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第21話『寝取られ男と竜神の戦い/後編』

「うおぉぉぉォォオオオオオオ!!」

 走る。

ジョンはひたすら、前へ前へと駆け抜けていた。


 手には一本の刀。

前方には白き髪を流れるようにはためかせる竜神が、ジョンをいつでも迎え撃てるようにと紅の剣を突き出すように構えている。


「俺は勝つ。生きて帰ってやる!」


「来なさい、お前を殺してあげるわ。完膚なきまで、魂ごと永遠に!!」


 刃同士がぶつかる―――――その寸前に、ジョンは刃をずらして竜神へと刀を振りかぶる。


 しかし、うまく避けきれずに右肩へと赤い刃がえぐりこみ、容赦のない爆炎を響かせた。無傷では済まされない、場合によっては死ぬかもしれない。


 笑みを浮かべる竜神。

だが、竜神は己のことを知り得ていなかった。最初の頃から、遥かに感情を得ていることに。


 感情は理性とは相反するものである。

ゆえにそれを兼ね備えるというのは、人に近いということ。強いては、模倣品である人形を超えたということを意味する。


 だが、理性を是とし、公平なる処断と思考を必要とする竜神にとって、それは不必要なはずのノイズであった。


 ―――ピエールは失敗した。

竜神を、うまく作りすぎてしまった。器にすぎないはずの人形を、精巧に精細に精緻に作りすぎてしまった。



 感情は、人を鈍らせる。

今の竜神にとって、それは例外ではない。



 愉悦の笑みが、苦悶の表情へと移り変わった。

ジョンの刀が竜神の体を袈裟に切り裂いていたのだ。




「グ、ァッ、ァァァアアアアアアアアッ!!」

 コアの厚みが、刃をわずかに妨げる。

それでも、このまま斬撃を続ければ確実にそれは砕け散ることが容易に理解できる。


「ァアアアアアァアァァァ!! 痛ェなぁぁぁぁっ!! この、野郎ォ゙!」


 爆炎で肉が弾け飛び、骨は砕け散る。

ジョンの半分は焼けただれ、それでも確かに刀は握りしめられていた。



「生きて帰ってやる!!そう、決めたんだ!!!」

 ジョンの脳裏にさまざまな情景が広がる。

クローバー村。クローヴィス城。両親、ボーグ、フローレンス、辺境伯、ヴィクトリア。


「そう、決めたんだよ!」

 そして、エリーゼ。

亜麻色の髪に美しき瞳。毛嫌っていたはずの彼女の姿が、不思議と浮かんだ。


「がふっ!!」

 コアが砕け散る寸前。

ジョンの口から血が噴き出した。竜神の体中にも罅が刻み込まれる。


 相討ち。

どう見てもそう呼べるような情景。


 刹那、どこからともなく声が響いた。

ジョンの意識の奥から、それは確かに紡がれる。


『必ず、生きて帰りなさい』


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