第7話『寝取られ男とワイルドボア』
ワイルドボア。
それは俺にとって、何よりも印象に残る……というよりか、トラウマの一つとも言える魔物だ。
簡潔に話すと、冒険者なりたての17歳の頃に一度不運にも遭遇して、一時死にかけるところまでボコボコにされた。
まぁ、冒険者になったからと調子に乗って挑んだのが運の尽きだったわけだが――――ワイルドボア自体は冒険者ランクEに位置する。
まずランクFはほぼほぼチュートリアルのようなものだからともかく、冒険者の大半はランクD前で死ぬか辞めるかそのままランクEのまま依頼をこなすと言われている。
その理由がこのワイルドボア。
EからDに上がるための昇級依頼として立ちはだかる登竜門の壁。
FからEまでの昇級依頼は白薬草(ハイポーションなどを作る際に必要になる)かゴブリン数体の退治と、油断はできないがこなせないものではない。
だが、ワイルドボアはそんなのとは文字通り格が違う。
その枝角のような牙が体を穿けばほぼ確実に死ぬ
突進をしてきたかと思えば次には仲間の首が宙を飛んでいた
生半可な武器ではダメージが与えられないほどの分厚い毛皮
そこまでの獣なのだ。
つまり俺として言いたいのは、師匠はどんなとち狂った考えで11歳のガキにそいつを任せてきたのか、という話だが……。
(まぁ、中身は元A級冒険者だ。それに、ワイルドボアなら対処法は腐るほど勉強してる)
だが、危険な魔物相手でも俺はやってやる。
師匠が認めてくれた、なら俺もやる……それが流儀だし、今後俺が生き延びるための術でもある。
いざというとき日和ったら間に合わず地獄の底まで落ちる。そんなの、前世で腐るほど学んだことだしな。
「さて、覚悟はいいか?ジョンよ」
そう頭の中で考えていたら、師匠がそう問いかけてきた。
まぁ、色々考えるところはある。
だがそれ以前に、やると決めたことだから下がることはしない。
「あぁ、師匠。俺にやらせてくれ」
小太刀の鞘の冷たく堅い感覚が俺の手に確かな存在感を示していた。




