表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
監獄の熾天使  作者: 鯖寿司
5/7

第五話 第二の能力

 「……凄い、わ。凄いけれど、ちょっと現実離れし過ぎてて……」

 ショックからなんとか立ち直り、頭を抱えながら感想を述べる。「ちょっと」とは言ったものの、まだ飲み下せないほどの衝撃だったのだが。

 「僕の能力なんかまだ普通デスよ?統心(おさうら)サン辺りの能力は初見だと目を疑うレベルっス」

 何でもないように言う頸桐(くきり)さんの一言は、心の平穏のためにあえて聞かなかったことにする。

 「えっと……。そう、ここには私の『能力』の試運転に来たのよね?」

 インパクトが大きかったせいで忘れかけていたが、元々はその予定だったはずだ。頸桐さんの『能力』を見せてもらったのも、実際に自分以外の『能力』がどんなものなのかを観測するのが目的だった。

 「あ、そうっスね。もう能力が使えるなんて、一発スカウトの件と云いよっぽど強いんデスねえ」

 (……強い?)

 彼からしたら私など強い内に入らないだろうに。その物言いに何か引っかかるところはあるが、些細な問題だと切り捨てる。どういう意味だろうと今は関係ない。

 「それじゃあ見せてもらっていいスか?なるべく軽くっスよ、ちょっと危険そうだったら止めマスからね」

 そう言うと彼は私からある程度の距離を取った。事前にどんな『能力』なのかを訊かないのは、何が起きても止められるという自信の表れか。

 私は緩く両拳を握り、左足を引いて半身に構えた。数メートル離れた場所にある、公園の遊具ほどもありそうな大岩を目標に設定する。息を深く吸い、吐く。身体が適度に弛緩したのを感じてから、正面に目いっぱい右拳、左拳を順に突き出す。何かが破裂するような音を全身で浴びながら素早く身体をねじって右上段回し蹴り。更に力の流れに身を任せ、右足が着地してから左足を前方に思い切り蹴り込む。体重を乗せた渾身の蹴りは、確かな手応えと共に大岩の中心を穿ち、岩の表面にクレーターと大きく(ヒビ)を刻んだ。空気がびりびりと震え、岩の欠片が辺りに飛び散る。その威力は想像通りの高さだったが、どこか違和感を覚えた。

 「どうかしら、頸桐さん!これが私の『能力』、『怪力』なのだけれど……」

 それでも試運転なら充分だろうと、くるりと振り向いて感想を求める。なぜか頸桐さんはほんの少しの間どこか哀しそうな表情を浮かべていたが、すぐに元のへにゃっとした表情に戻った。

 「いや、ほんとに今日起きたばかりか疑うレベルっスねえ。ちょっと修行スれば、スグにここでも戦えソうっス!」

 (……?)

 感情の機微には疎い私にしては珍しく、頸桐さんが一瞬だけ見せた負の感情が何なのか見抜けた。あれは哀切や憐憫と呼ばれる類のものだ。私が幼少の頃より一身に浴びてきた感情の一つ。ただ、なぜ彼がこのタイミングで私にそんな情を抱くのかが分からなかった。

 「ただ、少シ惜シいのが『動きのズレ』と『無意識のブレーキ』デスね。いきなり身体能力が飛躍的に上がったから、脳内で描いている動きと実際の動きが嚙み合ってマセン」

 自分が抱いた感情(もの)を誤魔化すためか頸桐さんが少し饒舌になる。もしくは、私が気づいたことに気づいたか。そうまでして隠そうとする程のことなのだろうか。

 「それに普段よりも出力が大きいから、バランスを崩サないように円火ちゃんの身体が必要以上にブレーキを掛けてマス。無意識なので仕方ないデスが、ソのセイでパワーが散ってスピードも落ちてるっスね」

 だが、頸桐さんの指摘にそれまでの関心が霧散した。速度と力が上がったから気づかなかったが、言われてみれば前の動作と次の動作の繋ぎが上手くいかなかったような気がする。私が抱いた違和感の正体はこれだったのか、と頸桐さんの観察眼に感嘆せざるを得なかった。上手く身体を使えていない以上、身体能力の向上によるデメリットの克服が目下の目標となるだろう。彼の助言を元に、早速動きを修正しようとした時、頸桐さんからストップが掛かった。

 「ソノ意識の高サは素晴らシイ。ただ、身体への負荷を考えるとこれ以上は止めといた方が良いっスね」

 新しい玩具で遊んでいたら取り上げられたような、そんな気分。これで終わりは生殺しにも程がある。せめてある程度修正できるまで、と喉まで出かかった抗議の言葉は、頸桐さんの続く一言によって飲み込むこととなった。

 「でもこれで終わりは味気ないスから、『二つ目の能力』の『開花』やってみまショウか!僕も微力ながら協力シマスから!」

 「二つ目の能力!?」

 驚きのあまり声を張り上げてしまう。『能力』は一人一つだとばかり思っていたが、考えてみれば誰もそんなこと一言も言っていない。ならばなぜ教えてくれなかったのかと、この場にいない鉄黒さんに脳内で恨み言を言う。

 「能力のこと聞いてるなら知ってるかと思いマシタけど、その様子だと説明サれてない感じスか。銃慈サン、ソウいうところあるからなあ……」

 どうやら常習犯らしい。頸桐さんは軽くため息を吐き、続ける。

 「能力っていうのは最大で一人二つ発現シマス。ただし執行人(ブロー)なら無条件で使えるようになるワケではありまセン。目覚めてスグ使えている円火ちゃんみたいなのもいれば、何年も『開花』できない人もいマス。そこは『想いの強さ』の違いデスね」

 「『想いの強さ』……」

 不思議ではあっても気に留めなかった、私が最初から能力を使えることと頸桐さんの『強い』という発言に得心がいった。どんな類の感情でも良いのなら、私よりも想いが強い者などそうそう存在しないと言い切れる。

 「まあ、あくまでソレは切っ掛けに過ぎないシ、一つ目の能力が『開花』しても二つ目の能力が『開花』するかは正直運と素質っス。だから円火ちゃんが二つ目の能力を使えるかは現段階では正直分かんないっスね」

 運と素質。夢のない話ではあるが、それは武道でも何でも同じことだ。雲の上にいる人間に追いつくためには、血反吐を吐いてでも何かを掴まなければならない。私のような凡人が鉄黒さん達と肩を並べようと思ったら、この程度はどうにかできなければ話にならないのだ。

 (むしろやる気が湧いてきたわ。二つ目の『能力』が使えるようになれば、彼らに一歩近づける。例えそれが千里ある内の一歩であったとしても上等よ)

 幸いにも、『能力』についてなんでも知っていそうな頸桐さんが協力してくれるという。私は頸桐さんの話に全力で耳を傾け、一言一句聞き逃さない構えを取った。

 「じゃ、円火(まどか)ちゃん。自分が死んだ時のこと、もしくは自分が心の底からやりたいことを思い浮かべて欲しいっス」

 その言葉を聞いた瞬間、脳内に蘇るのは最悪の記憶。死神がにやつきながら私の内臓を弄繰り回す。頭の中で火花が散り、痛みの代わりに笑いが零れる。そして流れ出る血液、低下していく体温。視界が黒く塗りつぶされ、人のものとは思えぬ咆哮が喉を潰しながら溢れる。

 意識が薄れゆく最中(さなか)、手足に何かが絡みつく。次に強い圧迫感。少し意識が引き戻されたところで下唇を嚙み千切って無理矢理正気に戻る。涙でぼやける視界に、頸桐さんの「やってしまった」と言わんばかりの表情が映った。私の身体には頸桐さんの『能力』で作られたであろう縄が巻き付いていたが、意識が戻ったのを確認してすぐに拘束が解かれた。

 「いやほんと!!スミマセン!!これが一番効果あって、でもまさかここまでのトラウマ掘り起こすとは思ってなくて!!」

 土下座に近いくらい腰を曲げて謝罪する頸桐さんは切り傷が目立つ。恐らく、私が記憶に浸っている間に馬鹿力で暴れ、彼はそれを先ほど見せた『血操術』で抑えていたのだろう。しかも、私の身体には傷一つつけないように血を多く使った。切り傷はその時のものだ。

 「頭を上げて頂戴。頸桐さんは成功率が高い方法を試しただけ、悪いのは暴走した私よ」

 私がそう言うと、頸桐さんはおずおずと頭を上げ、困ったような表情(かお)をする。

 「ソウ言ってもらえるとありがたいっス。……能力は、『自分が死んだ時強く意識したもの』と『自分が心からやりたいと思ったこと』に関連シタ力がそれぞれ発現シマス。だから、目覚めたてで生前の記憶が鮮明な今のタイミングが一番『開花』し易いハズだったんスけど……」

 頸桐さんはそこで一度区切り、私の目を真っすぐ見つめる。

 「……円火ちゃんの『怪力』はどっちとも取れマス。この場合、僕や銃慈(つつじ)さんのような部外者では対処が難シイ。円火ちゃんが自分のことを理解シテあげる必要がある」

 「君は、何がシタイ?」

 私が何をしたいか。そんなことはとうの昔に決まっている。頸桐さんの真剣な眼差しに負けじと見つめ返し、言葉を紡ぐ。

 「私は――――」

 

 

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ