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羽咲、襲来。

 vtuberはアバターしか見られないので、素顔の写真が流出でもしない限り容姿はそこまで重要ではない。


 しかし羽咲さんこと浜崎さんは想像を遥かに上回る可愛い子だった。ぱっちりした瞳に薄く染めた茶髪。若干ギャルっぽい気もするが短髪が似合うのは小顔の証拠だし、何より華奢な体格はこちらの庇護欲を掻き立てる。


 日本人男性の平均身長より若干上の瑠美と比べてサイズ感は一目瞭然。この感じは相当おモテになるのでは。


《これ本当にお姉さん? ちっちゃい瑠美じゃないの……!》


「誰がでっかいって?」


「羽咲ホノカ、美人だったんだ……」


《あら? その顔で言われると気分がいいわね。瑠美に言われてるみたいで》


「羽咲さんお綺麗ですね」


《いや〜ん! もっと言って〜!》


「うっさいバカども」


 ふん、と小ぶりな鼻を鳴らした浜崎さんは形の良い眉を吊り上げて瑠美を挑発する。


《何よ、お姉さんはアンタと違って素直で良い人じゃない。このお姉さんとなら友達になれそう。仲良くしましょうユウさ〜ん♪》


「……チョロくない?」


「アンタと良い勝負よ」


 無駄に警戒して損した。悪巧みなんて出来なそう、と直感的に思わせてくる隙だらけの性格はきっと多くの人から愛される。そこにvtuberとしての素質を垣間見た気がした。


「羽咲さん、当日の予定ですけど」


《うんうん、何かしら♪》


「オ……私の方がまだゲームの機材等そろっていないので、コラボ配信の日を遅らせるか、手軽に出来るものにするかのどちらかになるんですけど、大丈夫ですか?」


《あー、それなら仕方ないわね。日程を遅らせましょう》


「分かりました。ありがとうございます」


 ではこれで、と電話が切れるのかと思ったら何となく会話が続いた。二人は元々そういう仲なんだろう。


《高校はどう? まだ通学?》


「流石にそろそろオンラインになるかも」


《おぉ〜、ついに。アンタも課題に苦しむことになるわよ。大学生はレポート提出にてんてこ舞いなんだから》


 浜崎さんは大学生か。そう言えば茶髪に染めてるのもそれっぽい。


「浜崎さんって大学生?」


《そう、でも休学中。閉鎖とモロ被りの時期だったから行く気になれなくて。バイトでもしながら一年待とうと思った矢先にvtuberを思いついたの》


 去年瑠美がオーディションを受けると言っていたのは確か緊急事態宣言の直前だ。ほぼ同じ頃に二人はvtuberを志したことになる。


《意外だったのは、このご時世に普段よりも稼げる仕事があったって事よ》


「それな」


 俺もまさか特需景気でvtuber産業が潤うとは思わなかった。こういう面ではテレワーク様々だな。


《ところでさっきから気になったんだけど、お姉さん私より歳上よね? なんで私に敬語使うの?》


「いや……それは」


 実はモテない男の性として、女子を前にすると敬語を使いたくなってしまうのだ。歳下に対しても強く出ることを躊躇うチキン野郎なのである。


《遠慮しないで! お姉さんなら特別に『ホノカちゃん♡』って呼ぶ権利をあげる♪ 》


「え、要らな」


《アンタにあげるって言ってないでしょ!》


「ありがとう『ホノカちゃん』、仲良くしよう」


《もっちろん! もっと遠慮せずにグイグイ来なさい!》


「てか、アンタが偉そうなんじゃね?」


 あっ……。

 それはちょっとあるかも。


《気にしない気にしなーい! あ、そろそろ配信の時間だわ。じゃあねユウさん、瑠美、また今度ー!》


 プツッと切れた電話の音に静けさが際立つ。会話のないリビングは本当に静かだ。


「静かだな」


「うん」


「なんか……お腹空かない?」


「うどんならあるよ。あとカレー」


「カレー!? カレーうどん食べたい!」


「はい……はい……」


 働き者の瑠美がキッチンに立つ。簡単な料理でも作ってくれる事に感動を覚えた。


 しかし一人きりのリビングは味気ない。俺も何か手伝いに行こう。


 やっぱりこの静けさを埋める為に、俺たちの配信があるのかな。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「やっぱりこの静けさを埋める為に、俺たちの配信があるのかな。」 刺さるなあ……
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