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第36話『寝取られ男と運命の日』

 精霊暦790年8月5日、早朝。

ボーグと俺は二人で河原に集まっていた。


「おそらく、山賊はこの経路で来るはずだ」

 そう言ってボーグは手製の村周辺の地図に黒線を書く。

クローバー村は平原の真ん中にある村だが、その東は川で防がれている。そして北部は粗製だが木の壁。ボーグが書き示したのは裸同然の南部と西部だった。


「当然、衛兵たちのいる北部は避けるだろう。川越えも行わないはずだ……こう見えて、この川は落とし穴のように突然深くなる。毛皮やら革の鎧を着た人間が泳げるなんてことはまず考えないでいい」

「なら、南部と西部を守ればいいのか?」

 ボーグは頭を横に振る。

それは、南部の経路だった。


「ジョン、君の見つけた文が修道院跡にあったのなら、敵はおそらく森から来るはずだ。だが、南は辺境伯の城や領都への直通ルート……定期的に騎士がパトロールしているのに回り込んでいくのは現実的ではない。いくら夜間でも、敵は陽動を衛兵のいる壁に向けてくるはず。ならなるべく危険の少ない場所に行くはずだよ」

 つまり、あえて部隊を分けるのであれば森から近く遮蔽物の少ない西から攻め込んでくる可能性が高いということか。


「壁に一点集中させても被害は積もるばかり。ならあえて陽動を壁に向かわせて、衛兵の目を引きつけて……」

「西から一気になだれ込む、ということさ。今日、貴族の私兵が来るとは限らない。だけど、僕たちだけで守るなら西しかない」

 たった数人の子供でか。

ため息をつくしかない。


「正直、勝率はかなり低い。でも―――ジョン、君には貴族のガールフレンドがいたよね?」

「ガールフレンド?ヴィクトリアのことか?」

 今度は首を縦に振るボーグ。

ガールフレンドってより生徒なんだけどな。


「その子がもしこの村に来るなら必ず護衛を連れるはずだ。昨日はジョンの家の中を盗み見させてもらったけど、君と彼女の仲は良好に見えた」

「えっ、なにサラッとやばいこと言ってんのお前!?いつ見てたんだよ!」

 俺の返事を無視してボーグは言葉を続けていく。

デリカシー0かよ……。


「彼女に頼み込めば、護衛の兵士数人を西側に配置できるだろう。戦闘訓練を組んだ人間のはずだ―――山賊相手になら耐えられる可能性が高い」

「貴族に、頼み事を?」

 ボーグはやれやれというふうに手を動かす。

なるべく貴族に頼みごとはしたくないんだよなぁ。色々と後が怖いし。


「ガールフレンドだろう?」

「生徒だ。一応雇われの先生兼護衛だったからな」

「なら教師の頼みくらい聞いてくれるんじゃないの?」

 わかってないなぁ、ボーグは。

こっちがそう思ってても相手はこっちをただの他人としか思ってないんだよ。そういうもんなんだ。


「俺がそう思ってたとしても、相手はそう思ってないだろうさ」

「ふーん……ジョン、君ってすごい鈍感だな。普通目を見たらわからない?」

 普通は目を見て好感度とかわかるわけないだろ……。

まぁ背に腹は代えられない。頼むだけ頼むのも、悪くはないか。


「まぁ緊急も緊急だ。頼むだけ頼んでみるよ。ただ、もし断られたときはどうするんだ?来ない場合もあるだろ?」

「諦めて死を受け入れるしかないね。子供数人でどうにかなる相手じゃないよ」

 完全にギャンブルじゃねぇか!

運に命をかけるの一番嫌いなんだが。


「僕も賭けみたいなのは嫌いさ。でも、そうするしかやりかたはない。そうだろう?ジョン」

 俺より頭のいいボーグの考えたことだ。

俺がこれ以上深く考えてそれより良い案が思い浮かぶ気はしない。

いいぜ、乗ろうじゃねぇか。どのみち運に懸けるしか無いんだ、やるだけやってやろう。


「あぁ。なら、まずはお嬢様が村に来ることを祈らないとな」

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