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第23話『寝取られ男はゴブリン退治に出かける』

 夜。

母さんからは家を出るなと言われたが、家を出るのは簡単だ。


 窓から外を見れば、松明を掲げて雑多な武器を持った自警団の男たちが森に向かって歩き始めるのが見えた。先頭に立っているのは俺の父さんだ。


「頃合いだな」

 自警団がある程度先へ行ったことを確認すれば、錆びた剣を藁ベッドの下から取り出して、そのまま剣を片手で持って窓を開ければ、こっそりと家を出る。


 確か、森の入口で待ち合わせだったな。 

夏の夜、フクロウが激しく鳴きカエルの合唱が響く。双子の月が爛々と輝いて、幻想的な風景を俺に抱かせてくれる。少しばかり肌寒い空気を感じながら、俺は村を出た。


 一部の自警団は残っているものの、元より村から出るのはそれほど難しくない。壁すら大したものはないのだ。第一、壁があれば山賊の襲撃にも耐えられただろう。


 クローバー村は辺境だ。

辺境伯の城近くにあるとはいえ、辺境伯領の領都であるシティ・オブ・シャムロックからは遠い。衛兵もいるにはいるが、あの山賊の襲撃時には物量に勝てずに村ごと焼き払われたと聞く。


 もっとも、俺は山賊の姿自体は見ていない。

だからどんな連中かはあまり分からないんだが……。


「おっ、ジョン。時間通り来れたみたいだね」

「ジョン、待ってたよ〜!」

「……あぁ、遅れたら悪いからな」

 あぁ、ボーグ。お前だけならまだしも、その隣にクソビッチが笑って立っていることで俺の精神は常に摩耗していってるよ。


 確かに子供時代のこいつはなにもしでかしてはないのだろうが、俺からしたら未来的に関わったら何かしらをしでかされることが想定内なので俺はあまり関わりたくないんだ。


 まぁシミュレーション通り、ボーグに押し付ける方針で行こう。

とりあえず俺はゴブリン探しに精を出せばいいんだ。








「ねぇねぇ、ジョン。お城ってどんなところだったの?」

 まさかこうなるとはな。

こいつ、嫌味たらしく俺ばかりに絡んできやがって。ボーグに絡め!俺はお前とは関わりたくないんだよ!


「まぁ……綺麗だったよ」

「すごいな〜、私もいつかは入ってみたい!」

 お前は剣聖の女になるんだから将来的にいくらでも城みたいなところには住めるだろうよ。それよりちょっと近くないかお前。


「ジョン、ゴブリンの手前でイチャイチャするのは良くないと思うよ」

「ぼ、ボーグくん!イチャイチャなんて、そんな、ち、違うよ〜」

「……」

 ボーグ、やめてくれ。

確かに前世の俺なら泣いて喜んだかもしれんが、今になってはソレは俺の精神へともろにダイレクトダメージを与えてくるんだ。


 エリーゼ、お前も赤面するな。

勘違いされるだろうが!




「ここみたいだね」

 パキッ、と枯枝の折れる小さな音とともに先導していたボーグが止まった。それに呼応するように俺も停止する。


 周りに木々や草の生え茂る森の中。

そこにひときわ開けたような場所があり、地面の中へ続く洞窟のようなものの入り口がある。


 自然洞窟だったのだろうが入り口は土を掘り返すなどして拡張されており、ゴブリン特有のよくわからん土製の仮面なんかが置かれている。


 そしてその洞窟の前には10人程の自警団の男連中が作戦会議をしている様子で、ぶつぶつと作戦会議をする声と松明の燃える音と森の自然音だけがこだましている。


「おかしいな」

「どうしたの?ボーグくん」

「いや……ここのゴブリンは一度駆除したはずなんだ。でも、また住んでる」

「流れのゴブリンが古巣を利用したんじゃないのか?」

「うーん、だといいんだけど」

 刹那、雄叫びが響いた。

それとともに自警団の男連中が洞窟の中へと叫びながら突撃していった。

火も毒煙も何もなしかよ……大丈夫か?確かに流れのゴブリンが古巣を利用しているだけなら、それほど脅威もないだろうけど。


「ジョン、行こう。僕は戦えないから、君が先導でも大丈夫かい?」

「勿論だ。そのためにわざわざ鍛錬してたんだからな」

「ジョン、私もちゃんと援護するよ!」

 そうか、クソビッチ。ならせめて俺の背中が襲われないように気をつけといてくれよ。


 そうして、俺達はゴブリンの洞窟へとゆっくりと入り込んでいった。

それが獅子の口に入る事と同じようなことだったとは知らずに。

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