王子の信頼厚い騎士 その1
暴力を受けたのなんて初めてだからびっくりだった。
ましてや男からの暴力だなんて、私史上初めてのことだ。
それが近衛騎士だった?!
「近衛って出来る男の代名詞、選ばれし武のエリートで、紳士って言うイメージがあるのだけど?」
「あーまぁ、そうとも言いますねぇ‥ええ」
「ここはそうじゃないの?」
あれ?アンナちゃん歯切れが悪いね、私のツッコミに目を逸らしたわよ。
騎士って弱きを守る人で、女性に対しては礼儀正しい人でしょ?此処では違うの?
か弱い女性である私を、体がデカく力のある男が蹴り飛ばすなんて、私は武器も持っていない小娘なのに騎士にあるまじき行為で、そんな奴は騎士を名乗っちゃいけない人でしょ?
蹴り具合では死ぬかもってそんな事も予想できない大バカじゃん。実際私は医者がびっくりする程の大怪我だったわけだし!
(起き上がってご飯も美味しく食べちゃって、雑談もしちゃっているけども!)
蹴られた時はかなり痛かったし、三途の川の向こうにチラッとお花畑が見えたもの。お婆ちゃんとお爺ちゃんが手を振ってるの見えちゃったよね。
でも今は痛みは引いて、肩の痣も腕と掌にあったちょい深めのすり傷(転んだ時にできたのか?後で気が付いた)も首筋の剣の切り傷も今は消えたから(こっちのくすり凄いな〜)良いけど、いや良くないけども!
只、腹の足型の痣は残った。あの悪行忘るべからずって事からかしら?よっぽど強く蹴られたからか?
医者には、翌日には腹以外の傷が無くなってビックリされ、凄い尊い人を見るような視線になっちゃったので(拝まないでほしかった)こんなのバレたら生贄にしろ!なんて言われちゃうのも嫌だし、こっちの凄い薬のせいではなかったのか‥ならば!
"内緒ね!"
と医者とアンナちゃんにお願いするが内緒になるかは不明だな。
何せあの宰相様のお手配の医師と侍女ちゃんだから、何かしらの報告はされるか。
まぁそれはそこで止めてくれたらいい事で、あの人なら止めそうよね。
で、此れが噂の異世界チートってやつなら
知っている人は少ない方が良いよね?
オマケの私でも怪我しても死なないかもなんて知られたら何をされるか‥
あ、じゃ聖女であるクイーンの力はどんなものだろう?
本物の聖女様なら私よりさぞや凄いチカラなのよね?
何かをして欲しくて呼ばれたんだから、何をさせられるのかな〜?
流石に人身御供とかだったら寝覚めが悪いから助けなきゃだけど‥そんな悲壮感は無かったし、高待遇ぽかったから、自分の事だけ考えてもいいかな?
いいよね、あっちは私を見捨てたんだから。
*** ***
正月に従弟の中坊が読んでいた漫画を暇つぶしに読んでおいて良かったかも。
あれは異世界召喚物だったのよね。
異世界召喚なんて何かさせる為に呼ばれたんだから、警戒するに越したことはないでしよ?
生贄か?魔王を倒せとか?
私が読んだのは生贄系だったから瞬時に返せ戻せと喚いてしまったんだけど、それは無さそう?
ドラゴンの棲まう洞窟に捨てられるとかは勘弁だよね〜。
討伐系なのかな?いや勇者とは言ってない。
聖女って言ったんだから、癒し?病気でも流行ってる?
あ〜もっと読んでおくんだった。そういった知識を仕込んでおけば死ぬ確率は0.001%位は減少できたかもでしょ?
召喚なんて出来るのだから、魔法はあるのよね?魔王様とか倒しに行かされるとか嫌だからね。あのバカ王子と旅とか勘弁でしょ?
名前を知られれば縛られるかもと恐怖に怯えたが、クイーンはあっさり教えてたな(いやオタク系の漫画をクイーンが読んでる訳無いから、名前縛りなんて知らないよね)
あの王子に、名は?と聞かれたらまぁ答えちゃうよね〜キラキラだったもんね。
でもさ、かの有名なアニメ映画位は観てないのかな?相手がオババじゃ無いと言っても、温泉宿で強制労働とかやりたくないじゃない。
あの場の明かりを指パッチンで付けたのは、あのバカ王子だったのかな?
考えたくは無かったけど、ここも魔法の世界みたいだし、なるべく危険は回避しておきたい。怒らせたらパチンされて死ぬって予想しか浮かばないもんね。
私も宰相様に名を告げたが、それでも怖いから家名までしか言ってない。
せめてもの抵抗、保険は大事。
同様に早期自然治療系は、知られたら怖いから様子を見る事にした。
自身にだけか、他人にも出来るのかこっそり調べたいな。
私はこっそりね、こそりと生き残りたい。
*** ***
あー考えることが多くてクラクラするけど、情報収集の為に侍女のアンナちゃんにもう少し詳細を聴かなくては。
私に怪我を負わせた男は高位貴族の次男で王子付き近衛騎士で、なんと23歳だと?
あれで?
二十代後半の見た目に、中坊の精神と思ったが、私よりたった一つ上とか‥ない。
かなりガキじゃん。
「城内の婿入り男性陣の中では最優良物件であり、一人娘の貴族に大層人気があるそうです。王子と懇意で高位貴族、騎士としての腕もあります。また、貴族の奥方達には一夜のお相手としても人気があるそうです。なにせあのガタイですから一晩中楽しめそうだと」
「誰の事?」
「お尋ねの騎士の噂ですが」
「は?‥えぇ〜ウソッへーモテるんだ、(アレが)へー」
王子おつきの近衛だから、貴族だからって何してもいいの?何でも許されるの?
モテてるからって良い気になってんじゃないよ。
例えオマケであっても、其方の都合で召喚された私を蹴り飛ばしていい理由なんて一つもない。私は素手で武器の携帯なんてしてなかったし!
何も調べないで容姿で選んだあのバカ王子も同罪だけど、
「ああ、バカ王子は第二王子でいらっしゃいます。側妃様のお子様で現在23歳でいらっしゃり、リザルド様とは学生の頃からのお友達です」
「ん?23?やっだー中学生くらいかと思ってたわあの馬鹿さ加減 あっ、失礼国の王子に失言を‥ごめんなさいねぇ。えーと、そうそう、ソクヒって?」
「いえ‥はい、国同士の友好の為他国の姫様を正妃としてお迎えしておりますが、国内の均衡を保つため正妃様以外にお二方の側妃様を陛下は迎えていらっしゃいます」
「へ〜王様は三人も妻をお待ちなのね。(均衡‥王族は力無いのか)ソクヒって第二、第三夫人って事ね、はいはい側妃ね」
「はい。でも陛下は正妃様を一番愛していらっしゃるので、其々にお子が出来た今は側妃様方へのお渡りはありません」
うん?
‥ソレも複雑ね。
今はお渡り無いかもだけど、子供が出来るまでそういう事したわけね、正妃様を愛してるのに?
王様も大変で‥正妃様のご心痛を慮ってしまうわ〜
それにお子様達の立場とか、今後の動勢とか、力の無い王族ならばお子たちの親族である家の勢力争いとか厳しそう。禍根を作る為に娘を差し出すとか、この国結構やばくないか?
「既に正妃様とのお子が王太子様になられたので争いはありませんが、ソレなりにはきな臭いです」
きな臭いんだ!
それなりに‥やっぱり!
言っちゃったねアンナちゃん。
一応ありがちなお家騒動的なものはあるのね、巻き込まれない様に気をつけなきゃ相手は国単位だものね。
でもあの第二王子が立ったらこの国は終わる。
うん、取り敢えず王太子が決まってて良かった。
大体さ、召喚された女は二人いたんだから私を放置した時点での危険性をなんも考えていないわけよあのバカ王子は!
召喚者に対しての部下の統率も出来ていない。バカ騎士を止めもしなかった。
第二王子は只のエロバカアホウと敵認定したのは当然のなり行きでしょう。
クイーンが何かしらささやいていたから、私の事を貶めた事を言ったに違いない。
こっちはやられた!出遅れた!って感じよ。
しかし、あのバカが近衛騎士で容姿、実力共に優れており、かなりのエリートと言われているのが納得いかん。
あの時の態度を見る限り、チラチラとクイーンを盗み見して赤くなっていたのは覚えている。私を蹴ったのもクイーンにアピールしたくて、目を引きたいだけでやったんだよね?
そうすればクイーンが喜ぶと嗅ぎ取り忖度したんだよあれは。
これだからお子ちゃまは困る。もう少し広い視野で見ないとね、側近としてどう?
まぁ私が蹴られた後クイーンはうっすら笑って止めもしなかったから、バカ騎士は自身の行動に間違い無しと思っただろう。気に入られたいなら成功だとエスカレートした結果、私は満身創痍となり気絶したわけで、私には迷惑この上ないバカに絡まれたもんだわ。
普通、目の前で人が酷い目に遭ったら悲鳴をあげるか、やめてと一言あってもいい筈だが、笑ったんだよなぁあの女。
つくづく怖いと思う。
そんな怖い女にでれている王子も騎士もバカ(敵)決定!
あんな女が聖女でこの国は助かるの?
NOだと言っておこう。
あんな表情をしてクイーンを見つめていたバカな男を知っているから、バカ騎士が完全にあっちに落ちているのは直ぐにわかった。
分かっていて回避出来なかった自分にも腹がたつが、腕力で勝てるはずもないし、あの場での回避は無理だったから仕方ないけどね。
兎に角、敵は定まった!
が、今は回避出来れば回避して、安寧の生活を手に入れたい!
生活基盤手に入れてからじゃないと身動きが取れませんって!
そうでしょ?