切り抜き騒動
結果的に言うと前回のコラボ配信は大成功を収め、俺のチャンネルはついに収益化の条件を満たした。
一方でホノカは歌配信が人気を博し、以前にも増して知名度を上げている。俺の知名度までオマケで上がっているのは複雑とはいえラッキーである。
そんなこんなで数日後。何故か俺は羽咲ホノカのチャンネルにお邪魔していた。
「こんにちわ〜〜!! 夜来ユウです!! 今日はホノカちゃんのチャンネルにお邪魔させてもらってま〜〜す!」
【出たな悪魔め】
【前回の悲劇を忘れない】
【歌対決で歌以外の要素で勝利したやつ】
【ロリコン製造機】
あれ?
俺の評価、散々じゃね……?
《ふん、当然よ。あんな形で勝利したって、まともなリスナー達が納得する筈ないわ!》
「え、私のファン達は皆納得してたけど?」
《そいつらは例外よ!!!》
【例外認定で草】
【当たり前だよなぁ?】
【ホノカが歌で集めた視聴者なのにロリボにハマって逆に投票していったの笑える】
【ロリに駆ける】
【ホノカ婆】
《ぐぬぬぬ………!!!》
「お、落ち着いてホノカちゃん」
《うっさい! アンタのせいでしょうが!》
怒りに震えるホノカのアバターの首には、白地に大きく「ホノカ婆」と書かれたプラカードがさげられている。前回の対決での約束を彼女は律儀に守っているのだ。
《アンタとは友達になれると思ってたのに、やっぱり勘違いだったわ! ルルミと同じで人の心を持たない悪魔よアンタは!!》
【にしてはへっぽこやな】
【この悪魔なら勝てそう】
【勝とうとすんなw】
【俺だったら捕まえて召使いにする】
【ゲットされてて草】
「で、今日ここに呼んだ理由は何?」
《くっ………!》
ホノカは悔しそうに顔をしかめブルブルと身を震わせる。一瞬ドS魂に火がつきかけるも慌てて鎮火した。やられまくる方の経験があると他人にしようとは思えなくなるのだ。
瑠美さん、君のおかげだよ。
《お……お願いします……! 私に"ホノカ"と名乗る権利を返して下さい!》
「ん、今すぐ"ホノカ婆"を辞めたいって事?」
《その名で呼ぶなぁ……………!》
ゴゴゴゴゴ。
「ヒェッ……!」
【もう許してやってくれ】
【配信中不機嫌でしょうがない】
【全部お前のせいだかんな!】
【ecchi】
【mama】
【若干や海外視聴者が残留してんの草】
【多分何も状況分かってないww】
「わ、分かった。分かったよ。そんなに言うなら別のお願い事に変えてあげる」
《ほ、本当に……!?》
「うんうん。何がいいかなぁ」
【悪そうな顔やな】
【泣かせたくなる表情】
【コラボ後から"メスガキ"って検索すると出てくるようになったんだよね……】
【周囲の印象が露呈してる】
【切り抜き出回りまくってるからなぁ】
切り抜きとは何かの動画を短くトリミングしたものの事で、動画配信時間の長いvtuberは切り抜き動画によって知名度が上昇することもよくある。
切り抜きを作るのは著作権からするとグレーな行いだが、お互いに有益と見られれば企業から黙認される場合もある。例を挙げればホノカが歌う場面を切り取ったものや、俺の配信の面白シーン集などがそれに該当する。
《そう! あのコラボ動画のせいで私がすぐキレる女だってイメージが定着しちゃったじゃない! どうしてくれんのよ〜!》
【あ、それは事実】
【ファンだが擁護できましぇん(泣)】
【でも歌上手いから、多少はね……?】
《きぃいいいい!!!!》
「落ち着いて、ホノカ……婆」
《躊躇いがちにつけんな!!》