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第31話『寝取られ男は気絶から目覚める』

 俺が洞窟で気絶してから、一週間ほどが経ったらしい。

一日寝た時点で毒はすでに抜けてたはずだが、ゴブリンと戦った疲労が想像以上だったらしい。


 起床するとまず母さんからこっぴどく怒られた。

まぁ、仕方ないことだ。本来は子供が行くようなところではないのだから。


 でも、そのあとに母さんから感謝された。

父さんを助けてくれたのはまごうことなく俺だから、らしい。


 ただ、村の空気は暗かった。

自警団の半数近くが洞窟でゴブリン相手に戦死した。唯一生き残った父さんでさえも傷だらけで満身創痍だった。


 そして見舞いに来たボーグからクソビッチ……いや、エリーゼが俺を洞窟内から背負って助けてくれたことを伝えてくれた。

流石に、それに対して悪態をつけるほど俺は歪んでない。


 それに対してどんな私益が絡んでいたとしても命の恩人だ。前世でのことは忘れないし距離を取るのは変わらずとはいえ、少しは俺も態度を改めようとは思った。


 しかし村長の娘であるエリーゼが危険地帯に行ったという事実は変わらず。今は家で謹慎中らしい……出てきたらなにか一つ願い事でも聞いてやろう。借りはそのままにしておきたくない。


 そして現在。

ベッドの上で上半身だけを上げて、鎮魂のランタンを飾り付けた村の風景を見ていた昼下がりだった。


「ジョン、お客さんよ」

 母さんが俺にそう呼びかけてきた。

誰だろう?そう思ってちらっと見てみると、なるほど確かに”お客さん”が立っていた。


 流れるような金髪、人形みたいな顔。

ヴィクトリア・オブ・シャムロック……辺境伯の一人娘がそこに立っていた。


「先生、ご無事でしたか!」

 たったっ、と音を立てながら心配そうに駆け寄ってきたヴィクトリア。全然ご無事ではないけどまぁ愛想笑いで誤魔化そう。


「まぁ、この通りさ。今の間、勉強と鍛錬ができないのは少し困ってるけどね」

「先生はいつも頑張りすぎです。少しは御身をお労ってください」

 ヴィクトリアの背後あたりをちらりと見る。

ごつい顔の人がむっとした表情で仁王立ちしていた……護衛もしてるのか、あの人。


「そういえば、ヴィクトリア。あの後ろの人って……」

「はい?――あっ、ピエールのことですか?」

「ピエールさんって言うの?」

 ヴィクトリア曰く、ピエールさんは辺境伯家に代々使える家の人らしい。どうやら辺境伯の側近を担っているとか。


「普段はお父様の近くにいるんですけど、今日は私の護衛についてくださってるんです」

 なるほどなぁ。

まぁ、悪い人ではなさそうだ。


「そういえば先生。少し耳寄りなことが……」

 そう言ってヴィクトリアが深刻そうな顔で俺の耳元に顔を寄せてくる。内密なことなのかな?ただもうちょっと顔離してくれ、俺もその後ろの人に無礼で斬り殺されたくない。


「――ゴブリンの元の居場所がわかった?」

「はい。お父様にクローバー村近くでホブゴブリンの率いる群れが発生したという情報が入って探られていたらしいのですが、そこで少し私も聞き及んだのです」

「何を?」

 ヴィクトリアは少しばかり息を呑むと、改めて言葉を語り始めた。

護衛の人の目つきがだんだんちょっと鋭くなってないか?


「どうやら、ゴブリンたちは追い出されたらしいのです」

「追い出された?」

「はい。あの洞窟から離れた古い修道院跡に元々ホブゴブリンたちはひっそりと住んでいたらしいのですが、何者かが人為的に追い出したのだと」

 何者か、が?

つまりゴブリンたちが洞窟に行ったのはつい最近のことで、誰かが故意にそれを行ったってことなのか?


「詳しくは調査中らしいのですが……村の方へ私兵を派遣するとも言っていました」

「そりゃありがたいな。ただでさえ自警団が激減して村の防衛力も低下してる」

 そしてヴィクトリアがやっと離れる。

耳がなんかムズムズするな。


 ただ、有益な情報を聞いた。

ゴブリンを何者かが追い出した。そしてその古い修道院跡に何か痕跡があるはず。


 俺だって、村の人達を何人も死なせてしまったこの事件を軽く見てはいない。命は大事だし親は悲しませたくないが、それでも自分なりに調査はしてみよう。


 まぁ、まずは養生が先だ。

治す傷も直さないと、どうしようもないからな……。

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