第38話『それでも俺/僕は最後まで諦めない』
「なんだこのクソガキぃ!」
リシャドール山賊団。
50名という人数ながら、帝国の間者を兼ね王国にて山賊行為を繰り返す者たち。
特に満足な金を貰えば対象を略奪、燃やし、全てを灰に還すということを行う壊し屋でもある。
そして失敗した事柄などない。そんな山賊団はクローバー村という片田舎の村を襲撃するために計画を立てた。
陽動と主力、二手に分かれての攻撃。
無論それは完璧なはずだった。そう、ある障害さえなければ。
「ぁぁぁあああ!!」
「ば、化け物がぁ!」
たった2人の子供を大の大人で囲んでいるにも関わらず、なおもしぶとく生き残るのだ。
むしろ、山賊側にも被害が出始めている。
とくに子供のうち、茶髪の子供はもう片方の子供を援護しつつもその携えたナタで山賊の頭を割ることさえしていた。
明らかに子供の技術ではない。
そう、まるでどこぞの武芸者が子供に乗り移ったかのような。そんな感覚さえ山賊たちにもたらす。
「ガキ程度に何手間取ってんだ!」
「か、頭!こいつはただのガキじゃ、うぎぁッ!」
子供二人が山賊の波に突撃を敢行してから、10分程度が経過した。
袋叩きにしようとしてもその小柄を活かしてすりぬけては攻撃し、あまつさえチャンスさえあれば山賊団の頭にさえ攻撃を仕掛けようとする。
さらにもうひとりの黒髪の子供は技術は拙いが、茶髪の子供がとどめを刺し残ったものへと明確に棍棒での殴打を行っている。
しかし、どちらにせよ数の差と力の差がある。
この二人の子供が消耗して直にすり潰されるのは時間の問題だろう。被害もそこまで広くはなさそうだ。
「頭、どうしやす?」
「フンッ……そうさな」
しかし、短時間ながらも子供二人に翻弄されているということは山賊のメンバーの士気に関わる。そう考えた山賊団の頭はある妙計を考えついた。
「あの茶髪のガキとタイマンでも張ろうかい」
ならば、その士気低下の根源である子供を潰せば全て収まりがつく。
士気の向上も見込めるだろう。それに村の中へは既に主力の一部が侵入しつつあり、村内の衛兵や残存した自警団と戦っていることだろう。
(このガキをさっさと潰して、合流しねぇとな)
所詮、子供。
だが、それこそが二人の策略であることを山賊団の頭は知る由もなかった。
「ジョン、ちょっと待って」
「ボーグ?」
突撃を行おうと身構えていたとき。
ボーグから呼び止められる。
「今、策が思い浮かんだのさ。成功率は低いけど……確証はある」
「策?」
「あぁ。山賊のプライドをうまく利用する策さ」
ボーグいわく、山賊連中の目下に対するプライドは非常に高い。
なにしろ雑魚専が仕事の山賊だ、当然村人の子供程度かんたんに片手で捻り潰せると思っているのだろう。
だがそこでボーグが考えついたのはそれを逆手に取るということだった。つまり、山賊のプライドを刺激して故意に山賊の士気を低下させる。
そして業を煮やした山賊団のリーダーから俺に決闘を挑ませる。
そこで俺が山賊団のリーダーを叩き潰す……というやつらしい。うまく行けば山賊自体を瓦解させることができるかもしれないというのだ。
だが、当然デメリットは大きい。
まず山賊団のリーダーがこちら側にいるのかどうか、そして山賊団のリーダーがこちらの誘いに乗ってくれるのか、誘いに乗るまでにこちらが耐えることができるのか、まず決闘で勝てるのか……というふうなものだ。
改めて思うと完全にギャンブルでしかない。だが、やらなければいけない。
やらなければ文字通り終わる。俺たちには唯一通れるかもしれない道を進むしかないんだ。
そしてその策は成功した。
山賊団のリーダー……頭と呼ばれている男から決闘の誘いがあった。
山賊メンバーの囲む中で、俺はナタを握りしめて大男と退治する。
まるで獣みたいに生えた体毛、髭だらけの顔、体にまとったボロボロの鎖帷子と革鎧。
勝率は低いのかもしれない。
ナタでやれる範囲などたかが知れてるだろう。だが、それでも。
「クソガキ、泣いて喚いて降参するなら今だぜ。そんときゃ奴隷に売りさばくだけで勘弁してやるよ」
「アホなことを言う前に自分の墓の準備はしなくていいのか?イノシシ野郎」




