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ゴブリンでよくない?

「貴方はゴブリンくらいが丁度いいんじゃないですか?」


 なんだとこのクソアマぶっ○すぞ。


 いけないいけない、つい言葉が汚くなってしまった。

 でもそれはそうだろう、先程会ったばかりの女にここまで言われたら誰でもキレると思うんだ。


 ゴブリン、物語とかに出てくる醜悪な化け物。

 確か分類上は妖精のはずだが、大抵は人間の敵として出てくる。

 俺の知る限りだと、更にゴブリンで強いのいうのは聞いたことがない。

 ほとんどがに一般的な成人男性よりちょっと弱い(・・)くらいか、よほど優秀でも突然変異して低級な魔法が使えるかもしれないぐらいの強さしかなかったはずだ。

 もうちょい強い種族としてオークみたいなのがいて、だいたい俺の大好きな本に女性の騎士とセットで出てくる。

 言葉を選ばず言ってしまえば雑魚モンスターであり、モブである。

 戦い方としても、基本は一人に対して集団で襲い掛かるイメージなのだが、知能が低いことが多く、まともな連携も取れず、逆に無双されて相手を気持ちよくさせるだけで終わってしまうことが多い。

 無双後に実は打ち漏らした一匹が不意打ちで突然背後から襲い掛かるタイプもある。

 それも大抵「バレてないとでも思ったのか?」というイケメンな強者にだけ許されるセリフで唐竹割りされて無惨な姿で塵と消える。


 俺は別に前世でこれといって悪いことをしたわけでもない。

 中学校を卒業後、同期が働き始める者がいる中で親の脛を齧って高校、大学まで行き、文科系のこれといって特に目立った活動はしていない、男ばかりで華もないサークル活動でぼんやりしていたら就職活動の始まる時期になってしまった。

 仕方なく「君は即戦力だ!」といって面接して5分で内定した企業に就職したら、非常に残念なことにブラック企業で、ちょっと体調管理ミスって過労で死んだだけの話だ。


「特に目的もなくいたずらに時を消費し、緩やかに負の方向へ進んでいるのにも関わらず、現状を変えようともせず甘んじて、最後には使い潰されて終わる人生」


 まぁ極端に言ったらそう表現されても仕方がないかもしれんが、別に構いやしないだろう。

 殆どの人間が特に人生で何かを成せるわけでもない。

 酷けりゃ他人に迷惑をかけまくった上にロクな死に方をしない。

 だったらいいじゃねえか、俺は十分に善良な人間だろ。


「貴方がした唯一の善行は、その生産性のない遺伝子を後世に残さなかったくらいではないでしょうか」


 そろそろ女でも容赦しないラインだぞオイ。


「ダーウィン賞じゃないですか、おめでとうございます」


 どうしてこんな理不尽なことを言われて俺が必死に我慢しているかというと、先程も話したが死んでしまったからだ。

 死んだという事実に気付かず、やべえ早く仕事場に行かなきゃと辺りを見回してからこの女の存在に気付いた。

 どうやら死後の世界に来てしまったらしい俺は、自分を天使だとか名乗る痛々しい女の話を聞いているというわけだ。

 しかしこの天使、非常に口が悪い。

 現状で頼れる人間がコイツしかいないからこそ我慢しているのだが、そろそろ本当に手が出そうだ。


「まぁ貴方がなんと言おうと、私は貴方をゴブリン以外にする気はないですし、貴方もそれ以外になれるほどの力はありません」


 そこをどうにか、その、人間でいいんです。なんの力もないボンクラでいいんですよ。


「ボンクラを支える周りの身にもなってはいかがですか?」


 本当にひどいと思う。

 俺は頭はそこまで良くないが、いや、良くないからこそ、そういう優生思想じみた考えは非常に良くないと思うんだ。

 他人に、ましてや天使に説法するほど高尚な人間ではないが、人間を人間たらしめるのは例えそれが社会的には弱者であっても、支え合いながら集団として生きていけるところだと思うんだよね。

 身体的欠損とか、精神面で問題があるやつっていうのは絶対に一定数生まれてくるわけで、そういう奴は社会の邪魔だから要らないっていうのはマジで獣の考えだと思うよ。

 本人だってある程度必死に生きてるわけだし、全肯定する必要なんて勿論無いんだけど、正しいことをしたら一緒に喜ぶ、間違ってることをしたら諭す。

 これが出来るのが人間だと思うんだよね。


「そうですか、今日初めて貴方から良い話を聞けたかもしれませんね」


 でしょう?


「じゃあゴブリンに転生させますので準備のほどをお願いします」


 待って。


「私も忙しいんですよ、早くしてください」


 ねぇ、俺の話聞いてた?

 聞いてたんだよね?

 良い話してたとも言ってたよね?

 なんでそれなのにまだゴブリンなの?


「今の話を貴方ではなく、その通りに生前行っていた人物がしていたのであれば分かりますが、別に貴方は社会的弱者を手伝う立場であったわけでもなく、ただ努力しなかった人間です」


 いやそれは言い過ぎでしょう。

 俺だって真面目に仕事してたよ?

 確かに親には凄い金銭面で苦労させたかもしれないけど、最終的には自立して、少ない給料でどうにかやりくりしたわけだし。

 仕事もそんな言いにくい仕事でもない、まっとうにお天道様の下歩けるやつだったし。


「ただ目的もなく、なるようになるだろうと人生を過ごし、自分からは進んで行動せずに、ただ食う為に働いた」


 それでいいじゃん、何がいけないの?


「えぇ、私もそれでいいと思いますよ。だからゴブリンでもいいじゃないですか」


 数秒の間があった。

 だからゴブリンでもいいじゃないですか?

 そうか、別にゴブリンでもいいのか。

 どうしても人間より下っていう前提で俺はゴブリンのことを考えていたが、確かにコイツの言う通り、俺の人生ゴブリンでもいいのかもしれん。

 確かに人間って色々めんどくせえもんな、世間体とか考えなきゃいけないし、そのせいで自分の別にやりたくないこともやんなきゃ生きていけない気持ちになるし。

 あー、待って。


 普通にいいかもしれん、ゴブリン。


「でしょう? 改めて言いますよ、貴方はゴブリンくらいが丁度いいんじゃないですか?」


 そうですね、丁度いいかもしれません。ゴブリンくらいが。


「じゃあ転生の準備をしますので、そこの魔法陣の上で目を閉じて頂けます?」


 そう言われて天使に指さされた魔法陣の上に俺は移動し、いそいそと普段寝るときのようにベストポジションを探しながら目を閉じた。


「それではゴブリンの人生も楽しんでください」


 天使の女は、今日一番の優しい声音で、そう俺に囁いた。

 あぁ、なんか俺が勝手にバイアスを掛けてただけで、別にこの女は淡々と事実をいつも通りに言ってただけなのかもしれない。

 もし機会があるのなら、今度はこの女の言葉を、もう一度だけ本当に俺に寄り添ってくれるカウンセラーという前提で聞いてみたい。

 そんなことを考えていると、俺は体が宙に浮かぶのを感じた。

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