歌ってみた!!!
コラボの日は数日後に決まった。それまでに俺は自分のチャンネルの方向性を定めなくてはならない。瑠美に協力を依頼するのも手だが、それだとずっとおんぶに抱っこでアイツの世話になりっぱなしになるのが怖い。
このvtuberという職業は偶然の幸運が重なって手に入れたものだが、今の俺に出来る数少ない仕事であることに間違いはない。ここまで来たらお遊びで終わらせず、食い扶持を稼げるようになりたい。そうすれば胸を張ってvtuberだと名乗れる日が来るだろう。
さあ、行くか。
徐に配信開始のボタンを押した。
「みなさん、おはこんばんわー! 夜来ユウのチャンネルへようこそ! 今日も雑談しつつお便りを読み上げて行くよ〜〜!」
【こんばんわー!】
【待ってたぞ】
【今日はどんな話を聞けるかな?】
雑談は前回もやったので新鮮味に欠けると感じる人が多いだろう。そこで今回はいろいろと作戦を練ってきた。
「まずはこのお便りから!」
<<ユウちゃんはじめまして。前回の配信で気になったのですが、ユウちゃんはあれらの他にどんなアニメを見ますか? ユウちゃんが見る作品にとても興味があります。だって同じものを見るってことは、画面越しに愛を育んだのも同然ですよね? つまり婚姻届などなくても僕らの関係は既に……おっと、誰か来たようです。続きはまた後で。終わったら将来の話をしましょう>>
「ここで終わってるんだけど……?」
【捕らえられたか】
【紳士、無事死亡。】
【途中から豹変してて草】
【で実際どんなの見るの?】
「うーん。そうだなー」
【やっぱ、き◯つかな?】
【キッズはお帰りください】
【↑両方言いたいだけやろ】
【キッズをのぞく時、キッズもまたこちらをのぞいているのだ。】
【<◉><◉>】
「取り敢えずプ◯キュアは全作見てるよ!」
【キターーーーー!!!】
【待ってました】
【神解答】
【溢れ出すロリの香り】
【ぷ◯きゅあがんばれ〜】
【こんな似合うV未だかつていないww】
「近年だとは◯っとかな〜」
【◯ぐっと:テーマは子育て、敵はブラック企業という大人の世界の光と闇を描き出した伝説の神作】
【解説ニキ助かる】
【あれは神だった】
【大人は泣いちゃう】
【みんな見るの普通だよな?】
【リアタイで見てた】
【見てました】
【見てたわ】
【映画含めて全話見た】
【あれ、意外とここ女児多くね?】
【全員おっさんという…………】
【それ以上いけない!!!】
【全員娘いるんだろ。察しろ】
おぅ。
まさかこんなに盛り上がるとは。
言ってること全部真実だからいいんだけどやっぱり変だな。周囲の反応が違いすぎる。何度も言うけど以前と言ってること全く一緒なんだが??
「今作も見てるよ。いやー何というか、やっぱりプ◯キュアは凄いね。流行りに乗っかるところとか」
【今作お医者さんだもんな】
【マ? 流行りに乗るってそういう……】
【これは炎上案件】
【不謹慎なのでやめて下さい。】
【↑不謹慎厨オッス! オッス!】
【は? どこが不謹慎? 神だが】
【お前らプ◯キュア好きすぎwww】
大人にも子供にも大人気。
やっぱりプ◯キュア先生は凄い。
【でもまさかプリ◯ュアが某ウイルスに負けるとは……】
【放 送 延 期】
【えぇ……それってマ?】
【マジやで。もう許せん!】
【俺の神聖な日曜を奪いやがって!】
【お前らの日曜日どうなってんの……?】
「では、ここで一曲歌わせていただきます」
【唐突で草】
【なんかきたww】
【期待値が高まりまくり】
【見てみてみてね!】
まだ機材が不完全だけど、音楽を流して歌うことくらいなら今でもギリギリ出来る。今回の作戦二つ目だ。
「じゃあ行くよー! ♪〜〜〜……」
【おぉ……】
【上手いというか……】
【・・・かわぇえ(ボソッ) 】
【頑張ってるの伝わってくるww】
【短い手足振り回して踊ってそう】
あれ、あんまり上手くないのか?
おかしいな。カラオケでは十八番なんだけどな。まぁ主にヒトカラだけど。
【若干息切れしてて草】
【これマジで踊ってる可能性ない?】
【えぇ……見たすぎる】
【ルルミ:ちょww踊ってんだけどwww】
【!?!?】
【ぁああああ!!!】
【ルルミぃいいいい!!!】
【有能すぎる!】
【神!】
あっ、やめろ!
俺の秘密をバラすな!
【情報リーク助かるww】
【最早チャンネル公式】
【衣装はやっぱりし◯むら?】
【誰かプ◯キュアの光るパジャマ買ってやれ……】
その後も異常に盛り上がり、どんどん収拾がつけられなくなっていった。思い入れのある作品について語っている間にあれよあれよと主題歌を披露することになり、何故か歌唱力ではなく頑張りのほうを褒め称えられる。そして振り付け込みの俺の全力熱唱模様は全て瑠美にリークされてしまった。
くっ……殺せ!
「ハァ……ハァ……疲れたから今日の配信はここまで。みんな、見に来てくれてありがとう〜!」
【息切れ助かる】
【↑通報しました。】
【今日も早スギィ!】
【絶対刑務所パンパンやぞww】
「またね〜!」
【お疲れ様!】
【おつ】
【おつです】
【乙〜】
◇◇◇
翌日、某SNSではルルミのゲーム配信からプ◯キュアの歌が漏れてきたというコメントが散見された……。
そして、俺はというと。
「お、お母様……もう少し。もう少しなんです。後もうほんの少しだけ、待っては下さらないでしょうか……?」
「その『すぱちゃ』っていうのはいつ貰えるものなの?」
「こ、細かい条件がありまして」
「じゃあ満たさなかった場合は?」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!
「ヒェッ………!!」
ママゴンの放つ殺気に戦慄を覚えた俺は愛しのパパの足に縋り付く。
「パパ、助けて…………?」
うるうる。
「そ、そんな目で見つめるな。仕方ない……今回だけは肩代わりしてやる」
「きゃ〜ん! パパ優しい! カッコイイ〜〜♡♡♡」
「そ、そうか……?」
父は満更でもなさそうだった。
すると配信を終えた瑠美が部屋から出てくる。
「え、ヤバいんだけど……」
「ち、違う、これは!」
「パパちゅき〜♡」
コアラのようにしがみついていたパパの足がプルプルと震え始める。家を揺るがす彼の悲鳴は果たして冷め切った瑠美の心に届くのでしょうか。
届くといいね♡