タンパク質が欲しい
やばい、素手で魚取るの滅茶苦茶難しい。
いや、ドチャクソ早いんだよ魚って。
そらそうよな、水の中で生きてた経歴が違うわ。
あちらさんは生まれて来てからずっと水の中で過ごしてるんだぞ、陸上生物ごときが勝てるはずがない。
だけど陸上生物さんも食べなきゃ死んでしまう、一回くらい魚さんに勝って、いただきますをするしかない。
もう少し頭を使うべきか? 一回陸上に戻って策を考え直すべきだろうか。
いやでも、もう少しで捕まえられそうな感じがあるんだよなぁ。
もう少し粘ってみたい、なんとなくコツは掴んだんだよ。
まず正面から行ったら当たり前のようにバレるから、泳いでいる群れの後ろにそっと近付いて、なるべく近くに魚が寄るのを待つ。
そして魚よりも上流にいると、臭いを感じるのか分からないが、捕まえようとする前に逃げられてしまったので、常に下流側にいることを意識する。
水上からバシャッ! っと手を突っ込んだところで、魚の泳ぐスピードの方が早いので逃げられてしまうから、冷たいのを我慢してでも予め手だけは水の中に浸しておく。
そしてあとはひたすらに、掴める範囲に魚が来るのを待つ。
木苺も良かったのだが、体がタンパク質を求めている。
食欲という本能が俺の集中力を刺激し、スポーツで言うところのゾーンに入り込んでいる気がする。
今だ。
スッ、っと近くに寄った魚に、俺は全力で手を伸ばす。
なんなら腰までしか浸かっていなかったのに、その瞬間はもう頭から突っ込んで、勢いよく掴もうとしたのだ。
けれど、それでも魚は捕まらなかった。
いや、手には触れたのだ、活きの良い魚の鱗の感触が。
触れることが出来ただけに滅茶苦茶悔しい。
いや、触ることは出来たんだ。
体は相当に冷えてしまっているが、恐らく普段より水温に近付いている分、魚も俺という存在を認識しずらかったのだろう。
もう一回だ、次はいける。
そう信じて俺は再び、別の群れの方へとゆっくり近づく。
そして先程のように腰を屈め、再び魚を待つ。
待って、待って、待つ。
さっきは少し焦り過ぎたんだ。
チャンスを焦って捕り逃がすくらいなら、見送ってしまおう。
そのくらいの余裕を持て。
今だ。
確かな感触、俺の腕の中で全力で藻掻く魚、絶対に離さない。
俺はそのまま魚を水上へと掴み上げ、尻尾と頭を絞め殺す勢いで掴んで急いで陸上へと上がった。
ここまで来たらもう大丈夫だ、例え取り落としても逃げられることはない。
俺は焚き火の近くに魚を置いたが、未だ勢いよく跳ねているので本当に活きがいいとしか言いようがない。
だがもうオシマイだ、俺は跳ねる魚をむんずと掴んで、予め用意をしていた長細い枝を口から
刺す。
しばらくすると完全に魚が動かなくなったので、もう一度しっかり綺麗に刺し直した後に、魚を火に当てた。




