第24話『寝取られ男とゴブリンの巣』
1つ、2つと洞窟の天井から水滴が垂れている。
特に内部には獣とも人とも言えないなんとも言えない匂いが充満し、なるほど確かにゴブリンの洞窟だ。
「獣臭と硫黄臭の混ざったような匂い……ゴブリンだね」
「あぁ、どうやら本当にいたみたいだな」
ボーグが持ってきていたランタンを掲げて洞窟の中を照らす。
糞尿は撒き散らされていない……ということはちゃんと便所なども分けられた洞窟か。
ゴブリンにも種類がいて、指導者のいないゴブリンは野犬と同じような奴らが多い。身内でルールを決めるものもいないので、そのへんに色々と撒き散らしているのだ。
だが、それがない。
ホブゴブリンかオールドゴブリンか。どちらにしても隊長がいることが伺える。
流れのゴブリンが人間に駆除されたゴブリンの古巣に溜まるくらいだからせいぜい隊長無しのゴブリンと思っていたんだが……。
「危ういな」
「ジョン、どうかしたの?」
クソビッチがこてっと頭をかしげて俺に返事をしてくる。
あぁ、どうかしたんだよ。もし隊長がいるとしたら。
「この古巣には脳みそがいる、ということだろう?ジョン」
「あぁ。ゴブリンリーダーがいるとしたら父さんたちが危ない」
ゴブリンリーダー。
そいつはただのゴブリンとは一線を画する。
まず知性が高い。生まれつきの者か成長過程で変異した者はホブゴブリン、老成したゴブリンはオールドゴブリンと呼ばれるのだが、集団を率いる奴は等しくゴブリンリーダーと呼ばれる。
知性が高いゴブリンは非常に厄介だ。場合によっては人間以上の知性を持つものもいて、それらに率いられているゴブリンたちの知能水準もリーダー無しのゴブリンを上回る。
ただでさえ面倒なゴブリンが、知性が高くなって更に面倒になる。
つまるところ危険度が倍増するのだ。
一般にゴブリンというのは冒険者ギルドではS〜Fの分類の中で集団だとEランク、単体だとFランクに分類される。
だが、ゴブリンリーダーに率いられるゴブリン集団は単体でE、集団だとDに分類される。ゴブリンリーダー自体は最低でもCランクの魔物なのだ。
E、Fなら30匹前後の集団でも自警団クラス10名の武力でなんとか対処できる。だが、D、Cと来れば……。
更に言えば俺たち三人が行ったところで助けられるのか?
いくらAランクまで上り詰めたと言っても、今の俺は大きく実力が低下している。ようやっと実用品にまで出来たとはいえ、真正面から戦えるわけがない。ボーグは実質戦闘には出られないし、クソビッチも俺の補助無しではゴブリンと戦い続けることは困難だろう。
だけど。
俺には戦闘には出られないとはいえど頭脳明晰なボーグ、そしてA級まで上るまでに蓄積された知識がある。体は初期化されても、脳みそは初期化されてない。
「みんな、洞窟の外へ出るぞ」
「ジョン、”準備”だね?」
ボーグが完全に理解した表情でそう返事してくれる。
ほんと、10歳でこの理解力と知識力。大人になったらどうなるんだろうな。
「あぁ。エリーゼ、お前も手伝ってくれるか?」
「もちろん、私……ジョンがしてほしいことはなんでもするよ。例え死んでこいって言われても、喜んでやるから」
おいおい、そんな冗談はゴブリン殺してからにしてくれよ?クソビッチ。
まぁ、やってくれるならこっちとしては文句はない。
「そうか。OK、ならまずは―――」




