コラボの依頼
vtuber・夜来ルルミには二人の同期が存在する。一人は男、もう一人は女。今ルルミに電話をかけて来たのはそのうちの女の方だ。
「なんて言う子だっけ?」
「羽咲ホノカ。本名は浜崎」
なるほど、そんな名前だった気がする。
というか同業者だと本名まで知ってるのは普通のことなんだろうか。
「うーん、受けた方がいいのかな?」
「好きにすれば。アンタのチャンネルだし」
羽咲ホノカは俺からすると先輩に当たる。単純に考えれば彼女とのコラボは同期との絡みがない駆け出しの俺にとって願ったり叶ったりである。
「そうか。なら受けようかな」
「受けるんだ、あっそ……」
俺の答えにどこか瑠美は不満げだった。
勝手にしろって言ったクセに。
《受ける? 受けるの? ねえ?》
声圧で震えるスマホから催促の声が響いてくる。いや怖えよ。もうメリーさんみたいになってんじゃん。
「お電話変わりました」
《あ、瑠美のお姉さんね! どうもどうも! で、どう? 受ける? 受けない?》
「是非ともよろしくお願いします」
《ィヨッシャァイ! 見たか瑠美! あんたの快進撃もここまでよ!》
「うっっっせ…………」
キーンと通る声のvtuberはいるが、地声もそうだと迫力が違う。何より声の圧が凄い。
《お姉さん、作戦会議しましょう♪》
「作戦?」
《コラボで何するかとか、当日どんな進行にするかとか》
「なるほど」
当然だ。ぶっつけ本番でやっても上手くいく保証はない。ここは綿密に話し合って決める事は決めておこう。
《じゃあ早速……》
「ストップ!」
話し合いに移ろうとした所で、瑠美に待ったをかけられる。有無を言わさぬ勢いに俺も羽咲も黙り込んだ。
《もう、何よ瑠美。悔しいからって邪魔しないでちょうだい?》
「ざけんな。それよりちょっとコイツに話すことあるから二、三分待って」
「瑠美……?」
《ちぇー。早くしてよ〜》
また掛け直すから、と瑠美は一方的に電話を切った。強引な行動にはきっと何か訳があるんだろう。
「どうした、瑠美? よもや愛しの兄を取られ嫉妬した訳でもあるまいて」
「いやマジで何言ってんの?」
そんな目で見ないで。
切ない気持ちになっちゃう。
「アンタ分かってる? あいつだってボランティアじゃないんだから。油断してると食われるよ」
「食われる?」
「知名度。今のバカじゃあいつに太刀打ち出来ないでしょ。キャラが定着しないうちにイロモノって認定されたら鳴かず飛ばずの一発屋で終わるよ」
「うっ……確かに」
瑠美の指摘はもっともだ。俺の実績は一度SNSで話題になったことくらい。まだデビューしたばかりのうちにコラボなんかしたら羽咲ホノカの人気取りに利用されて終わるだけ。調子に乗って流されずに良かった。
「もう少し日を置くとか、コラボするならよく考えて」
「ありがとう。今じゃお前もライバルなのにな」
「これきりだから……ったく、私ならその辺も気を使ってやれたのに」
だからさっき渋ったのか。
「そろそろだ」
瑠美に借りて羽咲に電話をかける。ワンコールで直ぐに繋がった。ずっと張ってたんだろう。
《遅いわよ。先輩を待たせるなんて、流石は瑠美のお姉さんね》
「す、すみません……」
《まあいいわ。問題なければビデオ通話にしたいんだけど平気?》
「はい、大丈夫です」
横画面にして暫く待つと、真っ暗な画面に双方の姿が映し出される。……って何じゃこりゃぁああああ!!!
「可愛すぎる…………!」
《ふっ、当然……ガチロリじゃない!?》
ビデオ通話でここまで盛り上がれるのも、ある意味才能だと思うんだ。