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童話達

魔女のおばあさんと魔法の鏡

作者: 彩葉

お子様に読み聞かせられるお話を意識しております。

 ある町外れの小さな家に、魔法の鏡を持った魔女のおばあさんが住んでいました。


 魔法の鏡はふしぎな鏡。


 持ち主が望むものを何でも映し出してくれるのです。


 魔女のおばあさんは魔法の鏡を前にしてこう言います。


「ふしぎなふしぎな魔法の鏡。今、大根畑の主人は何してる?」


 魔法の鏡が大根畑の主人を映し出します。


 大根畑の主人が木陰でスヤスヤ、グウグウ、お昼寝している姿が見えました。


 魔女のおばあさんは「ふぇっふぇっふぇっ」と笑い、今度はこう言います。


「ふしぎなふしぎな魔法の鏡。今、パン屋の女将は何してる?」


 魔法の鏡がパン屋の女将を映し出します。


 パン屋の女将がお店の裏でコッソリ、コソコソ、つまみ食いをしている所が見えました。


 魔女のおばあさんは「ふぇっふぇっふぇっ」と笑い、今度はこう言います。


「ふしぎなふしぎな魔法の鏡。今、時計屋の娘は何してる?」


 魔法の鏡が時計屋の娘を映し出します。


 時計屋の娘は図書館に勉強しに行くフリをして、ちゃっかり、しっかり、遊んでいるではありませんか。


「これはこれは、愉快、愉快」


 魔女のおばあさんは「ふぇっふぇっふぇっ」と笑いながら町へと繰り出します。


 そして町のみんなに声をかけて回るのです。


「おやおや、大根畑の主人。仕事中に昼寝とは、感心しないねぇ」


「おやおや、パン屋の女将。つまみ食いとは、呆れるねぇ」


「おやおや、時計屋の嬢ちゃん。勉強するフリして遊ぶなんて、良くないねぇ」


 町のみんなはビックリ仰天。


 誰も知らないはずの秘密がバレてしまうなんて、誰だってイヤですよね。


 秘密を言い当てられた町のみんなはすっかり困ってしまいました。


 しかし、魔女のおばあさんにどれだけ「秘密を覗くのはやめてくれ」とお願いしても止めてくれません。


 それどころか「ふぇっふぇっふぇっ」と笑って、文句を言った人の秘密を言ってのける始末なのです。


 こんな事ばかり繰り返すので、とうとう魔女のおばあさんは町から追い出されてしまいました。



「ふぇっふぇっふぇっ。引っ越しじゃ、引っ越しじゃ」



 魔女のおばあさんは町から少し離れた森に住み始めました。


 リス、ウサギ、クマ、サル、イノシシ、トカゲ──森には沢山の動物たちが住んでいます。


 魔女のおばあさんはいつものように、魔法の鏡を前にしてこう言いました。


「ふしぎなふしぎな魔法の鏡。今、タヌキの旦那は何してる?」


 魔法の鏡がタヌキの旦那を映し出します。


 タヌキの旦那はゴロゴロ、ダラダラ、奥さんの目を盗んでぐうたらしている姿が見えました。


 魔女のおばあさんは「ふぇっふぇっふぇっ」と笑い、今度はこう言います。


「ふしぎなふしぎな魔法の鏡。今、リスのじいさんは何してる?」


 魔法の鏡がリスのじいさんを映し出します。


 リスのじいさんが他の動物たちのねぐらから、コッソリ、コソコソ、木の実を盗み出している姿が見えました。


 魔女のおばあさんは「ふぇっふぇっふぇっ」と笑い、今度はこう言います。


「ふしぎなふしぎな魔法の鏡。今、ネズミの坊やは何してる?」


 魔法の鏡がネズミの坊やを映し出します。


 ネズミの坊やはガジガジ、ポリポリ、森のみんなが大切にしている大きなモミの木をかじっているではありませんか。


 魔女のおばあさんは「ふぇっふぇっふぇっ」と笑いながら森を歩きます。


 そして動物たちに声をかけて回るのです。


「おやおや、タヌキの旦那。奥さんにばかり働かせるとは、感心しないねぇ」


「おやおや、リスのじいさん。木の実ドロボウとは、呆れるねぇ」


「おやおや、ネズミの坊や。みんなのモミの木にイタズラするなんて、良くないねぇ」


 森のみんなはビックリ仰天。


 誰も知らないはずの秘密がバレてしまうなんて、動物たちだってイヤなのです。


 秘密を言い当てられた森のみんなもすっかり困ってしまいました。


 しかし、魔女のおばあさんにどれだけ「秘密を覗くのはやめてくれ」とお願いしても止めてくれません。


 それどころか「ふぇっふぇっふぇっ」と笑って、文句を言った動物たちの秘密を言ってのける始末なのです。


 こんな事ばかり繰り返すので、とうとう魔女のおばあさんは森からも追い出されてしまいました。



「ふぇっふぇっふぇっ。また引っ越しじゃ、引っ越しじゃ」



 魔女のおばあさんは森から少し離れた小さな洞窟に住み始めました。


 洞窟は静かです。


 人も動物も誰もいません。


 魔女のおばあさんは「ふぇっふぇっふぇっ、ヒマじゃ、ヒマじゃ」と笑いながら、魔法の鏡をゴシゴシ、キュッキュッと磨いて過ごすようになりました。


 おかげで魔法の鏡はいつもピッカピカです。




 そんなヒマな日がしばらく続いたある日。


 町では大変な事件がおきていました。


 なんと町長の孫娘さんが居なくなってしまったのです。


 まだ小さな孫娘さんは一人で遠くに行けません。


 心配した町のみんなが必死になって探しますが、どこにも見つかりません。


「一体どこに行ってしまったのだろう」


「誰かに(さら)われてしまったのかもしれない」


「もしかしたら、あの魔女が誘拐したのかもしれないぞ」


 町のみんなは心配したり怒ったり、大騒ぎです。


「こうしちゃいられない。今すぐ確認しに行こう」


「魔女は確か、森に住んでいるはずだ」


 町のみんなはゾロゾロ、ガヤガヤと森に向かいました。



 さて、ちょうどその頃、森でも事件がおきていました。


 ヤマネコの兄弟が居なくなってしまったのです。


 まだ小さなヤマネコ兄弟も、二匹だけでは遠くに行けません。


 心配した動物たちが必死になって探しますが、どこにも見つかりません。


「一体どこに行ってしまったのだろう」


「誰かに(さら)われてしまったのかもしれない」


「もしかしたら、あの魔女が誘拐したのかもしれないぞ」


 森の動物たちも心配したり怒ったり、大騒ぎです。


「こうしちゃいられない。今すぐ確認しに行こう」


「魔女は確か、洞窟に住んでいるはずだ」


 森の動物たちが洞窟に向かおうと話し合っていると、町の人たちとバッタリはち合わせました。


 町のみんなは魔女のおばあさんが引っ越した事を知りません。


 親切なハトが「魔女のおばあさんは森にはいないよ」と教えると、町のみんなはガッカリしてしまいました。


 町のみんなは森の動物たちに相談します。


「町長の孫娘を知らないかい?」


「魔女が何か知ってるかもしれないんだ」


「今魔女はどこにいる?」


 森の動物たちは口々に答えます。


「孫娘? その子は美味しいの?」


「こっちはヤマネコ兄弟が居なくなってしまったんだ」


「魔女ばあさんなら洞窟に住んでいるわよ」


 町のみんなは動物たちの案内でゾロゾロ、ワラワラと洞窟に向かいます。


 森から少し離れた洞窟は小さくて、薄暗くて、なんだか不気味です。


 ちょっぴり怖くなった町のみんなと動物たちはお団子のように固まって声を上げました。


「おぉい、魔女のばあさん。町長の孫娘を知らないか?」


「ウチのヤマネコ兄弟も知らないかい?」


「隠したりなんかしたら、後でひどいぞ!」


 ヤイヤイ、ガヤガヤと騒ぎ立てていると、洞窟の奥から「ふぇっふぇっふぇっ」と聞きなれた笑い声が響いてきます。


「これはこれは珍しい。客じゃ、客じゃ」


 魔女のおばあさんはゆっくりゆっくり、洞窟から出てきました。


「ふぇっふぇっふぇっ。町長の孫娘も、ヤマネコの兄弟もワシゃ知らんわ」


「本当に本当か? ウソじゃないだろうな」


「ふぇっふぇっふぇっ。ワシゃウソはつかん」


 そう言われたみんなはハッとします。


 確かに魔女のおばあさんには困っていましたが、それは()()()()を言われたからです。


 今まで酷い事をされたり、ウソをつかれた事は一度もありません。


「じゃあ、町長の孫娘とヤマネコの兄弟はどこに行ってしまったのだろう」


「手がかりもないし、困ったぞ」


 町のみんなと動物たちは魔女のおばあさんを囲んだまま「う~ん、う~ん」と頭を抱え始めてしまいました。


 このまま頭を抱えていても、日はどんどん傾いていくばかりです。


「ふぇっふぇっふぇっ。仕方がないねぇ」


 みんなの様子を見かねたのか、魔女のおばあさんが懐から魔法の鏡を取り出しました。


「ふしぎなふしぎな魔法の鏡。今、町長の孫娘は何してる?」


 魔法の鏡が町長の孫娘を映し出します。


 鏡には町長の孫娘とヤマネコの兄弟が仲良くスヤスヤ、眠っている姿が見えました。


 場所はどこかの物置き部屋のようです。


 町長は真っ赤になって悲鳴をあげました。


「なんてこった! これはウチの地下室じゃないか!」


 みんなビックリ大仰天です。


 あれだけ町中探していたのに、まさか家の中に居ただなんて誰も考えつきませんでした。


 森の動物たちも、ヤマネコの兄弟が人間の女の子とお友達になっているとは思いもよりませんでした。


「まさか一緒にお昼寝していただなんて……」


「きっと遊び疲れて寝ちゃったんだろうなぁ」


「とにかく子供たちが無事で何よりだ」


 すっかり安心したみんなは口々に魔女のおばあさんにお礼を言いました。


「見つけてくれてありがとう!」


「魔女のおばあさんとその鏡のおかげで助かったよ」


「本当に良かった、ありがとう!」


 初めて感謝された魔女のおばあさんは、どこか嬉しそうに魔法の鏡を撫でます。


「ふぇっふぇっふぇっ。この鏡を使って礼を言われる日が来るとは、愉快、愉快」





 こうして魔女のおばあさんは町のみんなや森の動物たちと仲直りしました。


 そして再び町外れの小さな家に住む事にしたのです。


「ふぇっふぇっふぇっ。新しい仕事じゃ、仕事じゃ」


 魔女のおばあさんは町の人や、森から来る動物たちから色々な探し物を頼まれるようになりました。


 毎日探し物で大忙しです。


「すみませーん。大切なピンクのリボン、失くしちゃったんです。探してもらえますか?」


「ふぇっふぇっふぇっ。ふしぎなふしぎな魔法の鏡。今、この子のピンクのリボンはどこにある?」



 魔女のおばあさんを訪ねてきた者は皆笑顔で帰って行きます。


「ふぇっふぇっふぇっ。満足じゃ、満足じゃ」


 魔女のおばあさんが誰かの秘密を覗き見する事は、もう二度とありませんでした。




 めでたし、めでたし。

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[良い点] 「ふぇっふぇっふぇっ、引っ越しじゃ、引っ越しじゃ」のフレーズが面白くて癖になりそう。 秘密を覗かれる、言いふらされて後ろめたい気持ちになる、そんな人の心と何にも気にしない魔女の対比が面白く…
[良い点] 動物の世界、事件とワクワクポイントが上がっていって楽しく読めました。ウソはつかないの言葉はみんなと同様にハッとさせられ、秘密を覗くのは悪いけれど、秘密を持った自分も悪いなと感じさせられまし…
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