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第22話『寝取られ男と村の異変』

「おかしいな」

 村の道を歩いていると、道行く人たちが顔色を悪くしてため息を吐いている。


「あ、ジョンじゃないか」

 何が起こったんだ?

そう思い頭を掲げていると、聞き覚えのある声が聞こえた。


 声の方向へ向くと、相変わらず分厚い本を抱えているボーグが変わりない顔で立っていた。


「ボーグ」

「辺境伯からクビにされたのかい?」

「違うさ。二週間休暇を貰ったんだよ」

「なるほどね」

 ボーグは他の人と違っていつも通りの顔だ。

なにかあったのだろう。聞いてみることにする。


「なぁ、ボーグ。なんかやけにみんな落ち込んでないか?なにかあったのか?」

「あぁ。どうやらゴブリンが村の近くで見つかったらしくてね。スミスさんの所のお祖母さんがゴブリンに食い殺されたらしい」

「は?なんでゴブリンが?」

 ゴブリン。

緑がかった土色の肌に子供ほどの大きさ、ずんぐりむっくりな体型、一般に醜悪な顔。知能はあるらしいのだが、多くの場所で忌み嫌われている。


 もっとも、ゴブリンが人里まで襲ってくるなんていうのは珍しいことだ。ゴブリンだって獲物を選ぶ。特に一度攻撃したら自らの部族ごと滅ぼしてくる勢いで反撃してくる人間を狙うなんて、よっぽどのことだろう。


「それで、今日の夜頃に自警団がゴブリン駆除に出るんだと。他の人たちはゴブリンが近くに来てるって言うからあれだけ落ち込んでるのさ」

 しかし、この時期にゴブリン退治なんてあったっけ?

俺が覚えてないだけなのか……それとも運命とやらが変わったのか。

どちらにしてもゴブリンくらいなら村の自警団でも十分対処できる範囲だろう。


「ボーグ、普通ゴブリンが人里まで降りてくると思うか?夏だし、森の方では食料も十分に取れるはずだろう?」

「理論上で言うなら、普通はありえないね。ゴブリンたちも馬鹿じゃ無い……カラスや犬より知能があるんだ。だけど、人が食い殺されたのは事実だよ」

 余計ひっかかるな。

後でこっそり自警団について行ってみようか?


「ジョン」

「うん?どうした、ボーグ」

「君、さてはゴブリンのところに行くつもりだろ?」

「……なんでわかった?」

「君の目とか見たらわかるさ。こちとら幼馴染だよ?」

 そういってボーグはくいっとある場所に指差す。

森の方向だ。


「自警団の出る時刻は把握してる。それまでに武器を用意するといい……さすがにジョンでも丸腰でゴブリン相手は大変だろう?」

「あー……」

 一対一ならともかく、一体多数なら確実に無理だな。

そういえば家の倉庫に古い錆びた剣があったはずなので、それを持っていこう。鞘から抜けないけど、鈍器くらいにはなるはずだ。


「ちょっと!ジョン、ボーグくん!」

「ん?エリーゼじゃないか」

 あ?

な、クソビッチ……お前とエンカウントするなんて俺も運がないな。

しかもそのタイミング、明らかに俺たちの話を聞いてただろ。


「私も一緒に行きたい!二人だけなんてずるいよ!」

「ジョン、どうする?」

「……」

 選択肢1『女は危ないから来るな』

こいつはゴリ押してくる。それに確か村長から護身用の杖術を教えてもらってたはず……下手すればボーグより戦闘力はあるだろう。


 選択肢2『家族が心配するぞ』

これもゴリ押してくる。村長に言ってもいいんだが、そうなるとこいつは俺たちの親にゴブリン退治に俺たちがついていこうとしていることをバラすだろう。


 その他の選択肢……だめだ、どれもゴリ押される。

あぁー、できたらクソビッチとだけは遭遇したくなかったんだが。

まぁ戦闘自体はできるし、足手まといにはならないだろう。


 道中最低限しか話さずになるべくボーグに押し付けよう。ボーグ、すまない……帰ったらお菓子をおごってあげるから許してくれ。


「―――わかった。でもあまり前へ出すぎるなよ……危険だからな。それと杖もちゃんと持ってくるんだぞ」

「うんっ!わかってる!」

「はは、ジョンは甘いなぁ。まぁでも仕方ないか」

 ボーグ、俺だって参加させたくて参加させてるわけじゃないんだぞ。

まぁ……背に腹は代えられないってやつだ。とりあえず倉庫に錆びた剣を取りに行くとしよう

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