第16話『寝取られ男と竜神の復活』
緑がかった純白の長髪。
真っ赤に輝く瞳、生気を感じさせない肌。人工物としては最高傑作ともいえるほどの美貌。
「これが教主?」
俺は一言、そう呟いてしまう。
どこか、見覚えがあるのだ。この目の前の存在には。
「油断するな、ジョン。お前の推測が正しければ、もう既にこの人形の中には竜神が降りている」
師匠が太刀の血を払いながら、殺気のこもった双眸でやつを睨む。俺含め、普通の人間ならまず尻込みしてしまうその殺気相手に、教主は物怖じ一つしていない。
「えぇ、もう降りているの。完全ではないけれど、はっきりとね。直に私の自我は消え失せ、竜神様が乗り移る。素敵なことでしょう」
「素敵なわけがあるか!ここまで散々人を殺して食っておいて顕現する神なんかろくでもないに決まってる!」
俺は怒号と共に教主に反論する。
だが、師匠に殺意を向けられても平気としてるようなやつだ。俺の怒号になんか怯えるわけがない。
「だけど、あなたたちもたくさん殺してきたでしょう? 司祭たちだって一人の人間。獣も、ゴブリンだって一つの命。そこに何の差があるというの?」
「ゴブリンとの戦いは奴らとの生存競争、獣を狩ることは生きる糧を得ること。だが、お前たちがやっていることはただ悪戯に命を消費し、愚弄している行為だ」
師匠は教主の方へと近づいていく。
俺が行くよりは遥かに奴を殺せる確率は高いだろう。だけど、何か妙だ。竜神が宿っているというのに、何の気配もしない。
「ッ!!」
刹那、激しい重圧が俺達を襲う。
どこからだ、これは……これはなんなんだ!?
「解っていたことではないの? あなたたちは皆、等しく同じ命。どう消費しようと、どう繕おうとなんて、そんなことは関係はない。等しく、命が生まれ散る因果の事象にすぎないと」
教主。
いや、こいつは竜神だ。昔に一度、竜と戦ったときに感じたあの恐怖の何倍もあるそれが、一気に心臓を締め付けている。
気配を感じなかったのも、既に同化していたから。変化がないものを感じ取れるわけがなかったんだ。
「ちく、しょう……」
立てない。刀が、持てない。怖い、辛い、逃げたい。そんな気持ちが心を揺らす。
「逃げようとなんて、思うな。俺……戦うんだろうが……」
「ジョン! お前はそのまま休んでいろ!」
声が響く。
凛然とした、師匠だと一瞬でわかる声色だ。
「でも、戦わないと……」
「今のままで戦われたところで足手まといだ。それに奴は少し荷が重すぎる。今のお前では、な」
俺は一歩たりとも動けないのに、師匠は汗を垂らしながらも立ち上がっていた。その姿は、まさしく英雄だ。
「竜殺しとは、久方ぶりだな。お手並み拝見といくぞ。竜神」
師匠は太刀を顔の横で構える。
霞の構えと呼ばれるそれは、師匠が本気の時だけに使うもの。
「愚かな人の子よ。ねじ伏せてあげましょう」




