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早朝の双鳥が総長と曹長で発生するゲシュタルト崩壊

一年の締めくくりがこれでいいのか……。

きっといいのでしょう。


前回からの続きです。

 電話をしている橋本の顔が突然輝き出した。


「え? ビソプロロールはいったの? 0.625mg? マジで? ソーチョー分けてくれんの? 100錠も? うわ! やべえマジ感謝!」


 どうやら電話の相手と、現在出荷調整中で品薄の薬品の小分けについて話をしているようだ。ということは、ソーチョーという人物は薬局関係者だろう。


 今度は突然、橋本の顔が蒼白になる。


「え……。ソーチョー今おれの家の前にいんの? 嘘だろ……?

 気をつけろソーチョー! おれの玄関の前に何か不審なものが置かれてないか?

 ……うわ! ダメだ! そのどんぶりには決して触るな!

 その中の肉じゃがは危険だ! 爆発するぞ!!」


 橋本が異様に緊迫したテンションで電話をしている。

 なんだか県警本部の人間と爆発物処理班との連絡みたいだ。


 僕は味付けの濃いカルビ肉を食べながら、橋本の話を聞いている。


「まさかとは思うが、女に話しかけられたりは……やっぱりか! なんて答えたんだ? ……さすがソーチョー! 上出来だ!

 しかしおそらく尾行されるぞ……ああ、今その女はどこかでソーチョーを見張っているはずだ。撒けるかソーチョー? さすがだ。頼もしいぜ!

 そうだ。おれは今、その女から身を守るために、ある場所に潜伏している」


 おいおい。まさかそのソーチョーとか言う人をここに呼ぶ気なんじゃないだろうな。


 僕は嫌な予感がした。


「まずは第一チェックポイントの△△店の駐車場でいったん連絡をくれ。頼んだぜソーチョー。女の追跡をかわしてここまでたどりついてくれ! 健闘を祈る!」


 電話を切った橋本は、嬉しそうに割り箸を持つと、なにごともなかったかのように「いっただっきまーす♪」と弁当を食べ始めた。


「……橋本。ソーチョーって誰?」


 あまり聞きたくはなかったけれど、確認しないわけにはいかない。現在、僕の家に危険人物接近中だ。


「お、やっぱ食いついたな須加。さあ、須加はソーチョーっていうと何を思い浮かべる?」


 橋本の意地の悪い笑みを浮かべる。

 面白がっているが、こっちはたまったもんじゃない。


 ソーチョーっていうと、そうちょう……総長……。


「え……? なんかこう『夜露死苦』的な刺繍の入った特攻服とか着てたりする人……?」


 違うと言われる期待をこめて、そう橋本へ回答する。


「あー、それなー。うんうん。だよなー」


 否定しないのか……。

 絶望と恐怖がじわじわと僕の元へ近づきつつあった。


 そこでまた電話が鳴る。


「お。ソーチョー速いじゃん! 撒いた? サンキュー!

 んじゃおれ、須加の家にいんだわ。

 あ、そうそう! おれの奥さん! あ、どうだろ。おれが奥さんなのか? どっちでもいい?

 目印? ロイホとセブンの十字路あんじゃん? そこを向かって右に曲がって、4つ目を左。おう、後でな!」


 橋本が電話を切ったのを確認してから僕は文句を言う。


「後でな! じゃないよ! なに勝手に怖い人うちに呼んでんだよ! しかも奥さんってなに!?」


「あれ、知らなかった? こないだ会社に証明書出したじゃん?

 あれですげえ有名になっちったよ。おれたち」


「なっちったじゃない! しかも勝手に何を提出したんだよ! 僕はサインなんかしてないぞ!」


 するとどこからかドゥルドゥルドゥルドゥルと重たいバイクのエンジン音が聞こえてきた。


 橋本が僕の追及から逃げるように腰を上げた。


「あ、ソーチョー来た。おれ迎えに行ってくる」


 ……嘘だろ?


 僕は逃げることもできず、自分の部屋で弁当を前にして固まっていた。



・・・



「須加ー。こいつがソーチョーだ。鳩間ソーチョーな」


 橋本が紹介してきたのは、真っ黒の革ジャケットにフルフェイスをかぶった人物だった。


 もう……怖すぎる。


 その人はフルフェイスを脱ぎながら橋本に文句を言った。


「やめてくれ橋本。曹長ではない。元二等陸尉だ。そしてもう私は、除隊した身だ。階級をつけるな」


 鳩間と言う名前のソーチョーさんは、まさかの女性だった。

 首元に手を差し入れると、ジャケットの中からきれいな長い髪をサラサラと出してきた。


 あれだ。

 バイクのヘルメットを外すと、中から美人なお姉さんがキレイなロン毛をサラリとおろしちゃったりするやつだ。


 ヘルメットの中に、ロン毛をしまうのってどうやってるんだろうと謎だったけれど、やっぱりヘルメットの中に髪はしまったりしないらしい。


「ニトウリクイ?」


 聞き慣れない言葉を僕が繰り返すと、橋本がニヤニヤしながら説明を始めた。


「そうそう。鳩間二等陸尉閣下はもと自衛官。

 薬学部卒業後、自衛隊の幹部候補生学校行った変わり者な。なあ、陸尉って曹長より上?」


 親しげに問いかける橋本へ、鳩間元二等陸尉さんは、階級に閣下をつけるなと睨む。


「曹長は曹位のトップ。尉官からが幹部だ」


「あれ? じゃあ鬼軍曹的なのは?」


「軍曹は日本にはない。一応、あったとすれば役職は……曹長の下だ」



 軍曹……!?


 それって……! それってもしかして……!


「口からクソする前にサーをつけろ! このモヤシ野郎が!」……とか!


「私はもやしも白豚も差別しない! すべて平等に価値がない!!」……とか!


「頭を切り落として首からクソを流し込んでやる」……とか!


 そういうやつだよねっ!? そういうシチュエーションやってくれる人ってことだよねっ!?



 僕を激しく罵ってくださぁぁぁぁあい!! ハートマン……じゃなかった! ハトマ軍曹ぉぉぉおおオオオオッ!!


 そして僕を『微笑みもやし』と蔑んで、なおかつ痛ぶってくださぁぁぁあああいっ!!



 本日をもって、僕の妄想レパートリーにハトマ軍曹閣下が確固たる地位を確立したのは言うまでもない。



誰もわからないだろうな。フルメタル・ジャケット。

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