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プロローグ

「バカ騒ぎしやがって」


 見覚えのある召喚の間で、騒ぎ出した高校生たちを見てうんざりした。彼らは俺が以前いた日本で通っていた高校のものと同じ制服を着ている。



 男子二人と女子二人、それぞれ着崩していたりピアスを着けていたり、女子のスカートも異様に短いのでおそらく二年生だろうと思う。

 一年生は制服に手を加えたりしないし、三年生の大半は進学や就職に備えて大人しくなるから、というのがこの予想の根拠だ。



「なにコレ、ウケるんですけどぉ」

「うはっ! 何のサービスだ?」


「もしかして異世界転生ってやつ? アタシら勇者とか?」

「なにそれミオ、勇者ってなに?」


「ウチのバカキモ兄貴がはまってんの。ラノベとか言ってた」


「あ、俺も聞いたことあるぜ。チートとかで魔王をやっつけるヤツだろ」

「そう、それそれ~」

「意味分かんな~い」


 正確には異世界転生じゃなくて異世界召喚な。


 それにしても、俺が通っていた頃と品位はあまり変わっていないようだ。

 一人じゃ何も出来ないクセに、仲間といると気が大きくなって傍若無人になる。一人なら座らない優先席も、多人数なら杖を突いた人にさえ陣取って席を譲らない。


 もちろん俺はそういったヤツらとは違っていたが今なら分かる。少数の愚行のお陰で、同じ学校の生徒だけでなく高校生全体がそういう目で見られるのだ。

 それは俺が高卒で社会に出てすぐに感じたことだった。



 ところで召喚か……


「エクスポーズ、ステイタス!」


 その時突然、神官の格好をした初老の男性が叫んだ。すると俺たちの前に白バックのウインドウが現れる。お決まりのステータスってヤツだ。


 さらに俺を含めた召喚者五人分が、自分たちの目の前の他に大きく天井にも映し出されていた。つまり、ステータスがここにいる者たちに晒されているというわけである。



「おお! 勇者がおられる!」

「戦士に魔術師……ち、治癒師まで!」


此度(こたび)の召喚の儀は大成功じゃ!」


 周囲を取り囲んでいた身なりのいい者たちから歓声が上がった。しかしそんな中、玉座に座った偉そうな男だけは(しか)めっ(つら)である。


「おいオッサン! これは何だよ。何で俺たちの名前が出てるんだよ!」


 突然、一人の少年がステータスを呼び出した神官っぽい男性に詰め寄ると、それを見た周囲の者たちは口々に彼を罵り始めた。


「何と無礼な!」

「ローガン宰相(さいしょう)様に向かってオッサンなどと……」


「よいよい。この者たちは何の前触れもなく我が皇国に召喚されたのだ。して、其方(そなた)は?」


京極(きょうごく)、あそこに出てるレン・キョウゴクって俺のことだろ?」

「すると其方が勇者殿か」

「勇者?」


「サイコーに強いってことだよ、レン」

「そうなのか、ミオ?」


「そちらの可憐な女子(おなご)がミオ・ユウキ、魔術師殿じゃな」

「あ、うん。そうだよ」


 残りの二人は戦士のリク・ヤガミ、治癒師のツムギ・サオトメだった。そして、俺を含めて全員がレベル1。



 そこで宰相と呼ばれていた男性が玉座に座している男に目配せする。すると彼は玉座から立ち上がり、俺に一瞥(いちべつ)をくれてから両腕を広げて四人の若者たちに目を向けた。


「よくぞ参られた、救国の勇者たちよ!」


「きゅうこくのゆうしゃぁ?」

「国が九つあるってことかな」


 勇者と戦士の男二人は、どうやらオツムが少し弱いようだ。だが、男は取り合わずに続けた。


「其方らの力をもって魔王を倒しこの国の、いや、大陸全土に安寧をもたらしてほしい」


「ちょっと待って下さい! いきなりそんなことを言われても困ります!」

「魔術師殿、聖帝(せいてい)陛下の御前ですぞ」


「構わぬ。ミオ殿と申したな」

「え? あ、はい」


「急なことで驚かれたであろうが、この世界の者では魔王には立ち向かえぬのだ」

「だからって学校もあるし……」


「言いたいことは()にも分かる。だが魔王を倒せるのは召喚され称号を手に入れた者のみなのだ。

 それにな、この世界で得たスキルや魔法などは、其方らが元いた世界に戻っても消えることはないぞ」



「に、日本に帰れるのか!?」



 声を上げたのは勇者のレンという少年だ。


「無論、魔王を倒してくれた暁にはその()()()()()()の元いた場所、元いた時間に帰すことを約束しよう」


「スキルも魔法もそのままって……」

「何か凄くね?」


「治癒師って病気とか怪我が治せちゃうってことぉ?」


「残念ながら治癒師に病気は治せん。しかし失った手足を元に戻すのは可能だ。さすがに首は無理だがな」

「そうなんだぁ。てか首ってウケるぅ」


「勇者レンよ、これを受け取るがよい」


 そう言って聖帝は二つ折り財布ほどの大きさの革袋を、宰相を通して彼に渡した。


「これは?」


「必要な金が取り出せるマジックウォレットだ。武器、防具の購入はもちろん、宿屋や飯屋、酒場などでも使うがよい」

「何でもかんでも払ってくれるってことか?」


「左様。贅沢をしても構わん。ただしその際には余、神聖ルーミリン聖教皇国聖帝、ヨセフ・マテオ・クラークより与えられたとの喧伝(けんでん)を忘れるな」


「名前(なげ)えな。おいミオ、覚えられたか?」

「んー、クラーク聖帝からもらった、じゃダメですか?」

「それでよい」


 勇者と魔術師の聖帝への物言いに周囲は無礼だ何だと囁いたり青ざめたりしているが、当の聖帝と宰相は微塵も意に介していないようだった。


「分かった。そういうことなら引き受けようじゃないか。皆、それでいいよな」

「うん」

「おう! いいぜ!」

「いいよぉ」


「よし! それじゃ早速その魔王とかをやっつけに行こう!」


「待て待て、早まるでない」


 今にも飛び出していきそうな彼らを、宰相が慌てて止めた。コイツらつくづくバカだな。


「何だよオッサン?」


「いくら勇者殿たちでも、レベル1のままでは魔王には勝てん。まずは兵たちと共に訓練を重ねて、レベルを上げてから挑まれよ」


「ふーん。ミオ、ああ言ってるけどそんなモンなのか?」

「バカキモ兄貴もそんなこと言ってた気がする」


「しょうがねえ。面倒くせえけど訓練てのをやるとするか」

「よし。衛兵、勇者殿たちを訓練場へ案内せよ」


「あれ? あっちの兄さんは?」


 勇者の一言に、その場にいた全員の視線が俺に向けられた。


「彼のことは気にしなくてよい。称号が何もないであろう? あの者はただ召喚の儀に紛れ込んだだけだ」

「ふーん。ま、いっか。俺らも知らない人だし」


「ちょっとイケメンだからいいなって思ったけど」


「ミオ、あんなヤツのどこがいいんだよ!」

「私実は年上好きなの。お兄さぁん、まったねぇ」


 軽い口調でそう言うと、魔術師の少女はヒラヒラと手を振りながら、衛兵に先導された仲間の後を追って召喚の間から出ていった。



 さて、次は俺の番か。


 聖帝が人払いを命じたので、召喚の間に残っているのは俺の他は聖帝と宰相のみ。衛兵すらもいない。


「久しぶりですね、聖帝陛下。宰相殿も」

「まさかまだこの世界にいたとはな」


 聖帝は苦虫をかみつぶしたような表情で俺を睨みつけた。


「お陰さまで」


「あの者たちに教えてやらなくてよかったのか?」

「そんなことしたら殺されちゃうじゃん」


「ふん! 殺しても死なぬクセに」


「いやいや、俺じゃなくて彼らを殺すでしょ?」

「賢明な判断だった、と言っておこう」


「して、ハルト殿はどうされるおつもりかな?」


 聖帝とは違い、宰相の方は全くの無表情と言っていいだろう。それだけに冷たさを感じる。


「紛れ込んだと言ってたが、巻き込まれたというのが本当のところだ。出来ればこのまま下城(げじょう)させてもらえないかな。お互いのためにも」

「この国には?」


「金もないし、しばらく留まって冒険者として稼がせてくれ。そっちが干渉してこない限り、俺も何かしようとは思ってないからさ」

「よかろう。好きにせよ」


「ありがたき幸せです。聖帝陛下」

「バカにしおって」


「とんでもない! あ、そうそう」

「まだ何かおありかな?」


「本当に着の身着のままで召喚(よびだ)されたからさ、金が全くないんだ。迷惑料ってことで金貨十枚ほど都合してくれないか?」


 金貨一枚は日本円換算だと約十万円ほどの価値がある。


「誰が貴様などに……」



「ここ、壊すぞ」



「ローガン、くれてやれ」

「か、かしこまりました」


 ようやく宰相の表情も変わった。悔しそうだが、俺にとってはどうでもいい。それに本当に一銭もないんだから仕方ないだろう。いきなり召喚したそっちが悪いんだ。


「ハルトよ、一つ聞かせてくれ」

「答えられることでしたら」


「其方、今回の称号は何だ?」

変者(へんじゃ)、らしいですよ。聖帝陛下」

「変者……また厄介な称号を……」


「敵対するおつもりでしたら、皇国ごと滅ぼされるお覚悟を」

「分かっておるわ!」


 このやり取りの後、宰相から裸のまま金貨を手渡された。そして、城から出る俺を見送る者は誰もいなかった。

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