表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/16

覚醒イベントです(※ゴブリン視点)

 ゴブリンは弱い。

 だから周りの群れゴブリンたちも人間一人に対して最低でも3匹で襲い掛かっている。

 それでも回転切りとかで全員胴体から両断されたり、瞬間移動かのごとく目の前から消えたかと思うと、次の瞬間には全員切り伏せられていたりと、悲惨な末路を辿っている。

 しかし人間も強い者ばかりではない。

 中には俺みたいな新米の兵士だっている。

 そういうのこそ特に狙い目だし、たまに新人を庇った熟練兵士の首を取れたりするから初心者狩りはメリットしかないのだ。


「げひいいいい!」

「うわあっ!」


 きったねえ声で襲い掛かるパンティー兄貴が狙ったのも、そういう初心者兵士だった。

 明らかに他の兵士たちよりも未熟な雰囲気が武器の構え方からも素人目で伝わってくるし、少し怯えた目で周りを見渡している姿は、ゴブリンからしても格好の餌食だ。

 ゴブリンは自信の無い奴から襲い掛かっていく、ゴブリン側も自信が無いからだ。

 パンティー兄貴の棍棒を、新人兵士はどうにか盾で防いだようだが、棍棒が跳ね上がったことで生まれた明らかな隙にも、盾を構えて怯えて全く反撃する気配がない。

 このままいけば棍棒の連続打撃で兄貴が押し切り、新人兵士の頭を叩き潰すだろう。

 周りの熟練兵士達も、他のゴブリンの相手をするのに必死でカバーが出来ない。

 なら俺もパンティー兄貴と一緒に新人兵士へ襲い掛かり、確実にトドメを刺すべきだろう。


「うぅっ……!」

「ぐえっへっへっ!」


 へっへっへっ!

 どうする坊や、これで詰みだぜ。

 兄貴の棍棒がお前の頭をカチ割るのが先か、俺の胴の剣がお前の首に刺さるのが先か。

 選ぶがいい自分の未来を、そして神に祈れ。

 答えてくれるのは死神だがなぁ!


 俺の剣が肉を貫く。

 やった。確信がある、絶対に助からない。

 だが俺が刺したのは新人兵士ではなく、他のゴブリンたちを跳ね除けて新人兵士を庇った髭面の熟練兵士だった。


「ぐううっ!」

「ドイルさんっ!」


 ドイルと呼ばれた熟練兵士は、必死に剣を振り払うが、致命傷を負っているせいで全くキレがない、ゴブリンの動体視力でも避けられるレベルだ。

 俺たちが警戒して距離を取ると、ドイルは力尽きたように膝から崩れ落ちる。


「ドイルさんっ!」

「へへっ、わりぃなライト。お前美人のねーちゃんがいる店連れてってやる約束、果たせそうにねえや」

「今はそんなこといいですからっ。喋らないで!」


 必死な新人兵士ライト君と死にかけの熟練兵士ドイル。

 そしてなんとなく邪魔出来る雰囲気じゃなくてボーっと眺めるアホゴブリン2匹。

 ドイルは最早声も出せなくなり、呼吸もままならない。

 そして口の端からゆっくりと血を流すと、ライトを安心させるかのようにゆっくりと微笑み、そのままガクンと倒れた。


 えっと、どうします兄貴。


「そろそろ攻撃していいかなぁ?」


 いいんじゃないすかね。

 自分たちでやった手前、少し居心地悪いが、残念ながら俺たちはゴブリン。

 空気を読まずに武器を構えて、未だドイルさんを腕に抱えたまま顔を伏せているライト君に近付いていく。


「……僕は」


 俺たちが目の前まで近づいて、さぁ武器を振りかぶって攻撃という時に、ようやくライト君の口が開かれた。


「強くなって皆を守るって、決めたんだ」


 は?


 振り下ろそうとしたのにも関わらず、全く力が入らず、むしろ振り上げた剣がそのままに、後ろへと倒れこむ。

 ドサリ、という音が二つ聞こえた。

 一つは隣から。

 もう一つは自分自身から。

 目の前に見えるのは、怯えるライト君ではなく、真っ二つになったゴブリンの胴体。

 つまり俺の下半身。

 えっ、マジ?


「もうこれ以上、失うわけにはいかない」


 頭の上からかっこいいセリフが聞こえてくる。

 隣で同じく切られたパンティー兄貴は首を切られたようで、ゴロンと首だけが俺の顔の隣まで転がってきた。

 転がってこなくていいのに。

 つーかまた首切られたのかよアンタ可哀想に。


 切り伏せたゴブリンのことなどもうライト君の頭には無いのだろう。

 先程までとはまるで異なる、大地を蹴るような走りで戦場へ駆けていった。

 程なく聞こえてくる他ゴブリンたちの悲鳴。

 徐々に暗くなっていく視界の中、あぁ、きっとこの戦いは俺たちゴブリンの負けなんだろうなと確信した。

 それも完膚なきまでに殲滅されるのだろう、一切の生き残りも無く。


 まぁ勇者の覚醒イベントみたいなのを特等席で見れたっぽいしいいか。

 そんなことを考えながら俺は意識を手放した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ