親子抱き合わせ販売
決まった。
そう思った瞬間だった。
「あれ……?」
おかしいな。コメントが流れてこない。
普段だったら今頃ダーッと際限なく流れてくるはずなのに。
《あれ……どうしたの?》
《何事ですの?》
《ほぇ?》
みんなも不思議そうにしている。
やっぱり俺の所だけじゃないんだ。
「私も見れないっぽい」
「瑠美も!?」
「これはもしかすると……」
鯖落ち?
そんな言葉が頭をよぎる。
本当にあるんだろうか、そんなこと。
《でも実際、コメントは流れて来ないんだよね……?》
「ああ」
どうやら余りにも多くの書き込みが一度に集中したため、コメント機能が一時的に稼働を停止させられてしまったようだ。
《こんなこと前代未聞ですわね……》
《ねぇ〜。でも、さっきの凄かったもん》
《そう! 新しい機能使うなんてずるい! それも、あんなにエッチな……》
そんなにか?
やべえ、また切り抜き作られちまうな。
《あら、困ったわねぇ》
「ん?」
声を上げたのは意外にもホノカのお母さんだった。
《せっかく娘の勇姿を目に焼き付けようとビデオカメラを構えていたのに、無駄になってしまったわ》
《撮る気満々じゃん! やめてよね!?》
《大丈夫よ、ホノカ。そんなに恥ずかしがらないで。ママも告白に協力してあげるから。毎年パパに捧げてきた愛情だけど、今年は別の人に捧げてしまうのもいいかもしれないって不意にさっき思ったのよ》
《ね、根に持ってるんだね……? さっきのはホノカの勘違いだ! 信じてくれ!?》
「怪しい……」
《どんどん墓穴を掘ってますわね……》
瑠美と先輩に睨まれるホノカパパを尻目にホノカママはホノカを鼓舞する。
《頑張って。ホノカならできるわ。だって、お母さんの娘だもの》
《ママ……! 分かった、頑張ってみる!》
《ちょっ……ホノカまで!?》
まんまと乗せられて頷いたホノカは無人の画面に向かって"おねがい"のポーズを取ると、まるで歌うように口上を述べ始める。
《あ、あのね、聞いて欲しいことがあるんだけど……私あなたが好きみたい。一緒にいると心が熱くなるの。付き合ってくれる?》
《私も……あなたのことが好きみたいです。一緒にいると身体が熱くなるの。娘と一緒に愛して下さいますか……?》
「お、親子丼……!!」
《ほぇ? ユウちゃん何の事言ってるの?》
《貴方には知る必要のないことですわ……》
《えぇ? 気になるよぉカノンちゃ〜ん!》
《娘と妻を同時に……ぁああああ!?!?》
またホノカパパは死んだ。
寝取られ耐性は無かったらしい。
「……んっ?」
<< スマホ見ろ >>
突然、ルミからのメッセージが届いたのでスマホを開いてみると何かのURLと一緒に続きの文言が送られてきた。
<< コメントは出てこなくなったけど、鯖落ちではないっぽい >>
添付されていたURLをクリックすると移動先のサイトに飛ぶ。それは有名な某掲示板のあるサイトのようだった。
<Vのバレンタイン企画について語るスレ>
……
……
252:やべえコメント欄消えた
253:鯖落ちしたの?
254:いや打てないだけで配信自体は見れる
255:ならまあ問題はないか
256:今どんな感じ?
257:羽咲ホノカがアピールタイムで何故かお母さんも一緒に告白した
258:え、お母さんも?
259:てことは人妻……?
260:エッッッ!!!
……
……
なんか……いつもと変わらないな?
しかし、ある意味これは好都合でもある。
これをみすみす逃す手はない。
<< 今から俺と口裏を合わせろ >>
鯖落ちではないことを皆に伝えないよう、瑠美に指示を出す。そして俺はカノン先輩を巧妙な話術で焚き付けにかかった。
《先輩も今ならチャンスですよ!》
《た、確かに誰かに見られる心配は無くなりましたが……それでも恥ずかしいものは恥ずかしいですわ!》
《カノンちゃん、頑張ろう? せっかく皆が考えてくれた企画だもん。楽しまなくちゃ》
《マリ……》
<Vのバレンタイン企画について語るスレ>
……
……
368:おっ
369:これは来るか?
……
……
《そうですわね。あなたの言う通りですわ。せっかくの機会ですし、わざわざ用意してもらった企画なのですから、最後までやり通しますわ……!》
《うんっ! その意気だよカノンちゃん!》
<Vのバレンタイン企画について語るスレ>
……
……
524:ぃよぉおおおし!!!
525:きたきたきたきた!
526:ナイスゥーー!!
……
……
しめしめ。
かかりおったな。
《うーん……どんな風にしましょう》
《カノンちゃん、ファイト〜!》
かくして、衆人監視の中で二条院カノンのアピールタイムが始まった。




