読み聞かせ配信
読み聞かせ配信とは読んで字のごとく、配信者が読み聞かせをする動画配信である。それは単に朗読するだけでなく、囁き声で眠気を誘うような配信をする場合もある。
やる方としては大した準備も必要なく、手っ取り早く収益化に向けて投稿時間を増やすためにうってつけの内容だ。
「こんばんわ〜! 今日は読み聞かせをするよ〜……!」
【こんばんわ〜】
【こん!】
【囁き声いいね】
【パジャマはし◯むら?】
「あっ、今日はね、何とリスナーから送られてきた例の光るパジャマだよ!」
【プ◯キュアw】
【雰囲気ぶち壊しで草】
【おやすみ配信する気あるの?】
「す、すまん。ただこれ凄く着心地がいいから贈ってくれた人にお礼を言いたくて……」
【あれのサイズ130センチなのにww】
【↑送ったニキ降臨!】
【身長、バレる。】
【流石に嘘やん、小人すぎない?】
【完璧なロリボディ】
【エッッッ………!】
「あーもう、うっさい! 始めるぞ!」
【いよっ! 待ってました】
【ムードのかけらもなくて草】
【何を読むの?】
「フッフッフッ。厳正なる脳内会議の結果、選ばれたのはコレです」
BGMをかけると同時に画面にイラストを表示する。これで大体の人には伝わるだろう。
【おい……】
【まさか、これ?】
【これはアカンww】
【寝かせる気ないやん】
「では行くよ。昔々あるところに、お爺さんとお婆さんが……」
【MOMOTARO!?】
【↑ピーチボーイやろww】
【チョイスが渋い】
【読み聞かせってこんなんだっけ?】
古いのは仕方ない。著作権フリーの素材となると多くが大昔に書かれた作品になるので自ずとそうなる。
俺は外野からの文句を無視して画像を動かした。
「お爺さんは山へ芝刈りに、お婆さんは川へ洗濯に……」
【マスクしてない、やり直し】
【マスク警察だ!】
【不織布な】
【やめろおまえらww】
「えぇ!?」
そんなツッコミ入るなんて聞いてないんだけど。おやすみ配信って意外と厳しいんだ。
「えっとじゃあ、マスクをしたお爺さんとお婆さんがいました」
【おっとぉ?ww】
【何か始まった】
【原作ブレイク】
「お爺さんは山へ芝刈りに、お婆さんは川へ洗濯に」
【女性に家事を押し付けるんですか?】
【ジェンダーロールやん】
【現代的な視点やめろww】
「なっ……じゃ、じゃあお爺さんは川へ洗濯に、お婆さんは山へ芝刈りに」
【逆ゥ!?】
【何と先進的な家庭だ】
【男 女 平 等】
【あ、寝ねえなこれww】
「すると川上から大きな桃がどんぶらこ、どんぶらこと流れてきました」
【そもそも何故この話なの?】
【元から寝かせる気ないやろ】
【囁き声で聞くタイプの話じゃない】
【貴重な体験だろ。ありがたく思え】
【ロリボ最高……】
【ブレないニキすこww】
そんなこと言わないで。これを読むのにも割と時間がかかったのだから。瑠美に手伝って貰って明るいうちから光るパジャマが光り始めるくらいの時間帯まで練習したんだぞ。
「持って帰ると桃が割れ、すると中から小さな赤ちゃんが」
【それ役所に届け出た?】
【黙ってたら犯罪じゃね】
【でも拾われて育てられたら感謝するだろ】
【え、あいつの親って桃だったの?】
「ふぇえええん!!! ねぇもう許じで! 何でもじますからぁ!」
【おい、泣いちゃったよww】
【小学生を虐めんなお前ら】
【ユウちゃん泣かせるとか許せん!】
【泣き声エッッッ…………!】
【↑おい。】
【↑おまわりさんこいつです】
【通報ニキはよ】
「おいバカうるせえぞ。隣まで声漏れてんだよ」
え、瑠美?
【!?!?】
【まさかルルミ?】
【家だとキャラ違いすぎwww】
配信が終わったと思ったのか瑠美が入ってきてしまった。
「あ……今配信中」
「ルルミぃ!!」
「うわっ何? ひっつくなし」
「助けてぇ! みんながいじめるぅ!」
「は? ただの読み聞かせでしょ?」
【実はかくかくしかじかで】
【読み聞かせで粘着を集める引きの強さ】
【いや強いのか、それ?】
「なるほどね」
瑠美は腕組みして納得した。というか口調がもう普段の配信のそれじゃない。
「取り敢えずパジャマ光らせながら泣いてる人みんの笑える。貴重な光景だわ」
「ひっどい!!!」
【たしかに想像すると笑けるww】
【パジャマ光ってんぞ〜?】
【敗因それか】
【ねぇいつ寝れるの……】
瑠美は画面を覗き込むなり、俺を横に立たせてマイクの前に陣取った。
「そんなに言うなら私が代わりに読むから。みんなを眠りの世界に誘ってあげるよ」
【まさかの!】
【ルルミ参戦】
【意味違く聞こえるんだがww】
【最近ドSキャラ定着しつつあるよね】
かくしてルルミの配信が始まった。
「昔々あるところにお爺さんとお婆さんが」
【マスクは?】
【仕事自粛せんでええの】
【はじまったよw】
「あ? うっせえわ。この時代にはマスクとかないから。時代背景考えて」
【はい論破。】
【粘着厨ざまぁww】
【イキリ乙。】
【どっちに向けて言ってんの……?】
「お爺さんは山へ芝刈りに、お婆さんは川へ洗濯に」
【男女差別〜】
【家事は分担が基本だぞ】
【女性の社会進出はよ】
【なんか政治家への質問みたいで草】
「あーうっせぇわ。それ言ったらお婆さんも仕事してねえじゃん。不平等が平等だから」
【深い】
【そう言われると納得】
【そう……か?】
【なんかもうどうでも良くなってきた】
【本音ww】
「あーうっせえ、うっせえ、うっせえわ!」
【なんか例の歌みたいで草】
【まだ聞いた事ないんだよね〜】
【本当に流行ってんの?】
【知らないとかお前ら老人露呈してんぞ】
【嘘嘘、めっちゃ知ってるって!】
【毎日鬼リピしてます!】
【お前らすこww】
その後も順調に瑠美はコメントをいなし、何とか読み聞かせを終わらせた。
「そして宝を配って、めでたしめでたし!」
【あ〜俺も宝欲しいわ】
【出す側だろ。スパチャという名の宝を】
【給付金はよ。】
【政府からの赤スパまだ?】
【俺ってVだったのか……】
「はい終了〜」
下らないコメントは未だ留まることを知らないが、ルルミはきっぱりと宣言する。
「今日は思わぬ展開だったけど、みんな楽しかったよ。これからもイキのいいコメントをよろしく〜!!」
【今日も楽しかったぞ!】
【何だかんだ面白かった!】
【コメ返しも丁寧だな】
【これからも相手してくれると助かる】
「もちろん! じゃ、またね〜!」
【おつ〜!】
【乙】
【おつおつ】
【明日も楽しみや】
◇◇◇
「ごめん、ありがとう。手伝わせちゃった」
「別にいいけど」
席を立ったルルミは振り返りざまに助言を残していった。
「次はコラボでしょ。飲まれないように頑張りなよ? じゃ、おやすみ」
そうだ。今度は羽咲ホノカとのコラボだ。ファンが増える絶好のチャンス。これをモノにしない手はない。手伝ってくれた瑠美には感謝してもし足りないくらいだ。
この気持ちを忘れず、絶対成功させるぞ!
「あれ? メッセージか……」
不意に届いた瑠美からの連絡に気づいてアプリを開くと、そこには光るパジャマを着て泣いている俺の画像が……!
《この前の衣装のもあるよw 見る?》
「きさまぁあああ!!!」
台無しだよチクショウ!!




