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第1話『寝取られ男はリセットした』

 ここはどこだ。

あ〜ぁ、そうか。俺は死んだんだっけ。

正直言って死後は寒いと思ってたけど、案外暖かいことに驚きを隠せない。


 まぁ、もう失うものはない。

大切なものは全部奪われ潰され最後には死んだ。しょうもない平民野郎が人並みの幸せを得ようとしたらこのザマさ。つくづく神様とやらには俺は嫌われてるらしい。


 だいたい、小さい頃から運と実力と判断力ってものからとことん見放されてた。

あの時も、その時も、あんな時も、俺は後手後手に回っていた。たまにはいいとこ見せたこともあるかもしれんが、とことん特徴のない人間だった。今思えば寝取られて当然だったのかもしれない。


 そう思えば、因果応報ってやつなのか?

せめてパーティーのために手段を選ばず戦って、必死に殺して、やってきたつもりだったんだが、そういうのは徳っていうのに一片も加算されなかったみたいだな。

 


「ねぇ、ジョン!起きて、起きて!もう夕方だよ!」

 誰だ。 

今俺は死後の憂鬱に浸ってんだ。ただでさえズタズタのボロボロなのに五月蝿い声に付き合う精神的余裕はないんだよ。

だいたい、死後の世界にも人間はいるんだな。視界は真っ暗だからどんな見た目してるか分からんが。


「目を開けてよ〜!早くしないとお母さんとおばさんに私達怒られちゃうよ!?」

 目を開けろだ? 

まず馬車に轢かれた俺の頭なんぞ脳みそと脳漿を踏み潰されたスイカみたいにぶち撒けて悲惨なことになってんだろうから、目なんてあるわけないだろ。


 ―――訂正、どうやら目はあったみたいだ。

俺はどうやら寝転がってたようで、視界にはゆらゆらしゃらしゃらと夕陽に染められてなんともノスタルジックな広葉樹特有の幅の広い葉っぱが映る。葉の間には茜色に染まった空と綿みたいにふわふわの雲が浮かんでいる。


「やっと起きた。ねぇ、ジョン。早く帰らないと」

 だから誰だよ。

そういって頭を少し動かすと、"ソレ"がいた。


 亜麻色の髪に瑠璃色の瞳。

桜桃さくらんぼみたいに湿って膨らんだ唇、きめ細やかなほのかに赤く染まった白い肌。薄緑のワンピースを着ていて、どこか若草の香りを漂わせる麦わら帽子を被っている。


 あぁ。お前。

なんでオマエがここにいる。


「エリーゼ」

「急に名前を呼ばれたら恥ずかしいよ、ジョン!嫌じゃないけど」

 頬を赤らめてそう返事を返すエリーゼ。

確かに綺麗で可愛い、おそらく10人がそれを見たら両手を上げて満点出すくらいの黄金比だろう。だがな、ことさら俺にとってはそれは悪魔の笑みにしか見えねぇ。


このクソビッチがぁ!テメェのせいで俺の人生メチャクチャなんだぞ!

そうやっていい顔して男騙して甘い汁吸おうたってそうはいかねぇからな!ふざけやがって!

  

 そう思って一発殴ってやろうと腰を上げて起き上がる。 

そしてエリーゼを見て拳を持ち上げる前に腕に力を入れる。 

しかしそこで俺にある疑問が生まれた。


 なんかこのエリーゼ、やけに幼くないか?

それに、今いるこの場所も見覚えがある。

野原に一本だけある広葉樹、溢れん限りに群生してるシロツメクサ、この匂い覚えのある香り。記憶に間違いがなければ、ここは俺の生まれ故郷のクローバー村だ。


 だけど、クローバー村は"あの時"に滅びたはず。

なんで、あるんだ?一体全体、どうなってんだ?

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