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第11話「あ、ホラゲーよわよわワンコ先輩だ」

「ふぅー……」

 私は今、とあるマンションの一室前にいる。


「よし」

 私は覚悟を決め玄関扉横にあるインターホンを押す。


「はい」

 するとほどなくして、インターホンから女性──というより少女の声が聞こえてきた。


「あ、あの、こちら中野弥生なかのやよいさんのお宅でしょうか?」

「はい……そうですけど」

「は、はじめまして。私、杉並和泉です。えっと、錫色れんがです」

「あ──はい、今開けます」

 

 少女がそう言うと通話が終わる。

 そして数秒後、玄関扉がガチャリと開く。


「……どうも、中野弥生、です。あと“山吹やまぶきなたね”、です」

 

 中から現れた、所々はねた黒髪に大きめのパーカーを着た少女は、中野弥生そして山吹なたねと名乗り、ぺこりと軽く頭を下げた。


「あ、は、はじめまして。きょ、今日は、よろしくお願いします」

 私は緊張で上手く動かない口で自己紹介をして、勢いよく頭を下げる。

 

 この人が山吹なたねさん……。私にとって初めてのコラボ相手。

 

 そう、私が今日このマンションを訪れた理由──それはカラフルのメンバーにして私の先輩、Vチューバー“山吹なたね”さんとのコラボ配信を行うためだ。


 山吹なたね。チャンネル名は『なたねの秘密基地』。

 黄色味がかった金髪にたれた犬耳。

 そして少し少年のような雰囲気を持つ、あどけなさの残る少女。


 だがかわいらしい見た目とは裏腹に、長時間のゲーム配信をものともしないカラフル随一のゲーマー。また英語を得意としており、週に何度かは英語でのゲーム配信も行っている。

 

 さらにエナジードリンクマニアでもあり、国内外のエナジードリンクのレビュー動画を日本語と英語で投稿しており、その妥協を許さないレビューの信頼はとても厚い。

 

 ではなぜそんな山吹なたねさんと、私がコラボ配信をすることになったのか。それは3日前のタムッターでのやりとりがきっかけだ。


◇◇◇◇◇◇◇


「さてと、感想チェックして寝ますかね」

 私はスマホを手にベッドへと潜りこむ。


 初配信から早3週間。毎日とまではいかないが、週3〜4日のペースで私は配信を行なっている。主な、というより現状の配信は全てがホラーゲームの実況プレイ。

 

 初配信でホラーゲームを苦もなくこなした結果、私はホラーゲームの人と認識されたのか、『配信でなにをしてほしいか』のアンケートをタムッターでとると、ホラーゲームの実況配信リクエストが圧倒的に多く、活動の方向性、メインをどうするか決めていなかった私は、これに乗っかることにしたのだ。


「あ、なたねさんからコメントきてる」


 タムッターで今日の配信の感想チェックを行っている時、先輩の山吹なたねさんが、私の今日の配信後のつぶやきにコメントしていることに気がついた。

 

 そしてその内容は『ホラゲーつよつよニャンコ後輩』というものだった。

 さてさて、どう返したものか……よし。

 

『あ、ホラゲーよわよわワンコ先輩だ』

 私は少し考えたあとこう返した。


 そう、カラフル随一のゲーマーで、ありとあらゆるジャンルをプレイするなたねさんだが、ホラーゲームにはめっぽう弱い。

 

 どれほど弱いのかというと、『ありとあらゆるジャンル(ホラーゲームは除く)』という具合であり、過去に一度もホラーゲームの実況配信を行ったことがない。


 正確には一度だけ行なったことがあるのだが、スタートボタンを押せずに最初の画面で5分ほど経過したのち、別のゲームの実況配信に変更しており、実質行っていないに等しい。

 

『……よわよわじゃない。つよつよでもないけど、よわよわでもない』


 私の返しになたねさんは、あくまでも弱くはないと主張する返しをしてきた。ほほうほうほうほほほほう。そんなこと言われたら、ちょっとイジワルしたくなっちゃいますなぁ。

 

『なるへそなるへそ。つまり足して2で割ってふつふつと。我が輩、ふつふつな先輩とホラゲーしたいなぁ〜。夏の夜長に、一緒にホラゲーしたいニャ〜』


 若干、錫色れんがモードにはいっている私はついこんな返しをしてしまう。コラボ配信の誘いともとれるが、なたねさんのホラゲー耐性を考えれば完全なる煽りである。

 

 さて、いいごめんなさいコメントを考えねば。こういうのはオチというか締め方が大事だからね。


『……いいよ。でもふつふつだから、怖さもふつふつのやつがいい』

  

 私が次どう返すかを考えているところに、なたねさんからまさかの言葉が返ってきた。


「え」


 私はそれを見て驚く。まさかオッケーがでるとは思ってもいなかったからだ。

 ……どうしよう、コラボってことだよねこれ? え、どうすればいいのこれ? まさかここにきて冗談ですなんて口が裂けても言えないし。……ええい! ままよ!


『ヒュー! さすがなたねの先輩! ありがとうございます! ふつふつホラゲーでよろしくお願いします!』


 私はまさかの事態に慌てるも、ここまできたらあとに引くことは出来ない。

 勢いで突っ走る以外の選択肢がなくなった私にはそう返すしかすべはなく、まさかのコラボが決定するのだった。


◇◇◇◇◇◇◇


「えっと……なにか、飲みますか?」

 

 部屋の中に入り、テーブルの横に座る私に、中野さんは冷蔵庫を開けながらそう聞いてきた。


「あ──でもエナドリ、エナジードリンクしかない……」

 中野さんは冷蔵庫の中から私に視線を移し、申し訳なさそうな顔をする。


「あ、だ、大丈夫です。飲み物、持ってきたので」

 私はバッグの中から水筒を取り出して中野さんに見せる。


「ん。あ……もしかして、要ちゃんからエナドリしかないって聞いてました、か?」

 

 中野さんはエナジードリンクを手に持ちながら、テーブルをはさんで私の向かいに座る。


「えっと、はい。要にエナジードリンクしかないから、飲み物持っていった方がいいって言われたので、持ってきました」

「ん」


 中野さんは私の言葉に小さく頷いた。

 そしてエナジードリンクを開け口をつける。私もつられるように水筒のフタを開け中のお茶を飲む。会話が止まり、部屋に沈黙が流れる。

 

 ここまでの感じだと、どうやら中野さんは口数が多いタイプではないようだ。そして私も基本的におしゃべりな方ではない。

 ……これは無謀なコラボだったか? おしゃべりな要もいれて、3人でコラボするべきだったか?


 ちびちびと、まるで牽制しあうかのように私も中野さんも飲み物を飲む。

 しかしいつまでも飲んでいるわけにはいかず、ほぼ同じタイミングでテーブルの上にエナジードリンクと水筒をおろす。

 

 だが会話が始まらず、お互いに視線が泳ぐ。…………気まずい。

 ──と私が思った瞬間、中野さんはエナジードリンクをあおり、ゴクゴクとのどを鳴らして一気に飲みだした。


 私は突然の出来事に驚き中野さんを見る。

 な、なんだ? なにが始まるんだ? 

 

 私が戸惑っていると、エナジードリンクを飲み干した中野さんは顔を下ろす。

 そして私と目が合う。なんだか少し、気合いの入った顔をしている気がする。

 

「あ、あの、杉並──じゃない、い、和泉ちゃん」

「え、あ、は、はい」

 

 中野さんは杉並という名字ではなく、“和泉ちゃん”と名前で私のことを呼んだ。

 

「えっと、私、そんなにしゃべる方じゃないけど、その、せっかく一緒に配信するから、楽しくやりたいっていうか、同い年だし、もっと普通に仲良くしたいっていうか──」


 中野さんは最後、うつむき顔を赤くし、しどろもどろになりながらも、仲良くしたいと言ってくれた。──ん? っていうか。


「え!? 同い年なの!?」

「え!? う、うん……二十歳はたち、だよね? 和泉、ちゃんも……」

「う、うん、そうだけど──」


 私は中野さんが同い年だと知って驚いた。

 小さくてかわいらしいから絶対に年下だと思ってた。


「そっか、うん。わかった。というか──ありがとう。私がもっとちゃんとしゃべれたらよかったんだけど、普段はこんな感じでさ」

「ん、大丈夫。要ちゃんがメッセージくれて『最初は借りてきた猫度120%』って教えてくれてたから。──あと『でもチョロインなんで攻略は簡単っす』とも言ってた」

「だれがチョロインだ」


 私は要の言い回しを口にした中野さんにつっこみを入れる。

 すると中野さんはかわいらしく笑い、私もつられて笑いだす。

 

 これは気を回してくれた要には感謝しないと。

 もちろんそれ以上に、私と同じであまりしゃべる方ではないのに、勇気を出して仲良くしたいと言葉にしてくれた中野さんに、いや──。


「弥生ちゃん、ありがとう。──じゃあ、あらためて、今日はよろしくね」

 私は少し照れながらも名字ではなく、“弥生ちゃん”と名前を呼んだ。


「ん、弥生──弥生でいいよ」

 すると弥生ちゃんは視線をそらし、照れくさそう私にそうつげる。


「わかった。よろしくね、弥生。私も和泉でいいよ」

「ん……わかった。よろしく……和泉」


 私と弥生はお互いの名前を呼び合う。

 そしてお茶とエナジードリンクで乾杯をかわし、あらためてよろしくの挨拶をするのだった。



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