ゴブリン、岩山を抜けて
落ちる落ちる落ちる。
ちょっとスパン早くないですかね。
心なしか落ちる速さも段違いに早い気がする。これ着地した時すげえ痛そうだなぁ。
落ちた、案の定もう一回そのまま死ぬんじゃないかってくらい痛かった。
降り立ったのは草木が殆ど生えてない荒れた岩山。
流石に死ぬペースが速すぎると思う。
最長記録が2日はヤバいと思うんだよね。
いや、ゴブリンが根本的に弱いってのはそうなんだけど、余りに死に過ぎなんだよ。
運が悪いってのもあんのかね?
あんな誰も通りそうねえところで虫に刺されながら女襲ったのに、いきなりヤバいのが出てきて真っ二つにされたり。
あんなクソ弱そうな新米兵士襲ったのに、なんかいきなり覚醒して真っ二つにされるし。
そして今回に関しては兄貴達ともはぐれた。
というか多分さっきパンティー兄貴と合流出来たのが割と奇跡に近い部類だと思う。
まぁどうせいつかまた会えるだろう、どうせあの人たちもすぐ死ぬだろうし。
死に癖、って言ったらアレなんだけど、流石にこのペースで死んでたら生き物としてなんかやべえと思う。
だから目標を決めよう。
俺はどこまでも続く岩山を時に足を滑らしそうになりながら歩いて行った。
希望はある、遠くに森が見えたのだ。
森まで行けば食べ物がきっと見つかるだろう、泉や川だってあるかもしれない。
とりあえずこのまま岩山にいたら餓死するのはほぼ間違いないと思うので、必死にそちらの方向を目指す。
最低一週間だ、一週間は生き延びてやる。
そう難しくはないはずだ、仮にも前世は20年以上生きたんだから。
こんなサバイバル生活じゃなくて、真っ当な人間社会での話なのだが。
少なくとも今、俺は自分で考えて行動している。
誰かに命令されて、決められた時間、もしくはそれ以上に働いたり、眠いのに寝れなかったり、全部が嫌になって何もやる気にならなかったり、きっと誰もが「当たり前」にやっていること、お風呂に入るとか、歯を磨くとか、ゴミ出しをするとか、それらをやることすら億劫なわけではない。
いや勿論ゴブリンだから風呂も入らんしゴミ出しもしない訳なのだが、言いたいのはそういうことじゃなくて、少なくとも「ゴブリンとして生きることに前向き」なんだ。
前世はきっと「人間として生きるのに消極的」だったんじゃないかと思う。
今俺は、きっと間違いなく幸せなんだと思う。
既に2回も体真っ二つにされてっけど、それでも俺は幸せだ。
もしあの時、天使の言う事を聞かずに人間になりたいど駄々をこね続けていたら。
きっと俺はまた、同じような人生を送ると思う。
人間なんか死んでも性格なんて変わらない、少なくとも俺はそう思う。
もしあの時こうしていたら、もっと昔から沢山勉強していれば、自分に才能があって、幼少の頃からそれを発揮できていれば。
そんなもんあり得ねえ、タイムスリップとかなら別かもしれないが、凡人が生まれ変わったところで凡人は凡人だ。
だけど凡人は、ゴブリンとしての才能はあるかもしれない。
俺は凡人だったが、ゴブリンとしてこの上ない適正だったんだと思う。
天使様ありがとうな、感謝してるよ。
何回も死んでるけどよ、いつか本当にオシマイになっちまって、またアンタに会えたら御礼を言わせて欲しいんだ。
俺は間違いなく、ゴブリンくらいが丁度いいよ。
そろそろ森だ、もう一息。
頑張ろう。