大胆な告白はvtuberの特権
対決の内容が発表されるとカノン先輩は分かりやすく反発した。
《こんなもの認められません!! 私、こういうのは柄じゃありませんもの!》
まあそう言うだろうとは思った。しかし、ここは戦場。そして周りにいるのは告白を披露するくらいで恥じらうような柔な生娘たちではないのだよ!
「バカ、罰ゲームなんて怠いことになったら承知しないから。先輩だろうがホノカだろうがまとめて蹴散らしてこい♪」
「ハハハ、無論だ!」
《えっ? ちょっと待って! 私両親の前でそんなことするのは流石に……》
《あらホノカ、誰かに思いを伝えるのは大切なことよ? いざと言うときの為に、ここはママ達がしっかりと見届けてあげる!》
《いやぁぁあ!! 見届けないで!!》
《な、何ですの……!? 私以外の方々には羞恥心というものがありませんの?》
「そんな物はもう捨てた」
【強い】
【こいつらには要らぬ心配だったな】
【流石は我らが夜来ユウ】
【歩くセンシティブ画像】
「誰が非表示設定だ!?」
SNSで見れないやつじゃんそれ。
《か、カノンちゃん頑張って。案外、これがみんなに知って貰えるチャンスかも!》
《そう言うならマリモがやれば良いじゃありませんの!》
《えっ? いや、それはちょっと……》
《やっぱり嫌なんじゃありませんの!? こ、これは完全なる辱めですわ!!》
【羞恥に悶えるお嬢様かわいい】
【恥じらいある子っていいよな……】
【もっと汚したくなる。】
【正直で草】
《う……ぅぅぅうううう!!!》
顔を真っ赤にして嫌がるカノン先輩の逃げ道を塞いだ所で、いざ尋常に勝負!!
「じゃあ誰からやる?」
《わ、私パス!》
《私はやるなんて一言も……!》
「あー、ならしょうがないなぁ。私がお手本見せるしかないか」
【よっ。センシティブ担当】
【界隈を代表するメスガキ】
【今こそ威厳を見せる時だ!】
そんなもんはないが?
「では、しばし準備を」
【お?】
【何する気だ】
実は今回、吉田さんに制作依頼した機能はエプロンだけではない。こんなこともあろうかと密かに隠し持っていた。
すいません先輩。
やっぱ俺、負けず嫌いみたいです。
企画の趣旨からは外れるが見せてやろう。
これが大人の力というヤツだ!
【!?!?】
【なんだこれ】
【何かいつもと違くね……?】
【すげぇ】
《な、何それ? そんな事できたっけ?》
《は、反則ですわ……だってそんな……》
《う、うわぁ。ちょっとエッチかも……》
各々の反応を見て瑠美はニヤリと笑う。
「流石バカ。考えたな」
俺が隠し持っていた秘密兵器。
それは、表情変化のエフェクトである。
通常は感知されない頬の上気や瞳の潤い、目の閉じ具合などを緻密に反映し、疑似的に表情を演出する機能。
まだ実用化には至っていないが、試作段階で作られたものを吉田さんにオプションで追加して貰った。感想を聞きたいとの事なので素晴らしかったと後で伝えておこう。
【何か、エロい】
【無性にクるわ】
画面に映し出された俺のアバターは、頬を桜色に染め上げ、瞳にうっすら涙を浮かべ、頼りなく下がった眉と歪められた小さな唇で何かを訴えかけるような表情をしている。
眠そうに垂れた目は外見相応の少女を思わせる弱々しさを醸し出し、見る者の庇護欲を否応なしに掻き立てる。
計算し尽くされた表情に加え、ダメ押しとばかりに俺は両手を組んで口許に添え、俗に言う"おねがい"のポーズを取った。
さあ仕上げだ。
普段は出さないような極上の声を、画面の前のリスナー達に届けよう。
「おにいちゃん」
【えっ】
【やば】
【こんな声出せるの?】
「ゆうのお願い、聞いてくれる?」
一言一言、気持ちを込める。
「ゆうね、今日のためにいっぱいいっぱい練習してきたの。でも今、お兄ちゃんの目の前に立ったら全部ふき飛んじゃった。だから、上手に言えなかったらごめんね。そのときはゆるしてね」
「すきだよ、おにいちゃん」
「ゆうとけっこんしよう」
涙がひとつ、こぼれた。




