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第9話『クローバーの白花が散るときに』

 緑葉が紅に染まり、華やかな王都の大通りに並ぶ街並木は紅葉や黄葉を輝かせている。


 いつもであればバザールが開かれ、盛んにブロッサミア王家のお膝元たる王都の醍醐味を味合わせてくれたことであろう。


 だが、今の大通りには歓声もなければ客寄せの声も響かない。

裏切り者をそしる罵詈雑言が響き、赤屋根の王都に血を望む感情が広がっているのがわかった。


「ヴィクトリア……まさか、お前がここまでするとは思わなかった」


「お父様、私に任されたのでは?」


「あぁ。だが、結局の所最後は……私がけじめをつけるつもりだった。お前に背負わせるつもりはなかった」


 人混みの中。

少しばかりやつれた辺境伯と可憐な容姿を見せる令嬢が並びそう言葉をかわし合っている。


「お父様、それとピエールの事ですが」


「……分かっている」


「流石です、お父様!それで……どうされるのです?」


「泳がせるつもりだよ。まったく、辺境伯家も落ちぶれたものだとつくづく痛感した」


 その言葉に対し、ヴィクトリアは両手を合わせて微笑む。

薄く開かれたその瞳に、慈悲など見えないが。


「ふふ。しっぽを切って安堵したトカゲがどうするのか、見物ですね」


「今まで失ったぶん、帝国から取り返してもらうさ。それよりもヴィクトリア」

 罵声が響く大通り。

牢屋のような車を引く二匹の馬が遠くより見えた。


「なにがあった」


「なにがあった……とは?」


「私が気づかないと思うのか?最近、カレンデュラとも文を交わしていることは聞いている。なにがしたい」


「とはいえどもお母様の生家ですから。不自然ですか?」


 冷たい秋風がびゅいっ、と激しくそよぐ。

するとヴィクトリアは白いつば広帽子を抑え、空を見上げる。雲は相変わらずゆっくりと流れ、罵声などものともしていないように思えるほどだった。


「お前の人が変わったように豹変したのは理解している……しかしお前は聡明だからカレンデュラとの文もなにか考えがあるのだろう。私もそんなお前に家を継がせようと思っている―――だが」


「やりすぎるな、ですか?お父様、そう言ってお兄様はあのような様を晒したのです。何事も少しはやりすぎな方が丁度よいかと」


「粛清帝と同じてつを踏みたいのか」

 

 ヴィクトリアは顔を振り向き、自身の父へとその視線を向ける。

そして辺境伯は思わず強張った。


 まるで、亡きヴィクトリアの母のような目をしていたのだ。

王家であれば確実に国王になれたとまで称された、鉄の女とも呼ばれた……そう辺境伯は面影をヴィクトリアに感じた。


「同じ轍は踏みません。粛清帝と違い、私には想い人がいますから」


「……災難だな、その想い人とやらも」


「お母様と一緒になられたお父様が言えることですか?」


「――――違いないのかもしれんな」

 そして、辺境伯は死にゆく実子が馬に引かれる牢で泣き叫ぶ姿を見て目を閉じる。



どこで間違えたのだ、私は。

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