痛いんどけだど
【サブタイトル、痛いんどけだど→痛いんだけど】キラキラ王子様の背後に居たらしい影がいきなり飛び出し、問答無用で剣の鞘先で小突かれた。バランスを崩したままあっという間に肩口を押されて壁にまで追い込まれ睨まれた。
「え?」
蹈鞴を踏んで壁に激突し右肩にかなりの痛みが走る。
こんな事をされる意味がわからない。でもコイツの殺気は本物だ、私を殺すつもりなんだ。その恐怖でブワリと冷や汗が滲む。
私、何もしてないよ?何これ?
いつのまにか王子はクイーンの横に立ち腰に手を回して、私に対して塵を見るような視線をよこす。
が直ぐにクイーンを甘く蕩けそうに見詰めた。
瞬時に華奢な身体と保護欲そそる上目遣いテク発動してしなだれかかるとか、あの女め…
状況判断だけは早いな。
「美しい瞳にこんな者を見せてしまい申し訳無い。」
「はぁ?」
初対面の男にしなだれかかるとか、この状況で〈よくそこまで出来るな〉って感じで、もうそっちの人になりきってるぞこの女!
でさ、“こんな者“って言われたのよ、私が!
知人では無いけど顔見知りなんだよ!庇いもしないで知らんぷりする気?
あれ?私をチラリと見てから王子様に耳打ちしてる!
嫌な予感しかしないんだけど
まさかまた私を踏みにじるの?
私、貴方に何かした?
彼氏取るだけじゃ足りないの?
ここが何処だかわからんけど、もう大学構内以外って事は確実みたいだけど‥
あんたはそっちの全く知らないクソ王子風男につくわけ?
あんたのせいで私は誘拐に巻き込まれたんじゃないの?なのにそっちと共闘するんだ‥。
ならば共に帰るとわめかなくても良いわけで、帰るのは私だけで良いよね?
「その人が‥聖女?なら私は間違って連れて来られたのでしょ?ならば帰る権利があるわよね?元に戻して下さい」
偉そうなオッサン達も聖女様と頭を下げているよ、チョット簡単過ぎない?
私の話を聞け!
もうクイーンの口車に乗ったの?なんて目で私を見るの?怖い、怖いよ。
何、本気になってんの?
もういいから、お芝居はやめてよ。
私は学費勿体ないから絶対に帰りたい。二ヶ月前に後期授業料払ったばっかなんだってば。
もう私の頭にクイーンも共に帰ると言うのは無いから、当然の権利として私を元に戻せと再度主張した。
*** ***
「チッ」
王子様はより私を蔑む視線を寄越し再び舌打ちした。高貴な方がしちゃいけないと思うよそれ。
何を言ったのクイーン?
この状況で私のヘイトなんかしたら私の命が危ないじゃないの!なんか剣とか持ってるひとがいるから、変なこと言うのはやめて!
王子様、私初対面ですが舌打される様な何かを貴方にしましたか?
「聖女よ、我が国への助力を」
「何をするのかしら?痛い辛いは嫌だけど、私でお役に立つならば聖女としてお手伝いさせてください」
「何と心優しいひとなんだ。是非我が国の憂いを払って欲しいのだ聖女よ。そのためならば私は貴方の下僕となろう。勿論不自由はさせないよ。良ければ貴方のお名前を」
「まぁ、私の名はミカリ・タチバナです」
「なんて美しい名だミカリ。聖女に相応しい」
あの子、自分が聖女だって言い切ったよ。
訳わからない状況で何されるかわかんないのに言っちゃったよ、無責任過ぎる。
これドッキリだったら相当のバカじゃん。
もしもなんだけど、もしもなんだけど‥
こんな所に呼ばれて聖女とか‥異世界?が本当なら聖女が出て来る場面は、生贄か魔族討伐か何か面倒ごとしかないでしょ?
簡単に信じては駄目なヤツだよ、良く考えて答えないと。
「ねぇ用心した方が アゥッ」
武士の情けだとクイーンに注意しようと一歩前へ出ようとした瞬間、いきなり突き飛ばされて再び壁にぶつかる。また同じ肩を打ち付けた‥痛い。さっきより痛い。
「マジか‥」
蹲る私は簡単に目の前の設定に馴染んだクイーンをただ呆然と見上げた。助けてという言葉を言う前に、ダメだこいつはあてにならないとわかる。
むしろここの男どもを掌握してコントロールさえしている?
*** ***
冷たい視線をよこす人達と、この殺意ダダ漏れの騎士風暴力男から逃れなければ、私は死しか無いのを実感した。
痛さを堪えて周囲をみた。
籠もった室内のカビ臭い空気と、バタバタした事で埃が舞ったのだろう、喉はヒリヒリとして何かが喉に絡まって取れずむせ返る。
「やめて!なんで‥ゴホッこんなゴホッこんな事されるの?ねえ?あ‥」
クイーンは当然あっち側で、私を助けようなんて微塵も考えていないのは今の視線でわかった。
私の排除を望んだんだ!
私を見下ろす全てが冷たい侮蔑の目を向けてくる。私何もしていないのに‥
「あのね、私来ちゃったんだから”間違いでしたすみませんお帰します“よが普通の対応でしょ?」
言ってもダメなのはもう気づいてるよ
でも言わなきゃ収まりがきかない。
もしこの世界で生き残らなければならないなら、私に対しての保護する態度が見えないと言うことは、覚悟するしかない。
それだけは確実にわかった。
帰れない‥んだ…
根性据えて一か八か、痛む肩を押さえながら無反応な人達に声を張り上げる。万に一つの可能性を。
「私も共に来たのだから聖女かも知れないんじゃ無いの?」
なんとか膝立ちしそう告げれば、またデカイ男に今度は蹴ばされた。
さっき私を突き飛ばした奴にまただ。
無礼だ消えろと脅され、痛みを堪えて起こした上体に容赦なく腹に蹴りを入れられて後ろへとすっ飛ばされ、また壁に激突だ。
乙女の腹に蹴りとか無い、空腹に蹴りなんて胃液が上り喉を焼いて酸っぱいし、かなり痛い。人に蹴られるとか初めての経験だ。
男はデカイし、かなり鍛えているのだろう事は見た目からもわかる。
そんなあんたの硬そうなブーツの足で蹴られたら内臓破裂するでしょ。
実際変な音が体内でしたから、もしかしたら肋骨一本や二本は逝ってるかもだ。
あまりにムカついたのでチッと舌打ちしてからおもいっそ怨念を籠めて
「アンタナンテタタナクナレバイイ」
小さな声で怨みをぶつけた。
いいの、自己満したいだけ。
聞こえたらヤバイけどこういう悪い感情は体から出さないと病気になるからね。
ちょっと前に元彼の濡場を見せらせた時にも私の口から出たワードでもある。
こんな短いスパンで同じ女のせいで同じ呪い(男は違うけど)を口にするなんてそういないと思う。
あ〜マジでうざっ
「チッ」
「舌打ちとはしたない女だ」
あんたの仕える?王子様もやってましたけど?そっちにもハシタナイと言ってやれよ!
デカイ男に睨まれシャリンと音のした後に剣の先を首に圧し当ててきた。これには引き攣り声も出なかった。
冷たい金属が肌に当たりチクリとし身体の底から恐怖が湧いてくる。
ウソ‥切れた?切られた!?
見上げたその男の目があまりに怖かったのと、鞘から抜いた剣を首に当てられた恐怖と、蹴られた腹が痛過ぎて身体防護の姿勢を取ろうとするも辛いし、今動いたら首切れる。
涙が出たが必死に堪えた。
だって、チラリと見上げた端には知らん顔でクイーンが、男には絶対に見せないだろう意地悪そうな顔でこちらを嘲笑っていたから‥。
顔見知りの命の危険時に命乞いの一言も無く、うっそり笑うお前なんかに涙なんて見せたくない。選ばれた者としての余裕?私を捨てて自分は助かろうとした?
物語では聖女なんて一人しか居ない。そうでないと均衡が取れないものね。その一人に自分が収まり、私を排除するのか!
排除か‥自分が助かるために私を貶めやがったなクソ性悪女!人類の敵、魔女、サイコ女、阿婆擦れ尻軽、女の敵!
これがあんたの本性だよね。
私を助ける気は無いという事ね。
ここは、多分異世界だろ。
こんなコスプレして本物の剣とか持ち歩きしてたら狂人の集まりだ。ましてや暴力を奮ったとか私の世界でただでは済まはずが無い。
王子様面が付けた?灯りは宙に浮いているのが角度を変えた事で見えてしまったし、床に這いつくばった事で見えてしまったネズミらしい生き物が私の記憶に無い六本脚の生き物でシッポが三本もあったのを見てしまったし、聖女というワードからももう納得するしか無いだろう。
異世界に呼ばれた…
なのに。
同郷のよしみ(たった二人きりかもしれないのに)もあの女は感じてないようだ。
同じ界の女が蹴られようが剣で刺されようが暴力を振るわれようが、いや普通は知らない人でも目の前で刃物を突きつけられたら何か言うよね?
あまりにも関心が無い事に身震いする。
私なら叫ぶ。助けてあげてって、聖女のくせに人助けもせず、蹴られて蹲る私を笑うとかマジで恐ろしい。
こんな女の何処が聖女なのよ!




