ギ、ギィ…… ギャー!
ポンコツ兄貴達と共に全力で女を追いかけた結果、どうにか追いついた。
すかさず後ろから無言の奇襲。
まず物干し竿兄貴が飛び掛かって女を蹴り倒し、パンティー兄貴が女にとって大事なものであり、振り回されば武器にもなりかねない籠を遠くに蹴り飛ばす。
俺の役目は蹴り倒された女の背中から布を口元に被せ、酸欠で気絶させるくらいの勢いで締め上げることだ。
「むぐぅうううう!」
女も必死で抵抗するが、首を俺が足で締め上げてるし、手はうつ伏せだからロクな抵抗が出来ていない。
そのうえ腰には物干し竿がしっかり乗っかって、蹴られないように両足をホールドしてくれているから、ほぼ身動き出来ないはずだ。
「げへへ、抵抗をするな」
そしてパンティー兄貴がナイフを女の顔に近付け、髪の毛をひっつかんで脅す。
ここまでくればほぼ完璧だ。
女も諦めたのか、それとも息が出来くて体力がなくなってきたのか、先程よりも抵抗が少ない。
やがて女が完全に身動きをしなくなったところで、俺は口元の布を猿轡のように噛ませて、女の後頭部で縛る。
その後、女を俺と物干し竿兄貴で担ぎ上げ、パンティー兄貴の先導で洞窟に戻ることとなった。
「ぐひひ、上手くいったな」
「あぁ、あとは住処まで運ぶだけだ」
やりましたね兄貴達、中々の上玉ですぜ。
前を歩くパンティー兄貴に付いていきながら、ぐったりしている女の感触を確かめる。
あぁ、やわらけえなぁ。食っても美味いんだろうなぁ。
「楽しみでしょうがねえよ、もう待ちきれねえ」
「一番最初は俺にやらせな」
えー、初めてなんだから俺でもいいじゃないですかパンティー兄貴ぃ。
ねぇ、物干し竿兄貴もそう思いますよね?
「馬鹿野郎、今回は俺からだろう」
後ろで女の足を方に担ぐ物干し竿兄貴にお願いしてみたが、あっさり断られてしまった。
もう仕方ないっすねぇ、じゃあ兄貴達が一回ずつ終わったら俺に回してくださいよ!
パンティー兄貴もそれでいいですか……うおっ!
俺は何かに躓いて転んでしまった。
全く、障害物があるなら教えてくださいよパンティー兄貴、転んじゃったじゃないですか。
これで女が死んだら楽しみが減っちまいますよ。
そう愚痴って転んだ拍子に落としてしまった女を担ぎ上げようとして、俺は目が合ってしまった。
なにと?
首だけで転がってるパンティー兄貴と。
ひ、ひえっ。
「下等生物が……」
体の芯から凍り付くような声が背後から響き、恐る恐る振り向く。
そこにいたのは全身を黒い全身鎧で包み、背中には慎重よりもデカい大剣を背負った男。
バスターソードってんだっけ? あれ。
若干現実逃避気味になりながらも、耳に入ってくるのは汚いゴブリンの悲鳴。
全身鎧の右手で、物干し竿兄貴が宙吊りにされ、必死に抜け出そうと手足をバタつかせてもがいているのだ。
「死ね、ゴミクズが」
ボキィ。
石が割れたような音が辺りに響き、俺の顔に血の滴が掛かった。
物干し竿兄貴の身体だけが地面に落ちて、それがゆっくりと灰が風で吹き飛ぶように粒子となって空中に消えた。
傍に落ちていたパンティー兄貴の顔も、目玉がゴロリと転がったと同時に粒子となって消える。
「経験値にもならん」
体の震えが止まらない。
ダメだ、絶対に勝てない。
圧倒的な強者を前に、自分自身が下等生物であるという現実を否応なく受け入れさせられる。
許してくれるはずもない、全身鎧の氷のような冷たい雰囲気からは、そんな温情を感じない。
選択しなんて、一つしかない。
「貴様で最後だ」
ギ、ギィ……ギャー!
俺は逃げた、必死に逃げた。
動かない足を懸命に動かし、這いずるように不格好な形になっても逃げた。
洞窟の方とかじゃない、とりあえずコイツから離れられればそれでいい。
逃げなければ。
背後で風の切る音が聞こえた。
聞こえた瞬間、俺の身体は胴体から真っ二つにされた。
ゲェ。
「もう大丈夫ですよ、助けるのが遅れてしまい申し訳ありません」
薄れゆく意識の中で、そんな声が聞こえてきた。
女の怯えて泣き叫ぶ声も。
しかし泣き声はどんどん小さくなり、やがて聞こえなくなる。
あぁ違うわコレ、俺が死んだから聞こえなくなっただけだわ。