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第27話『父は戦う、家族のために』

「はぁ、はぁ……まさか、こんなことになってたとはな」

 掘り広げられたゴブリンの洞窟の最深部……大広間で松明片手に剣を持ち、波状攻撃を仕掛けてくるゴブリンに対して辛うじて戦う男『リディ・ステイメン』は仲間一名と共に立っていた。


「リディ、このままじゃまずいんじゃないのか」

「あぁ。まさかゴブリンリーダーがいたとは想定外だった」

 ゴブリンたちは統制された動きで無理に前進してこようとはせず、投石といった手段などを使い、時には突撃してリディたちの精神をジリジリと削っている。

  

 足元には自警団の仲間たちの死体が転がり、ゴブリンたちの死体も多く転がっている。だが、そろそろ体力的にも限界が訪れつつあった。


 この規模……ただの流れのゴブリンなどであれば、おそらく犠牲は一人も出さずに壊滅させることができた。だが、リディは大広間の奥にて黒曜石の鋭い穂先が目立つ短槍ショートスピアを両手に二本携える少しばかり大柄で精悍な顔つきのホブゴブリン……この群れ共の主を睨む。


 自らは前線には出てこずゴブリン語による指示を使い、まるでチェスでポーンを動かすかのごとくゴブリンたちを正確に動かしていた。

人一人に対してゴブリンの犠牲は3匹。群れの規模は50匹。つまり10人の自警団に対しては30匹の犠牲でホブゴブリンは人間たちに対しての勝利を掴もうとしていたのだ。


 そして今、もう二人までになった自警団を見てホブゴブリンはほくそ笑む。


 かつて人間どもに追い回され、迫害され、人には迷惑をかけずに森奥に暮らしていたのにも関わらず……ことあるごとに群れを滅ぼされては無惨にもその死体を切り取られる同胞たちの姿を力無き時代の自身が見ていた生々しい記憶を脳裏に浮かばせながらも、ホブゴブリンは感情を抑え込み着実に家族ゴブリンたちの命を削り人に対しての勝利を得ようとする。


 そしてこの次にホブゴブリンは初めから人の村を滅ぼすつもりでいた。

老婆を配下のゴブリンに襲わせたのも、こうやって村の自警団の連中を誘い込み殺すため。流れの洞窟にゴブリンがまた住んでいるという情報を部下を使い露骨に流させたのも、ホブゴブリンの謀略であった。


 ホブゴブリンの予想では、村にいる人間の兵士は大した量ではないと判断した。ゴブリンの小柄な体型とホブゴブリンの持って生まれた突然変異による知能を使えば、人間の村を滅ぼすことなど他愛もなかった。


 全ては人間に対する復讐のため。

ホブゴブリンの両親は元々ゴブリンの群れの長で、人を襲わない一般的なゴブリンたちにとっては珍しく規律の取れていた群れを率いていた。


 ホブゴブリンも幼少の頃はゴブリンと人はわかり合えるはずであると思っていた。だが、ホブゴブリンの村はあっさりと醜い人間たちに滅ぼされたのだ。


 それからホブゴブリンは愚かな人間を滅し、ゴブリンの王国を作るために行動を始めた。今回の村に対しての攻撃計画はその前段階であり、更に村へは自警団を滅ぼしてから各地に潜む仲間のゴブリンを集めて総攻撃を仕掛けるつもりだった。


 

「あ、ぎゃ」

 そして、リディ以外の自警団の人間が全滅する。

投石が頭にぶつけられ、脳漿のうしょうを地面にぶちまけての最期だった。


「テッドっ!」

 リディは歯噛みして、ついに包囲して自らを捻り潰そうとするゴブリンたちを見る。


 醜悪な顔だった。

壁のように疲弊したリディにジリジリと迫るゴブリンたち。早めに決着をつけようと、毒煙などを使わなかったのが原因だったのだ。リーダーである、リディの責任である。


 ゴブリンたちを侮りすぎていた。

そうリディは後悔する。


 同時に、リディに脳裏にある物が写った。

最近家を助けるためと夢を追うために勉強を始めた自慢のせがれ、そして自身の愛しの妻。リディ唯一の宝物。


 自らが死ねば、それらが全てくすんでしまう。

リディはそう思いながらも、迫るゴブリンたちに対して抵抗ができない。


 すまん、みんな!

そう覚悟を決め、瞼を閉じるリディ。











 刹那、声がひびいた。

リディが再び目を見開く、そしてその声の主は。


「父さん、まだ諦めちゃ駄目だ!」

 驚くホブゴブリンに対して跳躍し、斬撃を加えんとする自らの息子。

ジョン・ステイメンだった。

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