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五話 那奈視点 わたしの秘密

主人公の妹、那奈視点です。

那奈の過去と、一話で汐里が言っていた、汐里と那奈の出生についてです。



 時計の針の音だけが静かに響く部屋の中で、わたしは家族の帰りを待っていた。



 チャルンを捨てに行くために外に出たお母さん。

 

 そのお母さんを追いかけるようにして家を出ていった、チャルンが大好きなお姉ちゃん。


 そして、もうすぐ帰ってくるはずの、仕事を終えたお父さん。



 お母さんとお姉ちゃんが出て行って、もう30分くらいは経っている、はずなのに。



 わたしに出来ることは、ただただ家族の帰りを待つだけだ。



 数十秒が数分にも感じるような、何とも言えない緊張感に包まれた部屋の中。



 その部屋の中にいるわたしは、何も考えないように、いい想像も悪い想像もしないように、決して心の中に感情を出さないように、そう精一杯努力した。




 何かを考えたら、絶対に家族のことを心配してしまうから。




 想像したら、自分だけここにいることがどうしようもなく嫌になってしまうから。




 感情を表に出したら、今目に溜まっている涙が堰を切って溢れだしてしまうから。





 感情の制御は慣れていた。






 もともと、それが一番得意なことだったから。







☆☆☆☆☆







 那奈がその言葉を聞いてしまったのは、まだ那奈が三歳の頃だった。



 六歳になる姉、汐里と、母と、父と一緒に、ピクニックに行った時。


 那奈がトイレから帰ってきた時に、汐里に両親が何かをいつになく真剣な表情で話していたその話を、那奈は偶然にも聞いてしまったのだ。




『……おり、この話は、大事なことだから、那奈には言っちゃダメよ』




 いつになく真剣な表情でそう言うお母さん。その言葉を聞いて、那奈は慌てて物陰に隠れた。




『あのね、実は、お母さんと汐里は血がつながっていないのよ』




『う……ん?』




 当然ながら、そんなことを言われても、六歳であった汐里にも、三歳である那奈にも理解できるわけがなかった。




『大きくなったらきっとわかるわ。汐里、貴女のお母さんは、本当はお母さんじゃないの』




 そして、お母さんとお父さんは、代わる代わるに汐里に、汐里の出生について話していった。



 昔、お父さんがお母さんと結婚する前、お父さんと付き合っていた人が、汐里を産んだことを。


 汐里は二歳の誕生日までその人に育てられて、その後子供ができていたことを知ったお父さんが、ずっと子供が欲しかったこと、あとは、養育費などの金銭的な面から、汐里を引き取ったこと。


 そして、那奈は、お母さんが産んだ、正真正銘の、お母さんとお父さんの子供であること。


 けれど、お母さんとお父さんは汐里のことを那奈と同じくらい愛しているということ。




 結局那奈は話が終わり、お母さんが『そういえば那奈遅いわね』と言うまでその場に現れることは出来なかった。



 当時は幼かった那奈や汐里も、小学校中学年になるとあの日の言葉を理解し、徐々にその性格に変化が表れるようになった。


 汐里は大好きだったぬいぐるみにさらに愛情を注ぐようになり、那奈は元々静かな性格だったのに、殊更子供らしく、明るく振る舞うようになる。



 感情を抑え込んで、違う自分を演じる。そして、演じているうちに、その、“違う自分“が、本当の自分になってきていた。いつしか演じることを意識しなくても違う自分に変身できるようになり、本当の自分は姿どころか影も見せなくなっていったのだ。



 ……今、わたしの中にいるのは、長い間ずっと孤独の世界に閉じこもっていた“本当の自分“だ。






☆☆☆☆☆






ガチャッ。



 マンションの一室に、わたしがずっと待ちわびていた音が響く。





 期待と安心で玄関のドアの方に振り返ったわたしは、次の瞬間、帰ってきたお父さんに殺された。

読んでくださってありがとうございます。



おかしいところや矛盾しているところ、誤字脱字があれば報告してもらえると嬉しいです。



書き溜めていたストックが切れたので、今日の更新はこれで終わりかも知れません。

完結まで、たぶんあと二、三話です。


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