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閑話『どす黒い怒り』

「へぇ。辺境伯家の御仁ともあろう方があっしらのような賊になんのようです」

「深く聞くな。おい、アレを」

 くすんだ金髪、元は整っていただろうに今や頬が痩けて目に隈の出来た上質な服をまとった青年が荒々しい見た目をした薄汚れた男に対し、従者に膨らんだ麻袋を渡すように指示する。


「……開けてもいいんですかい?」

「勝手にしろ」

「へへ……おぉ!こりゃすげぇや」

 袋の中身は大小様々な金銀貨幣がごろごろと入っており、少なくとも5人程度の人間を1年は遊んで暮らせられるほどの金額が入っていた。


「さすがお貴族様。ヒヒ……でしたら、どんなことでもお聞きしやしょう」

「仮にも帝国軍の間者も兼ねているだろうに、金さえ渡されたら王国貴族に追順するなど、やけに節操がないようだな」

「帝国の連中なんざ滅多に命令も出さなきゃまともな食い扶持も与えてくれやしませんで」

 金髪の男はフッ、と狂気に染まった笑みを浮かべた。

まるで幽鬼のような雰囲気を漂わせている。


「ではまず修道院跡のホブゴブリンを追い出し、クローバー村近くの洞窟へと追い立てろ。あのホブゴブリンは人に恨みを持っているという情報がある……すぐにでも村を襲おうとするはずだ」

「そんな回りくどいことする前に村を先に襲ったほうが手取り早くないですかねぇ?」

「村の自警団の数を減らすのが主だ。それに辺境伯が出す兵士の量もたかが知れているだろう……その後、クローバー村を略奪しろ。好きにしていい」

 金髪の男は淡々と残虐なことを述べていく。

おそらく賊の部類なのであろう連中は気味の悪い笑い声を響かせる。


「クローバー村……あそこにゃなにもありやせんが?」

「殺したい人間がいる。タイムリミットは1週間と4日。できるな?できないなら金は取り上げる」

「ヒヒ、もちろんやらせて頂きますとも。村を焼くくらい、造作もねぇでさぁ」

 金髪の男は満足げに笑えば、若干色褪せたコートを揺らす。

煤汚れたランタンの中に置かれた蝋燭の火が、ゆらゆらと波打って暗い小屋の中を照らす。


 そして、男はその返事に満足したのか小屋の外へと出た。

星空と三日月が浮かんでいる。


「くく、くくくく。ヴィクトリアぁ、お前の大切なものから潰していってやる。一つずつ、確実になぁ……その後、お前を殺してやる」

 自身が受けた屈辱。

それに対する憎悪による復讐を為すため、一人の男が狂気に呑まれる。


 それを悟るものは、未だ誰もいない。

だが遅かれ早かれ男の破滅への道が明らかなのは、目に見えていることだろう。

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