女だ! ヒャッハー!
「女だぁああああ!」
「うぉおおおおお!」
ひゃっはあああああ!
やべえよな、さっきまでのシリアスな感じどうしたんだろうな。
やっぱ俺たちゴブリンだからさ、遅れて起きた物干し竿兄貴と一緒に遅めの朝飯食ったらコレよ。
初めてでよくわかんねえからノリに合わせたけど、普通に全身が興奮してくるのを感じるから俺も冷静なフリしてっけど結局同類なんだよな。
「作戦を伝える!」
「おう!」
はい!
「昼時に村から町へ買い物をしに行こうとする無防備なバカ女を襲う!」
「いつも通りだな!」
こんなご時世で非武装の女が一人で出歩くとかアホの極みですね!
「いなかったらしょうがねえから諦める!」
「以上!」
うぉおおおおお!
えっ、諦めんの? 村を強襲とかじゃなくて?
「馬鹿かテメエ、武装した男に勝てるわけねえだろ」
えっ、俺たち弱すぎでは……?
「もうちょっと人数の多い群れだったら、そういうのもアリだけどな」
兄貴達の話によると、ゴブリンの力はマジで弱くて、ゴブリン3匹同時に襲い掛かって人間の女性一人を襲えるくらいらしい。
それも訓練してる女騎士とかだと余裕で返り討ちに合うっぽいから本当に弱いと思う。
そもそも村を襲えるくらいゴブリンが強かったら、昨日あんなコソコソ泥棒せずに普通に襲えば良かったのだ。
まぁ確かに身長100cmくらいしかないもんね俺たち、子供3人がナイフとか持って襲い掛かっても、しっかり武器持った男の人が一人でもいたら兄貴達の言う通り無事ではすまないかもしれない。
「そういうことだから、結構大変だぞ」
「大声出されて助けを呼ばれるとまずいから、ちゃんと捕まえたら布で口ふさぐんだぞ」
はーい。
兄貴達に言われ、俺はいそいそと口元を抑える用の布と、逃げられないように縄の用意をした。
準備おっけーです兄貴!
「よし行くぞ!」
「ひゃっはあああああ!」
ドキドキしてきた、前世でも女には縁がなかったしな。
今から興奮が収まらねえ。
俺らは昨日のように山を下り、町と村の境となる道の傍で黙って息を殺し、その機会を待った。
30分が経過し、流石に少し緊張が途切れてくるが、兄貴達は何も言わない。
流石兄貴達だ、手練れている、最早身動き一つせずに草と同化している。
そこから更に1時間経過したが、まるで人が通りかかる気配がない。
しかし兄貴達は無言で、例え蚊が近くを飛んでいても虫を払おうともせずにジッとしている。
隠れ始めてから2時間経った、もはや蚊は俺たち3人から血を吸い切り、満足そうに帰っていった。
全身痒くてしょうがないのだが、これも女の為だ。
兄貴達が何も言わないのに、俺だけ弱音を吐くわけにはいかない。
そして遂に、その時が来た。
木を加工して作ったのであろう籠に、村で編んだのであろう布を入れた、垢抜けた感じは無いものの、金色の髪をサイドに三つ編みで垂らした素朴な若い女が歩いてくるのが見えた。
しかし兄貴達は決して動かない、もう少し引き寄せる気か。
確かにここで焦って飛び出し、大声を上げて逃げ出されたら水の泡だ。
俺は早く襲い掛かりたい衝動を必死に抑えながら、兄貴達の指示を待った。
女が目の前まで来る、兄貴達は何も言わない。
女が目の前を通り過ぎる、兄貴達は動かない。
女が臭そうに鼻を摘まむ。わかる、兄貴達臭いよね。慣れてきたけど。
女が離れていく、バレずに済んだわ。なぁ薄々気付いてたんだが。
あんたら寝てんじゃねえ!!!
「うおっ、なんだどうした!?」
「敵襲か!?」
敵襲かじゃねえよ、今可愛い子通り過ぎちゃったよ!
「なんだと!?」
「すぐに追いかけるぞ!」
あっちです兄貴達!
まだそんなに離れてないはずですぜ!
ゴブリンは集中力が全く無いから困る。
多分これまでも結構こうしてチャンスを見逃してたのかもしれない。
俺は兄貴達二人と共に、短い脚を懸命に動かして女の後を追った。
大丈夫、そこまで彼女の移動速度は速くない、きっとすぐに追いつくはずだ。