第39話『寝取られ男と対人戦』
「うぐっ!」
慌てて分厚い斧の攻撃を避ける。
もしあれに当たったら。そう思うだけでゾッとしてしまう。
「どうしたガキ。さっきまでの威勢はどこに行ったんだ、あぁ?」
斧の柄を肩に乗せてほくそ笑んでいる山賊頭。
黄ばんだ歯をこれでもかと見せて俺を見下している。
露骨な挑発だ。あれに乗って攻撃したら確実に俺の胴体と頭はおさらばすることだろう。
「安い挑発だな」
「はんっ、いつまでその威勢が続くかなァ!?」
二撃目の斧が振り下ろされる。
やはり、力強い。確実に戦闘慣れしてる動きだ。
そうだ、まるで……“山賊“じゃないような。
「―――斧、やけにきれいに整備してるんだな」
「あ?」
頬に斧に裂かれた鋭い風が当たる。
先程から汗が止まらない。緊張が……和らがない。
少しカマをかけてみよう。
「山賊なのにメンテナンスをする暇があるんだな。見たところそこまで広い規模じゃないのに」
「……何が言いたい?」
カマに引っかかったな。
やっぱりただの山賊じゃないのか。
「辺境伯領は帝国に面した立地だ。なら、当然頭に浮かぶよな?」
「……」
ここからは完全に俺の推理だが、うまくこいつの感情を揺るがせることはできるか。
俺は体格的にも力的にも圧倒的に不利だ。なら、精神的に優位に立つしか方法はない。
「帝国の息がかかっている……とかな」
「……ガキ、テメェやっぱりただのガキじゃねぇみたいだな」
ドンッ!と斧が真横を通り過ぎた。
次の攻撃に対して身構える。
「なら……余計生かしてはおけねぇよな?」
――――先程とは全く違う斬撃が繰り出された。
文字通り、明らかに山賊ではない者の斬撃。
危険。頭の中がガンガンと警鐘を打ち鳴らし、俺の肌にピリピリと刺激のようなものが響き渡る。だが、体がこわばる……こんなときに限って!
「ジョン、横だぁ!」
ボーグの声が聞こえた。
刹那、俺がしゃがみこんだと同時にわずかな髪が切り離れる感覚を感じた。
「首ィ……取れたと思ったんだがなァ?」
反撃にナタを足元へ振り抜く。
がぎッ、と鈍い音を立ててナタ自体が弾き返された。
「やっぱり、お前!」
「抜け目ねぇな、クソガキ。お前みたいなのを成長する前に殺せて嬉しいぜ」
そして、俺の腹部に激痛が走った。
カエルが人間に蹴り飛ばされたかのように、俺は空中へと叩き上げられる。
胃の内容物がかき混ぜられて、腹の中という中が痛みの悲鳴を上げる。
そして、山賊頭を見れば先程の構えで斧を構えていた。
「せめて一発で決めてやらァ」
斧が風を切る音が鼓膜に伝わる。
死の風が、確実に俺を蝕んでいる。
「じゃあな、クソガキ」




