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第5話「私、カラフルに入りたいです」

「もう、ダメよ要ちゃん。盗み聞きなんてしちゃ」

「いや〜すみません。心配だったんでつい」


 要と世田谷さんはそう言いあうと、ふたりして楽しげに笑う。


「いや、なにしてんのさ。──っていうか、いつからいたの?」

 私は平然と私の隣に座っている要にもっともな疑問をぶつける。


「え? 最初からっすよ?」

「最初からっ!?」

「ええ、最初からいたわね」

「気づいてたんですか!?」


 要は当たり前のように最初からいたと言い、世田谷さんもそれが当たり前であるかのように、要の存在に気がついていたらしい。

 ふっ、どうやらマヌケは私だけのようだな。……いや気づかないでしょ普通。


「で、どうするんすか、先輩」

「え? どうするってなにを?」

「『なにを』って、カラフルに入るか入らないか、Vチューバーになるかならないかに決まってるじゃないっすか!」

「ああそっか、その話しの途中だった」

 

 私は要の突然の登場に驚き、それまでの世田谷さんとのやりとりが頭から完全に消え去っていた。

 私は世田谷さんと要の顔を交互に見る。Vチューバー……興味はあるし、なってみたいという気持ちは当然ある。でも──。


「要は……どう思う?」

 どうしても最後の一歩が踏み出せない私は、要の方を向きそう問いかける。


「あたしっすか? そりゃあもちろん! 先輩と一緒にVチューバーとして活動したいに決まってるじゃないっすか!」


 要は私の迷いをかき消すように、明るくはっきりと、笑いながら私にそう言った。


「そりゃあ大変なことも色々とあります。なにげなく言ったりやったりしたことが原因で、炎上した人も数多く見てきました」

「うっ……」


 私は要の言葉にうろたえる。

 Vチューバーの活動の中心がネットの世界である以上、炎上は切っても切り離せない問題だ。しかも注目度や人気の高さから、SNSやまとめサイトにも面白おかしく取り上げられて、一気に拡散されてしまう


「大丈夫っす! すぐ対応すればすぐおさまりますし、みんなも大体すぐ忘れます! それにデビューする前から炎上のこと考えちゃダメっす!」


 要は『すぐ』という言葉を強調して、私の両肩をガッと力強くつかむ。

 まあたしかに、Vチューバーの炎上は回数は多いけど、長引くイメージはあまりない。これは揚げ足取り的な炎上も多いからかもしれない。


「それにさっき社長も言ってたっすけど、あたしは先輩なら大丈夫だと思って声かけたんす! 優しくて真面目で、『とんがってるコーン』両手の指にはめてガオーとか言ってるお茶目な先輩なら大丈夫です!」

「ちょっと待って」


 要は突然、誰も知らないはずの、私が先週バイト先の休憩室でしていたことを口にした。私は当然つっこもうと静止を試みる。


「とにかく! 先輩なら大丈夫、人気でるってあたしは信じてます! あたしは先輩と一緒に同じグループで活動して、もっとたくさん一緒に楽しいことしたいんすよ。だから……ダメっすか?」


 私の静止をものの見事にスルーし、勢いよくしゃべっていた要だったが、最後はまるで、捨てられた子犬のような顔で私を見ていた。


「要……」

 

 私は要の今までの言葉と、その顔に心を揺り動かされる。

 まったく……その顔はずるいでしょうよ。それに背中をここまで押してもらって、踏み出さないんじゃあ先輩の名が廃れてしまう。


「要、ありがとう」

 

 私は要に感謝をつげる。

 要は私の言葉を聞いて、両肩からそっと手を離す。


「世田谷さん」

 私は覚悟を決めて、私と要を見守っていた世田谷さんへと向きなおる。


「なにかしら、杉並さん」

 世田谷さんはほほえみながら私を見る。


「世田谷さん、私、カラフルに入りたいです。カラフルに入ってVチューバになって、みんなと、要と、活動したいです。お願いします!」


 私は世田谷さんに勢いよく頭を下げる。

 なんだか視界の端に、要のしてやったり的な小さなガッツポーズが見えた気もするが、まあ今回は特別に見なかったことにしてやろう。


「ふふ、その言葉を待っていたわ」

 

 世田谷さんの柔らかな声が私の耳に届く。

 私はバッと頭を上げ、世田谷さんを見る。


「これからよろしくね──“和泉ちゃん”」

 

 世田谷さんは私と目が合うと、ウインクをしながら、いたずらっぽく私の“名前”を呼んだ。



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