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初配信!

 胸が高鳴るとはこの事だろう。

 配信開始のボタンを押すのがまさかこんなに勇気がいるとは思わなかった。初めてだから視聴者も少ないだろうとはいえ、それをした瞬間、狭いこの部屋が世界と繋がることになるのだから。


「すー……はー……」


 よし、覚悟は決まった。

 いざ行かん!


「みなさん、はじめましてー! 新人vtuberの夜来(やらい)ユウです! これから頑張って動画をあげていくので宜しくお願いしまーーす!」


 はぁ、はぁ。

 テンション上げるの疲れる。


【初めてまして】

【よろしくー!】

【ちょwwおまwww】

【聞き覚えある声なんだが】

【紛れもなくヤツ】


「もう知ってる人もいると思うけど、そうです。私です。前にルルミの動画に異物混入した姉のユウです。この度なんだかんだでデビューさせていただくことになりました!」


【おめでとー】

【運営やるゥーー!】

【あまりの有能さに泣ける】

【高速移動で草】


 決めるのには結構時間がかかった。ルルミと人気の先を争うことになるし、生半可な気持ちで飛び込んでも上手くいくと思えない。けれど悩んだ末に瑠美とも相談し、そこで許可を得てようやく決心することができた。


「初回の今日はファンネームとか決めつつ、届いたお便りを読み上げて行くよー!」


【いいね】

【早速いきましょう】


「まずはファンネームだけど、何がいい?」


【姉キャラなら「弟妹達」とか?】

【ありえんシブい響き】

【姐御キャラの宿命。】

【姐御って言うのやめなさい……】


「ははは! 自由に決めろ! お前らのセンスに任せる!」


【もう決まってるやんww】

【お前ら確定】

【終わり! 閉廷!】


「あっ、いや……こんな適当でいいの?」


【だめです。】

【え え ん や で】

【何か方向性定まってきた気がする】

【濃いわw】


「じゃあ、それで!」


【はい。】

【はーい♡】

【イエスマム】

【決断力のあるネキすこ】


 いやー割と普通なので良かった。なまじっか変わった呼び方だと気疲れしそうだから。


「ファンネームの次はお便りだな。じゃんじゃん読んで行きまっせー!」


<< ユウさん、はじめまして。また会えたことを嬉しく思います。そうです私です。以前、ルルミさんの配信で「ロリボ最高ー!」と叫んだ私です。ユウさんの声に一目惚れした時から今後の配信予定が気になって眠れません。獄中の私の元まで届くよう、大きな声で教えて下さい。お願いします >>


「紳士……」


【捕まってて草】

【平和のためやで】

【日本の治安は守られた】

【警察さん今日もお疲れ様です。】


「じゃあ行くよ、大きな声ね。ちょい待ち。すー………………まだきまってないよ!! けど暫くは雑談とかする予定だよ!! 機材が揃えばゲーム配信とかしたいなぁ!!!」


 ドン! ドン! ドン!


「うっっっさい、バカ!!!」


「ヒェッ……!」


【バカwww】

【素晴らしい流れ】

【本気で大声出す子も珍しい】

【IQ一桁】


「うっっっさい! 次!」


<< ユウちゃん、こんにちは。可愛い貴女の声に惹かれてやって来ました。ユウちゃんは何が好きなのかな。小学校では何が流行ってるの? 何か物で釣られても、知らない人について行っちゃダメだよ? あ、ところで家にき○つ全巻あるけどよかったら読みに来な…………な、何をする! 離せ! 離さんか!! 警察ゥ!!>>


【みんな捕まってて草】

【全部獄中から届いてんの?ww】

【パワフル囚人達】


「好きなものかぁ」


【実際気になる】

【小学生は何ブーム?】

【やっぱ、き○つ?】

【いや呪○廻戦だろ。○めつはもう古い】

【えぇ……早杉】


「アニメだと○ヴァンゲリオンとか……」


【エ○ァ!】

【もっと古くて草】

【良かった……オジサンついていける……】

【通報しました。】

【早杉】

【また一人犠牲が】


 やべえグダグダだな。

 そろそろ締めよう。


「時間もいい頃だからそろそろ終わるよ。て事でやるからには上を目指す! これからどんどん頑張ゆ……がんばるからよろしく!」


【かっ……かわええぇええ!!】

【言い間違えの破壊力抜群】

【もっと間違えろ!】

【通報しました。】

【いや流石にww】

【何人逮捕者出るのか】


「またねー!」


【おつ】

【おつです】

【お疲れ様ー!】

【乙】

【次回も楽しみ】


◇◇◇


「ふぅー……」


「どうだった?」


 配信が終わり一息つくと、どっと疲れが出た。これを毎日続けるんだから瑠美たちは凄いなあ。


「瑠美の凄さが分かったよ」


「あっそ。媚び売っても何も出ないけど」


「ぴえん……」


 リビングのソファに寝転がっていたら頭を撫でられた。


「瑠美?」


「こう小さいと、調子狂う。……もう大丈夫なんだよね?」


「うん。心配かけたな」


「別に」


 こんな風になるなら、少しは幼女になった甲斐があるってもんだ。頭を撫でられるのって気持ちいい。


「あ、電話……」


「いいよ無視で」


「出なよ。大事な用かもよ」


「へい……へい……」


 煩そうに言うと瑠美はスマホを机に置いたまま着信ボタンを押す。


「もしもし。って、アンタか。何の用?」


《瑠美ったらズルい! お姉さんを人気取りに使うなんて!》


「やったもん勝ちでしょ。文句ある?」


《きぃいいいい! なら私も、お姉さんとコラボしたいぃーー!》


「って、言ってるけど?」


《コラボさせろ〜〜!》


「……誰?」


 声圧でスマホが動いている。とにかく騒がしい人なのは伝わってくるけれど。


「同期。私のね」


《瑠美、聴いてる〜〜??》


 恨めしそうな声に瑠美は面倒臭そうな溜息をついた。

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