから……」
「キャロルは反対されたら引き下がるつもりだったのか?」
「ち、違います! 私は……」
「心配しなくても依頼を請ける時は俺がキャロルを護ってやるよ。だから俺の言うことにだけは従ってくれ」
「はい! もちろんです!」
そう言ってから、彼女は耳元に口を寄せてとんでもないことを囁いた。
「何でも従います。イケナイコトでも!」
「こ、こらっ!」
「きゃはっ!」
こんな感じでじゃれ合いながら、俺たちは教会に帰る前にもう一度冒険者協会に寄って、キャロルを登録してから帰路に就くのだった。