カノンちゃん列伝
マリ先輩が話を変えたせいで否応なく話題が転換してしまった。
「可愛いって具体的にどんな所がですか?」
《うーん、見た目も可愛いけど、性格とか……あと、あの喋り方も可愛いと思う!》
【あのですわですわ言うやつか】
【キャラ作りじゃないの?】
「いや、普段からあの喋り方だな……」
【マ?www】
【あの喋り方の人リアルにいたのか……】
【何でああなった?】
《カノンちゃんは小さいころ、お婆ちゃんの事が大好きで、真似してたらああいう喋り方になったんだって〜♡》
【何その話w】
【心温ったまるわ】
【和み可愛い】
「へぇ、他には?」
《偶におっちょこちょいな所とか。普段は気を張ってるけど、家だとよく失敗するから。この前もベットにスマホを投げたつもりが、コントロール外して画面に罅入れたり……》
【あー偶にやる】
【俺やん】
《別の日も、右手のスマホをベッドに投げたかったのに間違えて左手に持ってたアイスを投げつけてベタベタにしちゃったりとか》
【それ俺w】
【おれ。】
【完全に俺で草】
【カノンちゃんは俺だった……?】
【↑お嬢様発見】
「アハハ! 何かカノン先輩らしいな〜」
《ね、可愛いでしょ? ただ去年はちょっと大変だったけどね。カノンちゃんって素直だから嘘にも引っかかりやすくて、ウイルスを除去する石とかをたまに買いそうになるのを止めるのに苦労したなぁ》
「え、あれを買う人いたの……?」
【リテラシー皆無で草】
【やっぱりお嬢様だわww】
【実際いろんなデマあったよな】
【それ】
【ティッシュ買い占めとか懐い】
思い返せば確かに、菌を浄化するストーンやらネックレスやらが千円や二千円で何処ぞの店頭に並べられていたような記憶がある。今でこそ笑えるが、大マジに大マジな話だ。
SNSには連日のようにホラ話が投稿され、嘘に踊らされた大衆によって何の意味もなく店のティッシュ箱やトイレットペーパーが買い占められるなど、正に混沌を極めていた。
《まあでも、心配で買ってきたティッシュ箱とかは結局あとで役に立ったんだけどね》
【デマでも買い占め起こるの害悪よな】
【みんな騙されすぎワロタw】
【きっと全員お嬢様だから。しゃあない】
「あの頃は毎日暇で暇で仕方なかったな……先輩たちは何かしてましたか?」
ちなみに俺は例のイカのゲームを瑠美とやりまくって時間を潰していた。その間に他の人たちは何をやっていたんだろう?
【ずっとゲームしてたわ】
【家で筋トレしてた】
【は? 嘘つくなし】
【俺もゲームで指がムキムキになったよ】
【コントローラー筋つくよなw】
【無駄な筋肉で草】
《私は最初何もしなかったけど、カノンちゃんはやろうとしてたよ! ある日突然、朝の体操を始めたり、創作料理に挑戦したり、小説を書いてネットに投稿してみたり》
【全部続いてなさそうで草】
【三日お嬢様】
【三年寝太郎】
【小説って◯ろう?】
【探せば見つかるんじゃね】
【あ、これっぽい……】
【作者名『カノンお嬢様』www】
【あらあら(笑)】
ど、どんどんバレてくけど大丈夫かな。
というか、本人はこれ知ってるの……?
【あー、BL系書いてんな】
【しかもちょっとエッチなやつww】
【全体的にハートマーク多くて草】
【最近更新途絶えてね?】
【エタッたか〜】
【おぉん】
「で、でも良いことじゃないですか! 料理に挑戦するなんて」
《そうだね。ただカノンちゃん不器用だから失敗するたびに二人で泣きながら食べる羽目になって、その度にカノンちゃんが『ごめんなさい、ごめんなさい』って顔で私のほうを見てくるの……可愛かったぁ〜!》
【完全に親目線】
【エピソードのバブみがすごいw】
【でも長所が一つも……】
《そんなことないよ。私、落ち込んでたの。世の中の元気がなくなって、どん詰まりになっていくんじゃないかって怖くなって、何もやる気がなくなってた。ネガティブな言葉も言っちゃった気がする。でもカノンちゃんがいたから明るくなれたんだよ》
俺にも分かる気がする。
"不要不急の外出の禁止"は俺たちの人間関係を浮き彫りにした。自分にとって大切な人は誰か、"必要不可欠"な人って誰か。
俺にとってそれは家族だった。今回の件で身近な人の大切さを多くの人が改めて知ったんじゃないだろうか。
《一緒に体操したり、料理したりしてるうちに、気づいたら楽しくなってた。そういう人が私には必要だよ。だからカノンちゃんは私にとって"必要不可欠"なんだ》
【告白みたい】
【なんかじぃんときた】
【てか元々何の話だっけ??】
【好きなタイプの話。】
趣旨が大分変わってしまった。
結局、先輩は何を一番伝えたかったのか。
「先輩、そろそろ時間が」
《えっ? あっ……ごめん! 時間取っちゃってた!?》
【気付かないのかよw】
【全部お嬢様のせいやな】
【これは炎上】
《みんなごめんね〜! 今日はここまで!》
「みんなまたねー!」
【いや面白かったで】
【今度母ちゃんに電話でもするか……】
【おつです!】
【お疲れ様〜!】
【おつかれー】
【また明日!】
【明日も楽しみにしてるぞ〜!】
◇◇◇
配信の後、何だかしんみりしてしまった俺は寝る前に机の引き出しからそっと一枚の写真を取り出した。
「ああ……瑠美ちゃん」
写っているのは在りし日の瑠美。
「お兄ちゃんのこと好き?」とか聞くと、迷わず「すき!」とかって言ってくれた頃の幼少期の可愛い瑠美ちゃんである。
小学生のころの姿は今の俺と瓜二つで、端から見れば自分を見て悦に浸ってる人みたいだけれど気にしない。
愛しの愛しの瑠美ちゃん。
素直な君はどこに行ってしまったんだい?
偶には帰ってきてくれてもいいんだよ?
「あ〜あ……」
悔しいなあ。
この笑顔が誰かのものになるなんて。
分かってるけど。
なんか、なんかなんだよなぁ。
なんかもう、チューしたくなってきたぞ。
これにしておくか。
実物にしたら殺されるし。
「ちゅう〜〜」
トントントン……。
……ガチャ。
「おいバカ、洗濯物ここに置いて……」
「ちゅっ!♡ ちゅぅううっ!!!♡」
「おいバカタコ、さっきから何見てんの?」
「ちゅ…………あっ」
あかん、取られた。
「これお前?」
「う、うん! そうそう!」
ワンチャン行けるか……?
そうだよ、外見は瓜二つじゃん。
ふぅ、セーフ。
「でもこの写真の西暦、昔のだよね?」
「……」
「私じゃん、ねぇ? 変態なの……?」
や、やめて。そんな唇引っ張られたら本当にタコチューになっちゃう!
ヂュ〜〜〜〜ッ!?
今日はあんまり床とキスしたくないです。
出来れば瑠美ちゃんとがいいです。
そんなメッセージを込め掌にキッスする。
届け、俺の想い!!!
「(^з^)-☆ チュマッ♡」
「うっわ、汚っね! ふざけんなバカお前、いっぺん床とキスしろやタコォーッ!」
「ブッチュゥウウウウ〜〜〜〜ッ!?!?」
床材の味は、ほんのりと苦かった……。




